第10話 改訂済
入院して一週間。
手術後の痛みに苦しみ、その後の契約執行で生じる高熱に苦しみ。
人生最大の苦痛の時間を過ごした宇佐美だが、漸く容体は安定していた。
「契約者が使う能力は、ブレイカーに登録されてる能力がメインになる。そこから演算処理を分けることで、サブ能力を設定出来る訳だ。俺で言えば発電能力をメインに、サブに元素操作だね」
そんな宇佐美は、光一にブレイカーの使い方を教わっていた。
「気をつける点は、演算処理が多ければ多いほど1つ1つの能力の精度も威力も落ちる事。だからメインを補佐する能力を考えて、それをどう活かすかが重要になる」
「へぇっ……それじゃ質問だけど、発火能力に凍結能力をつけるとか、まったく正反対の事も出来るの?」
「出来るし実際いる。使い方としては、そうだな……発火と凍結の温度差を利用しての蜃気楼とか、物質破壊とかかな?」
「成程ね。じゃあそうね……光一みたいな物質操作をつける場合は、何か気をつける点はある?」
「物質というか、俺の場合は元素だけどね」
光一は袖を捲り、そっと腕に触れ……
炭素によるコーティングを施し、宇佐美にその腕を差し出した。
「俺の場合は空気中から炭素を抽出した上で構造を操作して、腕にコーティングするって使い方してる。炭素は人体にも含まれてるけど、あまり処理割いてないからやるとすっげえ痛いんでこれが限度。まあ他にも、手の届く範囲なら酸素濃度の操作も出来るね」
「使い道多いわね」
「手数が命だからな、俺の場合。それより勇気のメインは“風”だから、それを使いこなしてからね」
「……そうね」
宇佐美の内心では、期待と不安が渦巻いていた。
1つは、自分にも契約者の力が使える事に対する期待。
1つは、怠惰と憤怒の激突で見た様な力が、自分にも使える事への不安。
「――まあどの道、服が届くまでは無理だけどね」
「? 退院祝いに運動用の服をくれるって話の事?」
「そう言えば、これまだだっけ? 大罪や美徳クラスの能力だと、一般に出回ってる服の生地じゃ耐えきれないから、即座に素っ裸に……」
「…………」
「ってなんだその眼!?」
時は過ぎ――
「退院おめでとう」
本契約も終わり、その際出した高熱もすっかり治り、宇佐美は無事退院。
リハビリもつつがなく終わり……
「……さて」
場所はユウの仕事場兼実家から離れた、開けた場所。
ごつい布地の黒いシャツにカーゴパンツで、手には一本の打刀と言う部類の刀。
それを固定するベルトはサスペンダーの様になっており、それに付随する様に腰の部分に6本の太刀。
つまり本格戦闘スタイルのユウが、宇佐美と対峙していた。
「もう少し休んでてもいいぞ? 何もこんな早くやらなくても」
「良いのよ」
ハーフパンツにレギンス、スニーカーをつけて、上はTシャツ。
オープンフィンガーグローブをつけ、いつもは降ろしてある肩まで伸びた髪を後ろでまとめ、ぐっとにぎりしめた拳を突き出す宇佐美。
「そんな彼女は、身長166の96(F)・57・91というグラマラスボディで、Tシャツを押し上げる自己主張の激しい……」
「いや島津さん、なに解説口調でセクハラやってんだ!?」
「んー……じゃあアタシの見る?」
「見ないから! ってか、露出趣味あんのかよ!?」
「失礼な。大らかなだけだよ」
その横で、ラッキークローバーのメンツ&光一が観戦。
「じっとしてるの、あんまり好きじゃないのよ」
「そう言う所、兄妹だって思えるな」
「当然よ。それに今日からは、あたしがユウの対だもん。恥ずかしい姿なんて見せられないじゃない」
「へえっ……」
そう言って“焔群”を咥え、裕樹はボキボキと拳を鳴らし構えをとり……。
「なら……さっさと来い」
ユウの表情が、いつもの物から戦闘用に。
明王を想像させる形相へと変貌。
「っ! ……やああああああっ!」
それに怯むも、宇佐美が駆けだしユウの顔めがけて正拳突き。
「……しゃっ!」
それを腕でガードし、手首を掴んでユウは一本背負いでブン投げる。
「ひゃっ!」
宙に舞った宇佐美は、咄嗟に前回り受け身をとって着地。
その追撃のために駆けだしていたユウを見て、宇佐美は迎撃態勢をとる。
「やっ!」
宇佐美が回し蹴りを繰り出し、ユウがそれを腕でガード。
もう片方の方の腕が、ユウの加えてる“焔群”を掴むと……
「っ!」
宇佐美は即座に距離をとる。
「ここまでだ」
そこで、ユウが終了を宣言。
「え? なんで?」
「勝負じゃないから。それに……」
言葉に続ける様に、ユウが拳を差し出す。
「これ以上続けて何か意味があるかな?」
そう言って拳を開き、握っていた物を見せる。
宇佐美が首にかけていた筈の、勇気のブレイカーを。
「……ないわ」
「よろしい。それじゃしばらく、俺がみっちり鍛えてやるから覚悟しとけよ」
「……よろしくお願いします」




