第25話
世の中、大罪や美徳以外の契約者の組織も、小規模ながら存在する。
均衡が崩れた事で暴れ出した負の契約者達や、それを抑えようとした正の契約者。
そして正の契約者からあぶれた契約者の集団“フォールダウン”の様に、契約者の組織は戦闘集団が主流だが、ブレイカーの特性上それ以外も存在する。
手作りのアクセサリー類(当然そこらのより上質)を扱う露天商。
自分達の店を持って、オリジナル商品を扱う商店。
企業のお抱えとして研究開発を行う研究チーム。
自分達のナワバリを持ち、自立した組織。
委託で仕事を受ける便利屋系。
中には正と負に拘らない組織もあれば、それらに拘りリンチに及ぶ暴力的な組織(当然正と負に関わらず)もある。
基本的に契約者社会の世の中、小組織といえど重要性はそこらの企業の何倍もある。
世を混乱に陥れる戦争を行っているのは契約者だが、契約者に縋らねば生きていけないのがこの時代。
恩恵こそ多大ではあっても、世を乱す元凶に一般人達は嫌悪感を拭えないが、決してその嫌悪感は意味を持つ事はない。
「“竜の爪”、“金色の獅子”……確かに戦力としては使えるけど、やっぱり系譜の器なんてそうそういないか」
そんな世の中で光一はため息をつきつつ、傘下に組み入れた組織の割り当てを考えつつ、併合したばかりのナワバリの街を歩いていた。
戦力として使う為と、自分以外の系譜の増強のため。そして……
「……やっぱりあちこちで不満が多いな。その辺りのケアを上手くやらないと」
新しくナワバリとして組み入れた街の統制の案について。
元々平和に暮らしていたと言うのに、契約者の騒乱が激化した所為で街は壊されケガ人は多数、死人も何人も出ているのが現状。
増してや、世を乱した元凶“憤怒”とくれば反発も強く、現地担当者から何度も救援が求められていた。
今光一が出向いているのも、その辺りが起因している。
「うーん……」
更にそのナワバリ周囲の契約者達も、奇妙な動きを見せているという報告。
今憤怒は色欲と同盟を組み、庇護下に美徳2名を置いている状況。戦力としては現状最大の組織が動くと言うのは、戦々恐々の状況の地盤としては十分な代物。
増してやこれほど急速な変化等、ついてこれる人間の方が少ない。
「……出来れば早いうちにめぐり合いたいもんだけどな」
憤怒の組織には上級系譜は光一のみで、他は全員下級系譜。
その中に、上級の兆しを見せる者は現状居ない。
そもそも系譜自体が誰でもなれる訳ではない。
契約条件が確立されており、それが一定の強さを持っていなければ起動はせず、更に大罪や美徳に近い性能を発揮する故に、使いこなす事も難しい
更に素質はあっても、系譜のブレイカー自体が大罪や美徳のブレイカーを基に造るため、それらの配下にならねば手に入らない。
「……次の候補は、どこにする……ん?」
ふと聞こえた、エンジンの駆動音
それは車の物ではなくバイクのそれで、しかもそれが複数こちらに近づいている。
この時代でも暴走族は存在する。
それも一般人のそれよりも性質が悪い……
バイクを使った戦闘を得意とする契約者の集団が。
「っ!」
複数のバイクが光一めがけて走り、前輪を振り上げ襲いかかる。
光一がそれをよけると派手にタイヤの摩擦音を響かせ、攻撃を仕掛けたライダー3人は光一に向き直る。
「何の真似だ?」
光一が問いかけると、3人のリーダー格がフルフェイスのヘルメットを外す。
現れたのは、頭をソフトモヒカンにした無精髭の目立つ男の顔。
「憤怒の系譜、残虐の久遠光一だな?」
「だったらどうした、“蒼雷の九蛇”?」
「「「っ!」」」
「いや、偽装位しろよ。この近くでそんな金かかってそうなバイクを何台も持ってるの、“蒼雷の九蛇”だけだろ!」
負の契約者集団“蒼雷の九蛇”
バイクのライダー、整備を生業とし、搬送から戦闘までを幅広くこなすことで名の知れた組織。
雇い主を持たず委託で仕事を受けていたが、均衡が崩れてからは自分達のナワバリを持ち、勢力を率いる様になった発展途上で、光一も接触を考えていた組織の1つ。
「……それで、何の用だ?」
呆れた光一が問いかけると、ソフトモヒカンの男はヘルメットをかぶり……
「簡単な話だ!」
エンジンが排気音を鳴らし、再度光一めがけて3台のバイクが走りだす。
「あーはいはい」
その様子で光一は理解したように頷くと、ポケットから6個のベアリング弾を取り出す。
それを電気の込められた親指で弾き、その指弾は……
「うわっ!」
「げっ!」
「うあっ!」
音速にややとどかない速度で、それぞれのバイクのエンジンに命中。ガソリンに引火したのか爆発を起こし、3人のライダーが爆発で飛ばされ光一の足もとに転がる。
「悪いな。“蒼雷の九蛇”の話聞く限りじゃ、タイヤ撃ち抜いた程度じゃ止められそうになかった」
「ぐっ……」
「すぐに治療はさせる。ただし……」
「……アンタ達、何を狙ってか負の契約者に攻撃を仕掛けては、その都度傘下に加えてはナワバリを横取りしてるだろ? ウチもナワバリを持った組織だ、黙ってる訳にはいかなかったんだ!」
「……事情はよくわかったが、舐めてくれるな」
実情、憤怒の組織は実質光一が纏めている以上、光一を失えば組織は瓦解しかねない。
しかし光一は上級系譜であり、量産ブレイカーしか持たない小組織のメンバーでどうこうできるレベルではなく、明らかに自殺行為。
「……まあいい。お前らの頭に取り次いでもらえるか?」
「いっ、嫌だ! 俺達だってリーダーを尊敬して“蒼雷の九蛇”に入ったんだ。そのリーダーを売るなんて出来るか!」
「誰が売れっつった? 交渉の場を設けるから、説得しろってんだよ。そうすればバイクの弁償だってしてやるし、今回の事も不問にしてやる」
「……何を要求する気だ?」
バイクの弁償で揺れたが、事が組織となるとそうもいかない。
リーダー格の男がいぶかしむ様に、光一に問いかける。
「“蒼雷の九蛇”を憤怒の傘下に加える事と、ナワバリを明け渡す事」
「ふざけんな! それを阻止するために来たんだろうが!!」
「話は最後まで聞け。こちらからは資金と新素材の提供で、お前らのリーダーの力量次第じゃ系譜のブレイカーもくれてやる。まあそうなれば、ある程度の待遇も保証できる」
「けっ、系譜……!」
契約者のレベルは、量産型を使用する事前提で大きく分けて8つある
契約したばかりの初心者のレベル0
量産型の扱いに慣れたレベル1
レベル1で頭一つ飛び抜けた段階のレベル2
カスタム仕様のブレイカーを扱えるレベル3
小組織の頭が出来る段階のレベル4
以上が、基本的に世に出回っている量産型で出せるレベル。
そしてここからが系譜のブレイカーを使用した、契約者の中でも選ばれた存在の領域得あり、レベルの1つが大きな差を持ち始める
下級系譜をレベル5で、上級系譜をレベル6
契約者の頂点、大罪と美徳がレベル7
大まかに分けるとこんな感じだが、細かな分類で言えば更に段階が存在する。
そう言う意味でも、契約者にとって系譜のブレイカーを持つと言う事は一種のステータスであり、憧れでもある。
余談だが宇佐美は勇気のブレイカーと契約したとはいえ、契約者のレベルで言えばまだ5程度でしかない。
「おっ、おい。それ、本当か!?」
「ああっ、本当だ」
「リーダーが、系譜に……わかった、仲介はする。ただ、リーダーが断ったからって」
「わかってるよ。そっちの出方次第だけど、攻撃も侵略もしない」
「なら、ちょっと待ってくれ」
「……これだけ部下に慕われてるとなると、ある程度は期待できるな。さて、どう転ぶ?」




