第15話 改訂済
「……大罪最強の力、当然衰えていないか」
「……対を失ったといえど、衰えていないようでなによりだ」
2人を中心に、浅いとは言えないクレーター
周囲の木々も設備も衝撃で薙ぎ払われ、警備にあたっていた契約者達も負傷者を救護しつつ、よろよろと2人から距離を取っている。
――たった1度の激突で。
「――で、いきなりの無断来訪、どういう事だ?」
「“嫉妬”が動いたという情報が入った故、事を急ぐ必要が出来た。非礼には変わらん、それについては謝罪しよう」
「……って事は、光一が交戦したのは“憎悪”か“狂気”だな」
一先ずは、とユウは6本の“六連”全部を鞘に。
それを見て白夜も、誠意を示す様に大剣を手放し、それが分解され消えて行った。
「――で、用件は?」
「勇気のブレイカーの新しい契約者、一条宇佐美。お前のナワバリで匿い、鍛えている事は既に調べはついている」
「渡せってんなら断る。あいつは俺の対だ、決着は俺の手でつける」
「そんな事はどうでも良い。お前がこの先時代の流れを背負い、どうするか……その答えを聞きに来ただけだ」
傲慢と正義、嫉妬と友情、色欲と慈愛、怠惰と希望、強欲と誠実、暴食と知識、そして憤怒と勇気。
この中で対が存在しない状態にあるのが憤怒
つまり朝霧裕樹の勢力のみであり、尚且つ今はその新しい対を庇護下に加えている状態。
見方としては憤怒が勇気を手に入れ、最強クラスの戦力を2つ有している。
故に時代は、憤怒に流れていると言う意見が現状の主流だった。
「既に他の大罪や美徳も、一条宇佐美がお前の庇護下に居る事は掴んでいる。場合によっては、制と負の全面戦争すら引き起こしかねん程の火種が、今お前の手にあるのだ」
「責めに来た……って訳じゃ、なさそうだな?」
「終わった事を責めて何になる? 必要な物は過去ではなく未来だ。それで、こちらの質問に答える気は?」
「――なんでそんな事を聞きたい?」
――もちろんユウには、そんな事を話す理由はない。
まして、大罪で最も得体のしれない男である以上、下手に情報を与えれば何が起こるかがわからない。
しかし彼は、基本的に交渉では嘘はつかない。
「ナワバリを預かる身だ。安寧を守る義務がある以上、お前の動向を知っておく必要が出来た」
「……それだけじゃないだろ?」
嘘をつかない代わりに、本心を隠す傾向がある。
「お前ほどの男が、この状況を予期できなかった訳がない。大体群れる事を嫌うアンタが、強欲と手を組んだ事もおかしいと思っていた」
「……鍛冶仕事で忙しい割には、随分と見ているじゃないか」
「アンタの弟に組織の運営任せてるとはいえ、最終的な決断を下すのは俺だ。無様な真似は出来ないさ」
「わかっているなら良い。お前も大罪の1人なら、その程度は自覚して貰わねばな」
「……興味もなしかよ」
久遠光一と大神白夜は兄弟
これは本人達以外では、知っているのは朝霧裕樹のみ。
と言っても、これは光一自身が知られる事を嫌がり、尚且つ白夜を嫌悪しているが故の事。
「それで、本題への返答は?」
「……別に何もしない。俺は正と負の争い事にも、ナワバリ拡大にも興味がない。だが、一条宇佐美は俺の対だ、他の誰にも手を出して貰いたくはない……ただそれだけだ」
「……素晴らしく自分勝手な意見だな」
「自覚はしてるさ。それに宇佐美が見つかった時点で、全ては動き始めている以上、今更止まれるか」
ユウの右手が赤黒い物――マグマに包まれ、ぐらぐらと煮えかえり始める。
黒煙を上げながら、ポタポタと滴り落ちては地面を焦がし――ユウはマグマに包まれた拳を握りしめ、構えをとった。
「――吠えるのは結構だが、それですべてがうまくいくと思うな?」
それに動じる事もなく、白夜が両手を左右に突き出し、ギリっと拳を握りしめる。
「はっ、笑わせんな! 俺が吠えるって事はな……」
ユウのマグマが肥大し、それが巨大な腕を模ると――
「こういうのを言うんだ!」
その腕を白夜めがけて振り下ろし、叩きつける。
叩きつけられた地面は、割れたガラスのように破片を巻き上げ――マグマの熱でドロドロと溶解し、一転して岩の落ちた水面のように、破片は溶け飛び散っていき、付着したと同時にジューっと音を鳴らす。。
「ふむっ……確かに失礼だったな」
――その一部、白夜が立っていた地点。
白夜本人どころか、半径0.5メートル以内の地面だけが無傷――という、明らかに奇妙な高家おがあった。
」
「……わかっちゃいたが、やっぱり無傷なのな?」
更に言えば、服にも汚れがついていない。
「さて……」
「もう終わりか?」
「時代が選んだ者達を、一体どんな未来が待つかに興味がわいた……それで十分だ」
「……どうせこの先を利用する手段も確立させてる癖に」
「その辺りは文句を言われる筋合いはないな」
「……勝手にしろ」
「邪魔をした」




