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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第28話

次の日


「えーっと……ココでいいんだよな?」


負の契約者最強の1人、朝霧裕樹ことユウは単身とある地点の公園に出向いていた。

光一のお墨付きだと言う、系譜候補の契約者との待ち合わせの場所へと。


「まだ来てないのか……仕方ない、待つか」


ベンチに座り、来る途中の書店で買ったラノベを開き、ちょっとした休日気分を満喫しつつ、ユウは待つ事に。


ユウの祖父の後継ぎが自分しかおらず、後継ぎ修業が優先とはいえユウとて組織の長。

決して無責任と言う訳ではなく、光一に出来ない事なら率先して動く、位の責任感は持ち合せている。


……ただ、組織運営では光一に出来ない事の方が少ないため、こうなる事はめったにない


「…………はぁっ」


とは言え、ユウの祖父も結構な年の為、そろそろ隠居させたいと言うのがユウと裕香の弁。

一応光一に組織のメンバーも、ユウの祖父には世話になった事があり事情は理解しているが、人が集まるとどうしても考えなしのバカは混ざる物で……。


事情も知らず、ユウを事務仕事を押し付けるだけの戦闘バカと評する者も少なくない。


「……しっかし、遅えな。話受け解きながら人を待たせるって」


ヒュンっ! ――パシッ!


「どういう神経してんだか?」


ユウは文句を言いつつ、ラノベを読み進める。

――自分の頭の後ろから飛んできて、弾いたものにも反応せず。


「ぷっ……くくくっ」


ブンっ! ――ガンッ! ドスンっ!!


「コレ当たりだったな。シリーズでたら買うか」


今度はギロチン型の刃がユウの脳天へと襲いかかるが、ユウは難なく片手で薙ぎ払い、地面に鈍い音が響く。

気に賭けた様子もなく、ユウは刃を殴った手でページをめくり、ラノベを読み進めて行く。


「ふむふむっ……」


ガシャッ! ――バキッ! ガランッ!


「へえっ」


次は大鋏がユウの喉めがけて襲いかかるが、両の刃が一瞬でへし折られ地面に落ちる。


ザッ……ザッ……ザッ……


「ん? 漸く来たのか? 待ちくたびれたぞ」

「……流石、世の均衡を支える1人にして、時代の中心に立つ男、と言ったところかな?」


やってきたのは、光一やユウと同い歳程度の少女。

髪を後ろで団子型にまとめ、かんざしをさした髪型で、服は胸元を露出させる様な着こなしのYシャツで、下はデニムのスカート。

手には一本の鉄の棒があり、その長さは少女の背を超え、太さは少女の腕の太さ位ある。


「はじめまして、ウチは桐生ナツメ」

「俺は朝霧裕樹。ユウって呼ばれてるから、そう呼んでくれ」

「わかった。それにしても、流石は大罪。ウチの攻撃が一切通用しないとはね」

「?」

「……しかもそれが無意識って。あの久遠が従うだけのことはあるってことか」


これでもユウは、世を動かす14人の1人。

常に危険にさらされる立場ゆえに、自然と無意識迎撃が出来るに至っていた。


「……まあいいや。何か攻撃してみて?」

「……なんか釈然としないけど、わかった。ふふっ」


スイッチが入ったのか、ナツメは口元を歪め冷徹な笑みを浮かべ始める。

舌舐めずりをし、鉄の棒を振り……それが液体のようにうねり、のこぎりとなってユウに襲いかかった。


「へえっ、金属操作か。成程、これなら量産型じゃ役不足だな」


ユウが向かってくる鉄の棒に手を上げ、受け流そうと……


ベチャっ!


「金属だからって固体とは限らないよね?」


触れた途端液体となり、触れた腕を包み固まってしまった。

それも、完全な個体として


「その通り。だけど……」

「え?」


ナツメが自分の手元を見て、ぎょっと目を見開いた。

自分の鉄の棒が、まだ操作してないと言うのにうごめき、ナツメの手を拘束し始める。


「そっそんな!?」

「生憎、俺は合成能力系の契約者なんでね。能力の競合になれば、サブといえど大罪相手に量産型のカスタム程度が勝てる訳ないだろ」


契約者の能力は、演算領域を配分する事により複数手に入れる事が出来る。

能力と能力を併せ造られた能力を合成能力と言い、それを使う契約者を合成能力系契約者と言う。


ユウの能力は発火能力をベースとし、他の能力を組み合わせてマグマを生成する噴火能力へと昇華。

その中には、ナツメと同じ物質操作も含まれている。


「とはいえ、確かにカスタムじゃ役不足か。良いぜ、合格だ」

「やった!」


ぐっと拳を握りしめ、ガッツポーズ。


「後は、契約できるかどうか、か……一先ず脳波測定の後、かな?」

「ん、了解。じゃあこれからよろしくね、ボス」



――所変わって


「なっ、何するんだ!?」

「うるせえ、よこせ!!」


とある地点の難民キャンプ。

我慢を強いられる難民たちは、次第に荒れ始めていた。


「それは私のがふっ!」

「うるせえクソオヤジ! 俺に指図すんじゃねえ!!」

「ちょっとお、カズー。そんなのほっといてさっさと食べようよ」

「だな。おいおっさん、文句なら俺より強くなってからか、こんなクソみてえな場所しか提供しねえここの責任者に言えってん……」


ゴキっ!


「がはっ!」

「配給の量は決まっている筈だ」

「あっ……ありがとうございます」

「テメ……ぶっ殺されてえのか! コ……ラぁ?」

「すまなかったな。こんなクソみたいな場所しか提供できなくて」

「「…………っ!!?」」



ドカッ!!


「がっ!」

「きゃっ!」


ギィィィイイっ! バタンッ!!


「ちょっ、おい! 待てよ!!」

「嘘でしょ!? ねえ、開けてよ!!」

『グルルルルルルッ!』

「ひっ! ……かっ、カズゥッ……!!」

「おっ、おい! 開けてくれ! 助けて!! 入れてくれよォッ!!」

『ぐわぁぁぁああがぁぁあああぁぁっ!!』


『ぎゃああああああああっ!!」


「たまに来てみれば……監視位しっかりやれ。難民キャンプを設置したのは、あんなゴミをのさばらせる為じゃない」

「もっ、申し訳ありません!!」

「難民代表を呼べ。キャンプの脱退希望が“2名”でた為、その分の予算をどこに回すかの意見を聞いた後、それを伴い設備と待遇の調査も行う」

「はっ、はい。では直ちに」


場は“傲慢”のナワバリの難民キャンプ。

ある程度の要求こそ通り、待遇もそれなりの物だが……この日を境に、怯える日々を過ごす事となった。


「白夜様、報告です!」

「ん? ……憤怒が蒼雷の九蛇を傘下に取り込んだか。そして……成程な」

「?」

「何をボサッとしている?」

「すっすみません!」

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