第105話
『魔王様!! 魔王様!!』
「……滑稽だと思わない? 敵である筈の僕を、賛美の声で出迎えるなんてさ」
マントで全身を覆い、四凶を模した仮面を被った大勢が、歓声を上げて1人の男――魔王を名乗り、人の敵として宣戦布告をした東城太助を出迎える。
人垣がわれて、用意された玉座に誘導されるままに、先ほど打倒した鳴神王牙を抱え歩を進める。
王牙を近くの調度品に寄りかからせ、太助が玉座につくと魔王信望者達は跪く
「――良いのか?」
「なにが?」
「お前に敗れ満身創痍と言えど、ワシを捕縛しなくて」
「逃げたきゃ逃げていいよ――君になら殺されても良い」
そう告げると、跪く信望者達に目を向け――興味なさげにそっぽを向いた。
「……つくづく思うが、悪い意味で変わったなお前」
「――正直な話ね、君を地面に這いつくばらせても、湧いたのは達成感でも優越感でもなく、吐きそうなくらいの嫌悪感と罪悪感だけだった」
王牙の言葉を聞き流し、太助は吐き捨てるようにそう言い放つ。
「――変かい? こんな魔王」
「――やり直す事は出来んのか? 罪と苦痛に苛まれてまで、何故魔道を選ぶ?」
「終わりたいからだよ――この世界が、少しでもまともな形である内にね」
「しかし……」
“人の死なんて、とうに罪なんかじゃないよ”
「……!」
「……大地の賛美者然り、サイボーグ義肢然り……人が率先してやってきた事と言えば、差別と暴力だけだ――無理やり罪を作ってまで、醜く他人を貶め殺し続け、救いを迷惑と一蹴してここまで来たって言うのに、まだそれを無視するかい?」
「――その通りだ。契約者社会に対し、人がしてきた事等そんな物であった事は否定はせんし……だからこそ、ワシ達も北郷も平和を齎す為に欲望を切り捨てる事を選んだ。だがそれは……」
「でも、人の限界の前ではそれは無理だった」
太助の眼から涙が流れているのを見て、王牙は言葉が出せなくなる。
「――変われやしないのは何故かなんて、そんなの人にとって法が差別の基準で、裁きは暴力の免罪符にすぎないからだ……差別と暴力に、成長も努力もない。免罪符を持ったと勘違いした人間なら尚更だ」
グイッと乱暴に眼を拭って、今度は王牙もよく知る――知る以上の冷たい目を王牙に向ける。
「――僕が間違っている? ……理も可能性も“語る”じゃなく“騙る”事しか出来ず、平和と救いを忌み嫌い、差別と暴力を繰り返すばかりの今の人間が、何をもって僕を間違いにする?」
「――それでもワシは、希望の契約者だ」
「――それも所詮は、他人を否定し踏み躙るための口実にしか使われない。可能性もまた差別の基準であり、暴力の免罪符さ……ならどうして、人は平和を謳いながらそれを踏み躙るんだ?」
玉座から立ち、王牙を持ちあげ歩を進める。
「この世界は終わらせる――人の罪、僕の憎しみ諸共にね」




