第27話
「蒼雷の九蛇は傘下に降ったか」
「ああっ。それと明日辺りに会って欲しい奴がいる」
「おっ、系譜候補が見つかったか?」
「待ちに待った、な」
「光一のお墨付きか。会うのが楽しみだな」
蒼雷の九蛇との提携が終わった次の日。
光一はユウに、事の顛末を報告を……。
「――で、今回は何があった?」
「妙な情報を手に入れた」
ユウの家の工房で行っていた。
「妙な? ――どんな話だ?」
「? ――フォールダウンの襲撃で、妙な事でもあったか?」
「……お見通しかよ。実は」
ユウは昨晩あった、フォールダウンの妙な暴走の件の顛末を話し始めた。
無人機仕様の駆動鎧に、何体かの戦闘用ロボット
そして、能力と併用することで機能を発揮する武器。
それらが全て、とてもフォールダウンのような組織が量をそろえられる質じゃあない事。
「そこまでなら、大して変わらないな。それで?」
その相当が終わった後、1人のフォールダウンがユウの前に。
ユウが降伏勧告をしようとした途端、急に狂ったように笑い始め、発狂したかのような状態で襲いかかり……
まるで系譜に匹敵するかのような威力の能力を、無差別に使用。
ユウが取り押さえようとした時……
「身体が爆散して、血と内臓の雨だったな」
「……緘口令はしいたか?」
「当然だ」
流石に負の契約者があちこちで暴れてる中で、憤怒のナワバリ付近で人が爆散。
なんて風評が立てば、世の中どう動くかわかった物ではない。
「……俺が聞いた話の中でも一番ひどいじゃないか」
「どんな話を聞いたんだ?」
「いきなり上半身が吹っ飛んだり、発狂して意識不明、もしくは植物状態に陥ったり、中には脳死ってのもいるらしい。それも原因が不明と来てる」
「じゃあもしかしたら……」
「! 何か見つけたのか!?」
「ああっ、そいつが使ってたらしいブレイカーがあったんだ。2つ」
「2つ?」
本来ブレイカーは、複数契約を行う事は出来ない。
ブレイカーとは感情を経由して人の脳とリンクし、超人的な力を与える演算装置。
「基礎的な話になるけど、ブレイカーが条件とする一定の強さの感情を経由し、脳とブレイカーをリンクさせる事を契約と言う」
「ああっ。ただしそれだけでは仮契約、本契約は送受信装置を神経に直接つなぎ、インプラントする事でその力を十分に発揮する」
「ただし、これはまともな身体で扱う事が前提での話だ。ブレイカーをサイボーグが使えない事例があるけど、これは恐らく機械的な電気信号が生体の神経に流れ込んで、ブレイカーとの同調を妨害しているだろうと、俺は推測してる」
光一がサイボーグを前提に考えた推測で言うと、ブレイカーの複数使用は不可能。
ブレイカーとて神経に直接作用するものである以上、サイボーグとさして変わらない。
「ブレイカー自体は?」
「一般に出回ってる量産品と、さして変わらねえってよ」
「送受信装置は?」
「暴発の時に吹っ飛んだのか、影も形もない」
「……もしかして、無理やり複数契約を執行する技術を、どこかが造り出したのか? だとしたら、実験動物として使う為に下級契約者の流通ルートを利用するために、横流しを装って? ……やっぱ情報が少ないな。すぐに流通ルートを、傘下と近くの小組織に依頼して調査させないと」
「……つくづくすまないな?」
「? 組織の為に出来る事をやってるだけで、なんで謝られる?」
なんだかんだで、いいコンビだった。
「一先ず境目の警備なんだけど、下級系譜の配置を増やした」
「……おい、そんなレベルだったのか?」
「ああっ、あれじゃ下級契約者だと対応できない」
「……ナワバリ拡大したの失敗だったかな? じゃあすぐに境目の警備のシフトを見直そう。それでユウ、明日だけど……」
「流石“蒼雷の九蛇”のボスだけあるな。まさか光一の……」
「いや、そこで雇った流れ者の契約者だ。一応顔合わせたけど、上級系譜の素質あり」
「光一がそう言うんなら、あってみる価値はありそうだな。わかった」
それから細かな話をして、仕事の話は終了。
「とにかく、境目の警備、ナワバリの内情整理、流通ルートの調査、傘下に加えた組織の教育……忙しくなるな。提携先に人材派遣してもらおうかな?」
「…………(じーっ!)」
「「……」」
ふと感じた視線に、そーっと2人は顔を向ける。
「……みやちゃん、なんでここに?」
「たいくつだからきたのですよー、くおんくん。ごしんぱいなくー、みやちゃんくちはかたいのでー、だれにもいわないのですよー」
「どこから居たんだ??」
「そうらいのくじゃはーってところですよー、ユウくん」
「「最初からかよ!?」」
大罪きっての武闘派のユウに、その系譜の光一相手。
それで今まで気づかれず、というのは契約者から見ればびっくり仰天の物。
「それにしてもー、ユウくんがちまみれでかえってきたのはー、そういうことだったのですねー」
「……おいユウ」
「いや、だって仕方ないだろ!? 血まみれでそこらの銭湯や部下の家に行く訳にも……」
「そりゃそうだけど……」
「しんぱいしなくていいですよー。みたのはみやちゃんだけですしー、そのじかんみんなはごはんのじゅんびしてましたからー、ユウくんのことはだれもみてませんよー?」
光一とユウは、顔を見合せてほっと一息。
流石に内容が一般人にはヘビー過ぎて、あまり知られては良い気分もしない。
「……てか、よく平気だな?」
「へいきじゃないですよー。でもリーダーはゆさみちゃんですがー、みやちゃんおねえさんなのでー、おちついたこうどうをとらないといけないのですー」
「「…………いや、それでも内容的にアウトだろ」」
「……なんでいようにー、まがおおいのですかー?」
高嶺京、身長136cm
「それにー、ここすうかげついろいろなことがありすぎてー、かんかくがまひしたのかもしれないのですー」
「……ごめん」
「いえいえー、ユウくんはみやちゃんたちをー、わるいひとたちからたすけてくれたうえにー、せいかつのほしょうをしてくれてるおんじんですからー、うらむのはおかどちがいですよー」
「こういう所は大人だなあ。普通は俺達に罵倒の1つじゃすまないだろうに」
光一もユウも感心したかのように、京を見る。
「……なあみやちゃん、ウチの組織来ない? 是非俺の補佐にうわっ!」
いきなり光一の胴に、幾本もの蔦が絡みつき釣り上げ……
「お帰りダーリン。寂しかったぁ~っ!」
「むがーっ!」
月の胸に頭を抱きかかえられる形で抱きしめられたと言う、お約束の光景が展開された。
「なっ、何やってるんですか!? 不潔です!」
「何って、スキンシップだけど……ふーん」
「なっ……何ですか?」
抗議した歩美を、興味深そうな目で見る月。
そして納得したように頷くと……。
「うん、合格」
「え? 何がです?」
「……なんでもないわ。それより、あなたもやる?」
「むがーーーっ!!」
「ひぇっ!!?」
月が歩美を手玉に取る光景に、ユウも京も唖然とする。
――色々な意味で。
「ぷはっ……」
「ちょっと光一、仲がいいのはわかるけど見せつけるのはどうかと……」
「いや、俺の身体を縛ってる蔦見てから言ってくれ!」
ココ2ヶ月で妙な動きもないという光一の判断により、月は最近ちょくちょくユウの家に遊びに来る事を許可されていた。
その関係で宇佐美たちとも仲良くなり、最近は5人で街に出る事も多くなっている。
「……もうっ、月さんったら相変わらず」
「ふんっ……不潔な」
その後ろには、こちらで保護してる“慈愛”の契約者、水鏡怜奈。
そのそばに控える不機嫌さ丸出しの男装少女は、慈愛の系譜“敬愛”の契約者、黛蓮華。
彼女たちも宇佐美が“自分以外の“美徳”と話がしたい“と言った事で、こうして出向いている。
「……こんな汚らわしい所、来たくもなかった」
「相変わらず言ってくれるな」
「蓮華ちゃん。今はお世話になってる身よ? 礼儀を軽んじてはダメ」
「……ちっ!」
舌打ちをして、蓮華は後ろに下がる。
「あの、蓮華ちゃん。ユウ達はそんな嫌悪する様な……」
「何も知らない新参者が偉そうに……」
「蓮華ちゃん!」
「……申し訳ありません」
「やめとけ宇佐美。正と負の間柄は普通こうであって、俺達の方がおかしいんだ」
「ごめんなさい。お世話になっていながら」
怜奈が頭を下げる後ろで、苦虫をかみつぶした顔でにらみつける蓮華。
特に光一に対し、今にも射殺さんとする視線をぶつけ続ける。
「それで、どうだった宇佐美?」
「兄さんから聞いた通りの人だった」
「一条宇宙さん……惜しい人を亡くしたわ」
「できれば、兄さんの他の事も教えてもらいたいんですけど……」
「ええ。喜んで」
撃ち解けてる様子を見て、光一とユウはほっと一息。
宇佐美は美徳の1人であって、本当に馴染むべきは同じ美徳。
本当は自分たちが保護する事自体が間違いだと、理解はしていただけに。
「宇佐美、今日は泊まって行くから一緒にお風呂はいらない? (花柳月、99のG」
「あら、いいですね。でしたらワタクシも (水鏡怜奈、95のF)」
「じゃあ、皆で入ろうよ (一条宇佐美、96のF」
「なあ光一」
「なんだ? 俺もう帰るから、手短にしてほしいんだけど」
「……今日泊めて? さすがにこれじゃ落ちついて仕事も何もできないから」
「……大罪と美徳が3人だもんな。ここら一帯どころか街そのものが吹き飛んでもおかしくないか。はいはい、わかったよ」
「みやちゃんもー!」
「普通にダメ」
「こんなおっぱいオバケのそうくつにおいてかないでください~!」
「「「「「「おっぱいオバケは酷いでしょ(です)!」」」」」」
「…………(ぺたぺた)」
「ん? 何やってんだ黛?」
「うっ、うるさい!!(76のA)」




