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大罪と美徳  作者: 秋雨
第1章 物語の始まり、動乱の幕開け
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第20話

憤怒と色欲の同盟。


先代勇気の契約者の死然り、勇気のブレイカー発見然り、そして今回の戦争然り。

契約者の恩恵で成り立つ現社会、その頂点の動きはそのまま社会を大きく動かす。


今回の同盟の件は……


「――幾らなんでも早すぎない? 同盟締結したの、昨晩なのに」

「いや、1時間で出回ってるよ」

「「「「1時間!?」」」」

「そりゃあ契約者社会もまた情報社会だ。これ位は当たり前だろ」


夜明けには各メディアの一面として出回っていた。

テレビではその影響を受けた市場の状況が映し出され、経済学者や評論家などのゲストが事こまかに状況の説明。


「契約者社会、かあ……」

「? 今更後悔したか?」

「……もう後悔してどうにかなる事でもないでしょ?」

「兄妹だな」


ユウは苦笑し、自身のライバルの姿を思い浮かべた。


「ところで、光一遅いわね?」

「光一? ……そう言えば会見の場を整えると同時に、さっさとどっか行ってから見てないな。何やってんだろ? おかげで月――色欲の契約者がぼやいて大変だったな」


そこでユウがにっと笑い、歩美に目を向ける。

歩美はいきなり目を向けられた理由に覚えがなく、きょとんとした顔でユウを見た。


「? どうしたのよユウ、歩美の……ああっ、成程」

「え? あの、何ですか宇佐美さん?」

「そっかそっか。そう言う事かあ」

「さやかさん?」

「しきよくっていうからにはかなりのびじんさんでしょうしー、あゆみちゃんもくろうしそうですねー」

「だっだから何なんですか!?」


カチャッ!


「朝からにぎやかだな、お前ら」


そこへ話題の渦中である光一が、目の下にクマがある顔で入ってきた。

――スーツ姿で。


「あら、おはよう光一。今日も朝からどこかでるの?

「報告が終わったらな。ふぁあ……」

「はい、光一にいちゃん。ブラックにしといたよ」

「おっ、ありがと」


裕香が淹れたブラックコーヒーを飲み、一息。

それから持っていたカバンから、1つの束を取り出した。


「各陣営の情報つかんだぞ」

「どうだった?」

「俺達の同盟締結警戒してか、あちこちで停戦の動きがみられてるってよ」

「そうか……そうなると、再び情勢はにらめっこに移行か?」

「いや、懸念事項はある」

「……“慈愛”か?」


色欲の対の美徳、慈愛。

憤怒に現状対が存在しない以上、事実上孤立した状態となっている勢力。


この勢力の行方次第では、睨みあいどころか決定打となりかねない。


「どっかが手を出せば面倒だな」

「一応あの後、俺の方で色欲と同盟結んだ事は知らせた上で、会談の申し入れはしておいた。タイミングは見計らったから、冷静な判断が出来ない様事は進めたけど……」

「って事は、こっちも同盟か? ……正義がうるさくないか?」


ユウの脳裏には、北郷正輝が怒りの頂点で怒鳴りこんでくる光景が鮮明に浮かんでいた。


「傲慢・強欲連合と正義・誠実連合だけは、未だに停戦の気配がないらしい。理由は北郷正輝が執拗に攻撃を仕掛けてるからだから、大丈夫だろ」

「逆にせかされる形になった、ってところか? ……なら、間に合わなかったって事で十分言い訳は通るな。よし、行くか」

「いや、今回は事前交渉だから俺だけで行く。慈愛は正義バカの様な石頭じゃないし、その辺りは俺次第になるけど……」

「じゃあ頼むぞ」

「――了解。コーヒーご馳走様」


ひらひらと手を振り、光一は去って行った。


「光一さんが手がけるんなら、安心ですね」

「美徳の勢力まで同盟組むんなら、おいそれと手だしは出来ないよね。アタシ達にも」

「そうですねー。みやちゃんたち、そろそろおそとでられるかもですー」


「さて……状況が落ちついたら、墓参りにでも行こうかな。宇佐美もどうだ?」

「気付いてたの? ……そうね、あたしも久しく行ってないし。兄さん、どう思うかな?」

「宇佐美が決めた事だろ? 胸張って報告すりゃいい」

「そうね」



――所変わって


「――以上が、俺達のボスの意思です。俺達は負の契約者の天下を創るつもりも、頂点に立って世を支配するつもりもありません」

「ええ……一条宇宙さんとの間柄を考えれば、それは十分納得できます。ですが」

「でしたら、一条宇佐美が一人前になるまで……という期間付きではどうです? 俺達に近づいたのは、一条宇佐美を救い出す為――と言う事にすれば、言い訳は立ちます」

「……そちらはそれでよろしいの?」

「俺達としては、勇気が俺達の対として機能出来ればそれで良いんです」


慈愛のナワバリのとある施設の一室での、極秘裏に会談。


光一と対峙するのは、腰まである蒼い髪にたれ目の落ちついた雰囲気の美人。

その近くには、執事服をまとった少年……いや、こちらは釣り目のきつい印象のある少女。


“慈愛”の契約者、水鏡怜奈とその側近“敬愛”の契約者、黛蓮華。


「失礼だが、そちらは色欲と既に同盟を結んでいる」

「色欲の契約者には、既に話を通してあります」

「蓮華ちゃん。月さんは彼、久遠さんにぞっこんと言う話ですから」

「ですが、それを利用し口裏を合わせると言うのも……」

「ならこちらから……ん?」


パラ……!


「? どうかしたか?」

「……あの、この施設周辺は人払いをしてると言う話でしたね?」

「そうだが……っ! 怜奈様、危ない!


蓮華が叫ぶと同時に、突如窓がぶち抜かれた。

そこから飛び込んできた影は、光一たちの前で止まる。


入ってきたのは、突き出た口と鼻、折れ曲がった獣脚に尻尾という、見た目は獣。

しかしそのすべては、肌色の皮膚が貼りついている個所以外は、全て金属の光沢を放っている。


「ふむっ……小生の読みが当たりましたね」

「うぃ~……へっへっへ。良い獲物だねえ~」


その上に座っているのは、“暴食”の契約者、明治我夢。

そして、その系譜“泥酔”の契約者、酒井博。


「ヘッヘッヘ、イいエモノがイるじゃねーか。オレサマにユズれ」


電子的に増幅された声を響かせながら、金属の獣は光沢を見せる格部を変形させ、人間のフォルムへと移行していく。

暴食で開発された変形式サイボーグ、犬神晃へと


「! 暴食の……!?」

「しまった、読まれたか……!」

「いけませんね。小生達が苦労している間にこそこそと。すぐに朝霧裕樹さんに、久遠光一さんをボロぞうきんにした上で抗議せねば」


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