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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第29話

桐生ナツメ、憤怒の系譜“冷血”として認められ、名乗りを上げて一週間。


「さて……戦力は整った。これで元“慈愛”のナワバリ奪還戦が出来る」


2か月前、暴食の奇襲により奪われた、慈愛のナワバリの奪還。

それをもって、改めて同盟を持ちかける事を条件に、慈愛は保護を受け入れた。


ただ、上級系譜クラスのサイボーグが居る事に加え、合成獣キメラに関しては最高水準をキープする組織“暴食”。

あれから慈愛のナワバリを手に入れた暴食は、その地にあったビオトープを使い合成獣キメラ生産を増やし勢力を拡大させ、対である“知識”を攻撃。

最近では最新合成獣ドラゴンを実戦投入したと言う。


以上を踏まえ、兵力では現状トップに位置しているのが、暴食である。


「元慈愛の勢力のメンバーの居場所は掴んであるし、勢力の盛り返しはココから十分可能。んで、その後は……」

「はい、貴方達と同盟を結びます」

「って、いいのかよ?」

「はい。今なら勇気が憤怒と協力関係を築いた理由、理解できます」

「ほんわかしてそうなのに、随分としたたかだね」

「これでも最強の1人ですから」

「そうかい……じゃあココからの策だけど」


カチャッ!


「それは待ってくれ」

「? ユウ?」



時は過ぎ……


「ケッ! チシキもタイしたコトねえな!」

「うぃ~っ……ポンコツは黙ってろ!」

「ンだとコラぁっ! このシにゾコないがあっ!!」


元慈愛のナワバリを統括するのは、かつて光一とぶつかった2名の上級系譜

……いや、元系譜のサイボーグと、上級系譜。


犬神晃と酒井博

あの後治療を受け、戦線復帰に至れたのだが、それからと言う物犬神との間柄は最悪。


この2人のいざこざに巻き込まれ、重傷を負った者も少なくない。


「で、クオンのモヤシヤロウはまだコねえのかよ!?」

「いえ、来て貰っても困るのですひっ!」


発言した下級契約者の頬を、光の筋が走り……たらりと血と冷や汗が流れた。


「チクショウ! あのヤロウジアイをカクマってからナニしてやがる!?」

「……ぐびぐびっ」

「あれからキズがイえたかとオモえば、ザコとナワバリにばっかメをムけやがって!! こちとらアイツにやられたキズがウズくってのによ!!」

「……どくどくっ」

「てかオレのマエでサケノむなっつってんだろコラ! クセえんだよ!!」

「ンだと!?」


ヴィーっ! ヴィーっ!


「? どうした!?」

「敵襲です!」

「テキシュウ? ヨウヤくキたか! どこだ!?」

「憤怒です」

「カズは!?」

「それが……」



所変わって――


「普段が光一任せだけに、こういう失態の後始末位はしてやらにゃ、組織のボスとして皆に合わす顔ないもんな」


ナワバリの境目にて、ユウは周囲の警備部隊を見回しつつ、肩をすくめた。

……たった1人で。


「さて……大罪が一角“憤怒”、推して参る」


表情を引き締め、背の六連を全て引き抜き、駆けだした。


「うっ、撃て! 撃て撃て!」


警備隊が能力、銃弾などの弾幕をはりつつ攻撃。

そのすべてがユウの刀に斬り裂かれ、弾かれ、その胴体に届かない。


「くそっ! 物質操作や氷結能力者でバリケードを……」

「無駄だ!」


ユウの両腕がグラグラと煮え返るマグマに包まれ、肥大化し始める

やがてそれがユウの何倍もの大きさになると……


「“迦具土カグツチ”」


6本の刀を牙とした溶岩の竜の形をとり……


「うっ、うわああああああっ!!」


バリケードごと境目の防壁ごと、食い破るかのように吹き飛ばした


「さて、思いっきり暴れさせてもらうぞ」


『ギャアアアアッ!!』

『グルルルルルルっ!!』


「よーしよし、いい子だ……路を開けろ!!」



――一方


「ヒトリだと!?」

「はい。確認できたのは、“憤怒”の契約者、朝霧裕樹のみ。ほかは影も形も見えません」

「ボスがタンシンテキのマッタダナカトツゲキだと!? クオンのヤロウは?」

「いえ、確認できておりません。既に半数近くが撃退されてます!」

「ええい、キメラをゼンブダせ! ケイフはゼンインシュウイのケイカイだ!」

「了解!」

「おいサカイ」

「うぃ~っ……わあってるよ」

「ったく……ん?」



――所変わって


「流石は暴食。合成獣キメラの質と言い数と言い、生体技術の最高水準って言われるだけの事はあるな」

「……それを剣で簡単に蹴散らしてるユウも、すごいなんてものじゃないんだけど」

「流石は大将だね。あれに攻撃仕掛けるなんて、ウチもバカなことしたなあ」


その上空にて、クエイクの上で事を見守る光一、宇佐美、新しく“冷血”の契約者として再出発したナツメ。

以上3名が、双眼鏡を使いユウの戦闘の様子を見ていた。


色欲と慈愛に、自分達のナワバリのガードを任せた上で。


「……あれが、戦場」


宇佐美は身体の奥底からわき上がる恐怖に震え、ギュッと手を握りしめる。

戦場の空気、そして遠目だが起こっている事柄。


その中心には自分達を保護し、自分を強くしようと協力してくれる男がいる。

……見た事もない、鋭い目と雰囲気をまとった姿で。


「……大丈夫か? やっぱり今すぐ」

「……もうちょっと待って」

「?」

「大丈夫だから……あたしは大丈夫。だって、もう決めたんだから。あいつの対として生きて行く事は、もう決めた。逃げられない……逃げたくない」

「ならよく見ておけ。あれが宇佐美の対にして、ぶつかるべき男の姿だ」

「……わかった」


「クゥゥゥゥゥウウウウオォォォォォオォォオオオンンンン!!」


「っ! クエイク!」

『Yes! My master!』


突如割り込んできた叫び声と同時に、一筋の光が走る。

クエイクが緊急回避で回避するも……」


「ギャアッハハハハハッ! ミつけたぞ!!」

「げっ! 嗅ぎつけやがったか!?」

「おうよ! さあ、カイゾウでクウセンもカノウになったオレサマに、おマエのそのニクとホネ、クわせやがれ!!」

「クエイク! 逃げるぞ!」

『Yes! My master!』


クエイクが一気にその場を離れると、サイボーグもまた追い掛ける。

ジェット噴射型の飛行ユニットを搭載し、クエイクと同程度の飛行速度で。


「なっ、何あれ!?」

「暴食で開発された変形機構搭載型サイボーグだそうだ。しかもあの姿、どうやらあれから改造が施されたらしいな」

「結構金かかってそうだね」

「元々の開発費用が5億らしいからな……ナツメ、宇佐美のガード頼む」


光一が用意していたアタッシュケースを開き、中からスナイパーライフルを取り出す

それを手早く組み立て、


「よーし、コンドこそマットウなショウブとイこうじゃねえか!」

「撃ち落としてやるよ」




「っ! まずいな、見つかったか!」


ドスンっ!!


「ぎゃおおおおおおっ!!」

「ん? へえっ、これがドラゴンか……よーしいい子だ。大人しく下がって――」

「ゴギャアアアアッ!!」

「……ダメか。まあいい、たまには合成獣キメラ相手のケンカも悪くない」


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