第21話
「突然の来訪申し訳ありません。ですが今進められているその話、成立されては困りますので」
「うぃ~っ……まあそう言う事だ。ひっく……とりあえず、うぃ~っ……慈愛の姉ちゃんには同行して貰おうかなあ?」
「それを許すとでも?」
「ユルすユルさないはどうでもイい。コトワれば、このマチのジュウニンゼンイン、オレサマのカドウシケンとしてクってやっからよ」
ライオンの鬣のように立たせた髪型の男が、電子的に増幅された声を響かせ舌舐めずり。
裸足のままで一歩踏み出すと、そこからはペタッと生物的な音はせず、ガチっと金属的な音が響く。
「稼働試験って……成程な、おかしいと思った。数ヶ月前に身体の半分なくした筈の男がこうなってるのは、そう言う事か」
「おおともよ! オレサマはタシかに、ジコでミギハンシンとハラからシタがツブれた。だがミろ! このアタラしいカラダ!」
顔が裂け、手足が変形し、身体が膨張し始めた。
脚は狼の様な獣脚となり、腕は肘から先が裂け大型の爪が指先まで伸び、顔は目の鼻の間を境目にする様に裂け、明らかに何らかの加工を施された歯がむき出しに。
まるで金属を取りつけ無理やり狼男にした様なフォルムへと、その男は変貌した。
「コード“Wild instinct”――個体“WI-0”。それが開発費用5億である彼の今の名称です」
「……これだから負の契約者は嫌なんだ。サイボーグは腕や足を失った人たちのための義肢技術だというのに、こんな使い方を」
「オイオイ“ケイアイ”のネーちゃんよお。オレサマのハナシキいてたか? ちゃんとウシナったブブンをオギナうギシとしてツカってんじゃねーかよ」
「使い方が悪いって言っている! 全く、不快なことばっかりだ。こんなモヤシの口車に乗ったのが間違いだった」
「蓮華ちゃん! ……ごめんなさい」
「正の契約者の罵倒なんて、今に始まった事じゃないから良いけど……てかどうしよ?」
光一は今手ぶらだった。
と言うのも、会見の条件が手ぶらで来る事であり、愛用の特注リボルバーも手元にはない。
「ではそろそろ、おしゃべりはおしまいです。では酒井さん、犬神さん。貴方がたは久遠さんをお願いします。小生は彼女たちの相手を」
「マカせろ!」
「うぃ~……了解だあ」
両の頬のファスナーを全開にし、4本ある腕の内の2本の腕の拳を撃ちつけ合い、口になっている方の腕はガチガチと歯を鳴らす。
「……気味悪い事この上ない」
「……生体改造で手に入れたこの腕も態々斬り裂いたこの頬も、傍から見れば気味が悪いと言うのは事実ですが、その口の悪さでは慈愛の名が泣きますよ?」
「うるさい! 怜奈さまの手をバケモノの為に煩わせるか!」
蓮華がどこからか撲殺用のメイスを取り出し、我夢に向かって駆けだした
「やれやれ、程度の低い側近をお持ちの様で同情します」
「でやあああああっ!
「では……身の程を知れ」
眼前に迫りくるメイス。
我夢はただ、耳まで裂けた口を大きく開け……
バギンッ!
「なっ!」
「……ぼりぼり……ごくんっ――不味い。仮にも系譜が使う武器、もっとマシな素材はなかったのでしょうか?」
「てっ、鉄を食べた!?」
「ええ。小生は身体も内臓も特殊でして、毒物だろうが超高温超低温だろうが、小生に食せぬ物はありません。もちろんこれは小生の身体だからこそ出来る事なので、決してマネしない様」
「いえ、誰もしないと思いますが……蓮華ちゃん。下がってて」
表情を引き締め、長刀を手に怜奈は我夢に対峙する
「ワタクシが、お相手いたします」
一方――
「うぃ~っ……上級系譜でも有名な残虐の契約者。ひっくっ……久遠光一を相手にするか。げっぷ……腕が鳴るってえもんだぜ」
「……酒くせえな」
「うっぷっ……悪く思わないで下せえ。うぃ~っ……これも」
「そこどけ」
ドブゥッ!!
「ぎゃああああああっ!!」
背後からの激痛に、酒井は悲鳴を上げた。
後ろに居たサイボーグの爪から血が滴り落ちていて、顔をしかめつつ爪を拭う。
「おマエキえろ。クセえわジャマだわで、うっとおしんだよ」
「うぐっ……きっ、キサマ……!」
「アンシンしろ。テガラはオレサマがモラってやっからよ」
「ぐはあっ!」
腹に爪を突き立て、そのまま窓の外に放り投げた。
「……以前より凶暴性が増してやがるな。サイボーグ化の影響か?」
「テメーはオレサマのエモノだ。ジャマはさせねえ」
「いや、元々のが酷くなっただけか」
「うらあっ!」
両手の爪を構え、襲いかかる相手に対し、上着を脱ぎ腕を炭素加工し対峙。
爪と腕がぶつかり合い……
「ぐっ……」
「バーカ。モトモトケイヤクシャのナカでもヒリキなおマエが、サイボーグのオレサマにパワーでカてるかよ!」
「……ちと聞きたい事があるんだが」
「あっ?」
「お前、ブレイカーはどうした?」
元々犬神は、暴食の系譜“獣性”の契約者。
その能力は“念動獣”と呼ばれ、脳の本能を刺激した上で身体を獣の形をした念動力の膜で覆い、獣級の身体能力を発揮すると言う物。
獣性が示す通りに性格は好戦的で、自分と対峙する際には絶対に使用していた能力。
「オシえるとオモったか? バカが」
「だったら使ってみろよ。機会が相手なら、俺に勝てる訳ねえだろうが」
「ヌかせ!」
ギリっとより力を込め、押しつぶそうとする相手に対し、光一は……。
バヂッ!
「うわっ!」
自分の腕を交差させている個所でスパークを起こし、その隙を使い距離をとる。
電子的な声で唸り声を上げる晃は、飛びかかる姿勢を取った。
「……よーくわかった。5億もかけて造ったサイボーグの身体と引き換えに、人間の身体と契約者としての能力を失ったらしいな」
「ぐっ……だったらナンだってんだ!?」
「それでその変形機構か。かつての能力の名残りってところだな!」
「るせえ!」
脇腹からロックが外れる音が響き、機械の個所から小型のバルカン砲が姿を現し、光一に向け撃ちだされる。
「っとと」
近くにあったテーブルをひっくり返し、その表面に炭素加工を施した上で盾に。
「んなモンでトめられるかあっ!!」
怒鳴り声を上げた口に、光が収束し始める。
そこから一筋の光が線を描き……
盾に使っていたテーブルごと、光一の肩を撃ち抜いた。
「うっ!」
「モトケイヤクシャのサイボーグナめんなコラ!」
「くそっ……」
「テメエクってやる! そのニクもナイゾウもズタズタにキりサいて、ホネはゼンブぶっコワしてクってやる! ゼンブだ!!」
「やってみろよガラクタのワン公が!!」




