第22話
「いかにタンソカコウといえど、オレサマのレーザーにはタえられないヨウだな!」
レーザーで撃ち抜かれた肩を抑え、ギリっと食いしばりつつ光一は相手を睨む。
戦意は衰えていない――そう宣言するかのように。
「確かにびっくりしたな。近づいて噛みつくしかないお前が、まさか遠距離攻撃だなんて、ちっとは脳みそ進化したか?」
「ケケケッ。テメーにゃサンザンこのテのコウゲキでアシラわれてたんで、イシュガエしってヤツだよなあ!」
「はっ、俺と撃ち合いか? 笑わせんな、二番煎じ」
「ガルルルルルルルルッ!!
威嚇する様に唸り、前かがみの体勢となり、地面を爪で擦りタイミングを計り始める。
ポタポタと肩から滴り落ちる血を凝固させる間もない状況。
如何に状況を打破するか……相手を見据えつつ、それを考える。
ドンっ!
「ん? ……そっちも苦戦か?」
「そちらこそ……肩は大丈夫ですか?」
「大丈夫」
傷は付いていないが、疲弊した状態の“慈愛”の契約者、怜奈と背中合わせに。
「ふむっ……犬神さん。ここはコンビネーションで行きますよ」
「ちょっ、ボス! ……コイツはオレにシトめさせてクダさいよ」
「わかりました」
滴り落ちる血を凝固させる暇もなく、前後を警戒し始める。
「……何か動きを見せたら飛びかかる気か?」
「そのようで……蓮華ちゃん、動かないで」
「……くっ!」
飛びかかろうとしていた蓮華が、怜奈の制止で踏みとどまる。
自身の主が大罪の幹部と背中合わせと言う状況で、動く事が出来ない事に歯噛みしつつ、ただ光一を睨みつける
「……もう少し状況を呼んで欲しいもんだな」
「……ごめんなさい」
「とはいえ、どうしたものか?」
状況は前門のサイボーグ、後門の暴食。
おまけにこちらは、正と負であり不安要素を抱えている。
「……血は止められそうですか?」
「……いや、その暇なさそう」
目の前のサイボーグの腕と足、背から噴射音が響き始める。
1蹴りするだけで、一気に光一との間合いを詰め噴射で加速させた爪を……
「っ!」
背後の怜奈めがけて突き出した。
「くっ!」
「きゃっ!」
向こうも迎撃態勢だったらしく、光一の背後からのタックルに反応出来ても対応はできず、突き飛ばされ爪は空振り。
その隙を狙い、炭素加工を施した左腕をサイボーグの口内にツッコミ、レーザー発射口を潰し、顎の稼働部分を壊した。
「このっ!」
「あまり煩わせないでもらいたい」
「うっ!」
その代わり、背後からの暴食の拳が光一の腹にめり込み、そのまま壁にたたきつけられた。
「がっ! ……ぐふっ……」
「おやおや、残虐と言う割にはお優しい」
「けっ! こんなアマちゃんヤロウが、ヨく“フンド”のカナメになれたモンだぜ。まあいい、イマすぐ……」
「待ちなさい。今は慈愛などより、この男の方が利用価値がある」
「ハッ? ……ああっ、ナルホドな。こんなフウゼンのトモシビより、コイツのホウがフンヌアイテにダイダゲキアタえられるってコトか」
「そう言う事です。さて……」
「……“五里霧中”」
壁に寄り掛かる様に気絶した光一に近寄ろうとする2人の視界が、突然霧に遮られた。
それも隣に居る筈の人物、あるいはサイボーグの姿すらおぼろげになる程の濃霧。
「キリ……だと?」
「慈愛の能力は“水”ですからね……ですが、はぁぁっ……」
我夢が思い切り息を吐き……霧を全て吸いこんでしまった。
「……ごくんっ……むっ。逃げられましたか」
「ちぃっ! ニがすかよ!!」
「待ちなさい。限界時間の筈ですよ?」
「アっ……プシュー……! ……ちっ、チクショウが」
「まあ良いでしょう。これで事実上“慈愛”は崩壊、今この時よりこのナワバリは小生の物です…………しかし、一体誰なのでしょうか? この情報を下さった方は」
――所変わって。
「……なんで俺を助けた?」
光一は怜奈に肩を借りつつ、蓮華とともに街の外へと出ていた。
「勘違いするな。怜奈様をかばった礼をしただけだ」
「……そうかい」
とりあえず、主への敬愛が負への嫌悪を上回っているらしい。
というのは理解した光一。
「しかし、まずい事になったな。まさか、慈愛がこんなに早く潰れるだなんて」
「……お前は何故我らに近づいた?」
「簡単な話だ。色欲が俺達と同盟を組んだ今、正と負の戦況はにらめっこに移行し始めていたが、アンタ達の行方次第ではそれも崩されかねない。だからアンタ達を対等な位置での同盟に引き込んで、そのにらめっこの状況を維持するつもりだったのさ……だが、結果的に暴食が慈愛のナワバリを手に入れ、その慈愛も実質崩壊し戦力も1人を除いてなしときた。こりゃ他の美徳は絶対に黙ってやしないだろうな」
「くっ……」
「……でしたら、お願いがございます」
――所変わって。
「これで慈愛は事実上崩壊し、より均衡は負の契約者側に傾いた……か。戦況はより激化する一方だな」
「おいおい。暴食に情報を流してそうなるよう促しておいて、よくそんなのうのうと出来るな?」
「証拠がないと言うのに、そう言う発言はやめて貰おうか」
「……否定はしないのな?」
傲慢・強欲連合の陣。
慈愛崩壊の報告書を手に、シバと白夜はカマの掛け合い探り合いを行っていた。
「まあ戦争を続けるなら続けるで良いんだが……」
「? 何か問題があるのか?」
「最近避難民から抗議どころか――」
『契約者は出て行け!』
『俺達を巻き込むな!』
『死んじまえバケモノ!』
「こんな感じで集団抗議が相次いでな」
「……やれやれ、手ぬるいな」
「おっ、おい!」
白夜が外へと出て行った。
それと同時に……
「出たな、バケモノの頭が!!」
「出て行けバケモノ!!」
「バケモノはバケモノの住処へ帰れ!!」
白夜めがけて、抗議とゴミが投げつけられ始めた。
それに対し表情を変える事もなく、周囲の部下である下級契約者達に……
「撃て」
――一時間後
「おーおー、無残だねえ」
「無残? ……お前らしくもないな。こんな害虫ども、生かしておいた所でこういう余計な事しかしない。それこそ、自分の都合のいい正義を振りかざしてな」
「そりゃそうかも知れねえが、ここまでやる必要あったのかねえ?」
「ある……特別と例外の違い、何かわかるか?」
「?」
「私はな、自分を人間どころか契約者の中でも特別な存在だと思っているが、自身の理“力こそすべて、弱さは罪”に例外など許す気はない。わかるか?」
「そこから理が崩れるから、か?
「そう。私は人の枠に居ると自覚しているし、この所行もまた許されぬ事であり裁かれる物と理解している……だがこいつらはどうだ?」
「……成程。自分を“被害者”というレッテルで、例外と勘違いした、ってところか?」
「その通り。自分は“被害者”だから何をやっても許される……などと、許される訳もなかろう? だからやった」
「おいおい、そんなこと続けるといつかは……」
「構わん。それもまた理だ」




