第12話 改訂済
「……っとまあ、冗談はここまでにして」
光一はスーツの懐から、一丁の自動拳銃を取り出し……
「コソコソしてないで、出てきたらどうだ!?」
とある一角に向けて構え、そう告げた。
「お待ちください。吾輩は危害を加えに来た訳ではありません」
「……勝手に人のナワバリに入り込んどいて、よくそんなこと言えるな?」
「確かにこそこそと忍びこむ等、紳士として恥ずべき事ですが、仕事は仕事です」
闇夜にうっすらと、1人の男性(?)が姿を現す。
黒の燕尾服にシルクハットを被り、そして白い蝶ネクタイと、礼服としてのセオリーに忠実な服装。
手には杖と懐中時計と言う時代錯誤な格好だが、唯一肌が見える筈の顔と手にはびっしりと包帯が巻かれている。
「用件はおわかりでしょう、ミスター久遠?」
「何の事だかさっぱり分からんが、その呼び方やめてくれないか、ミスターバンデージ」
「ミス宇佐美がミスター裕樹の家にかくまわれている事は掴んでいます」
「……のぞき見かよ? どこが紳士だ」
「あら、ごめんあそばせ」
「っ!?」
「隙ありですな」
突如割り込んだ声に光一は隙を見せ、ミスターバンデージと呼ばれた男が手をかざし、燕尾服の袖から包帯が伸び光一の腕を捕まえた。
それと同時に光一の脇腹が刻まれ、血を噴き出す。
「……ミスファントムまで一緒だったか」
「ふふっ、流石は残虐の鮮血ですわ……この色といい味と言い、たまりません」
黒のイブニングドレスをまとい、長い手袋をつけた手にはバッグと扇を持つと言う、こちらも時代錯誤な格好。
それに加え、銀色の顔の上半分を覆い隠す仮面をつけ、光一のわき腹を刻んだ扇を濡らす鮮血を、仮面越しでもわかるほどうっとりとした表情で見つめている。
「人の生血と苦悶悪趣味で有名な嫉妬の系譜が2人も――一体なんだってんだ?」
「それはもちろん、勇気のブレイカーですわ」
やっぱりか……と、光一はため息をつく。
「だから知らねえっつってんだろ」
「ではなぜ、勇気のブレイカーを所持している筈の、一条宇佐美をかくまっておられるのですか? 本来勇気とは敵対関係にある筈だと言うのに」
「ウチのボスの意向だ。プライベートか憤怒としてか何て、俺にもさっぱり分からん」
「そちらの言い分は聞いておりません。まあどうせしらばっくれるのでしょうから、吾輩とミスはこれよりミス宇佐美を連れていきます」
ミスターバンデージが両手を突き出し、腕の包帯が勝手に解けていく。
その一本一本が意思を持つかのようにうねり、光一めがけて襲いかかる。
「っと」
光一がひょいひょいと避けた先で、包帯が地面に刺さりがれきと土煙を上げ、光一めがけて襲いかかる。
「……では、味わっていただきましょう。吾輩の“包帯遊戯”を」
攻撃をやめ、包帯はうねるように手元に戻っていき、シュルシュルと巻きついていく。
今度は両手を広げると、今度は顔や全身から包帯が解けシュルシュルと絡み合い始め――
『シャアアアアッ!』
それが蛇の形をとると、口を広げ包帯で出来た牙を突き立てるべく、光一に襲いかかる。
「やべっ!」
光一は一旦距離を取ろうとし……動けない。
「っ!」
足を見ると地中から包帯が伸びていて、それが足を絡め取っていた。
「ちいっ!」
やむおえず、スーツの懐からリボルバーを取り出し、咄嗟に超電磁砲を撃ちだした。
『…………(ニヤっ)』
包帯の大蛇の喉に、撃ちだされたレールガンが突き刺さり……
しゅるりと包帯がゆるむと、そこを突き破りまっすぐなオレンジの閃光の軌道を描いた。
「では今の攻撃のお礼に、ひき肉にして差し上げましょう」
何事もなかったかのように突き破られた部分が閉まり、包帯の大蛇が顔面を光一の腹に突撃し吹き飛ばす。
「がっ!」
腹の空気を無理やり押しだされた光一が、衝撃で吹っ飛び地面にたたきつけられ、転がるのを包帯で絡め取られてしまう。
光一は体全体を包帯で縛られ、ギリギリと締め付けられ始める。
「ミスター。そのまま」
「?」
ギリギリと締め付けられたまま体を持ちあげられ、その起点となっている礼服が、声をかけたミスファントムの横へと移動。
それと同時に、ミスファントムがうやうやしくドレスのスカートをつまみ、一礼したのちにヴァイオリンを取り出すと……
「では、“血飛沫行進曲”」
ゆっくりとヴァイオリンを演奏し始めた。
闇夜に響くヴァイオリンの音色は、山道で人気もない道によく響き……
「っ! ぐっ、あがっ! があぁっ……!」
聞き惚れるかのような音色だというのに、光一は苦しみ始め――血を吐きだした。
「ああっ……たまりませんわ。この声明の温かみ、何よりも深い赤、そして残虐の契約者の血……至福の一時ですわ」
それを待っていたようにヴァイオリンの演奏をやめ、両手を広げ光一の吐血を一身に浴びる。
ドレスが汚れるのもかまわず、浴びた血飛沫に浸っては掬い取り舐め、うっとりとした表情でそれに浸り始めた。
「いいですね、その苦悶の表情……忌々しい余裕の表情が崩れるさまは、良い物だ」
「……揃いも揃って悪趣味な」
人の血を好む嫉妬の系譜“狂気”の契約者、コード“ファントム”
人の苦悶を好む嫉妬の系譜“憎悪”の契約者、コード“バンデージ”
彼と彼女は、悪趣味として知られていた。
「ではミスター久遠は、これからワタクシの生き血製造の為の家畜になって貰います」
「その際には吾輩も呼んでください」
「良いでしょう」
「……勝手な話してんじゃねえぞコラ!!」
電気が爆ぜる音が響き、光一の体を絡め取り縛っていた包帯が焼き切られた。
上着を脱ぎ捨て、Yシャツの袖を破り、腕に炭素コーティングを施し地面に突き立て発電。
炭素加工された腕の上に、電磁で集めた砂鉄を使い振動させ始める。
「ほうっ……凶王の腕、と言う事は」
「本領発揮ですわね。これは生き血もおいしそうですわ」
「呑みたいならたっぷりと呑ませてやるよ……お前らのな」




