第9話 改訂済
ブレイカーとの契約。
その条件であり最重要事項である、一定値以上の感情。
特に系譜や大罪、美徳といった上位ブレイカーは、生半可な感情では起動はしない。
故に、系譜以上のブレイカーを使う契約者は、まさに選ばれた存在と言える者たちである。
「--だから、正直驚いてるよ。まさか二代目勇気の契約者が現れるなんて」
「……あたしも。今までうんともすんとも言わなかったのに」
それ故に、現在護衛任務に就く光一は、目の前の少女が勇気のブレイカーを起動した事。
実際みたというのに、いまだに信じられずにいた。
――少し前まで、契約者ですらなかった少女だというのに。
「悪いな。本当なら女で護衛を用意すべきなんだけど」
「気にしないで。事情はよくわかってるし、寧ろ助けて貰ってばかりで悪いと思ってる位なんだから」
「……そう」
「ところで、そういう仕事って普通リーダーがやらない?」
「ユウは爺さんの跡取りとしての修行があるからね。あの爺さん厳しいから」
ユウの祖父は鍛冶屋で、代々続く製法であちこちの老舗料亭の料理人に人気のある職人。
その跡取りとして、ユウは憤怒の契約者としての力を有しつつ、鍛冶修行に勤しんでいる。
「それに刀鍛冶の許可も取ってるから、あながち無関係ともいえないしね」
「え? じゃあ、ユウが使ってる刀って……」
「ああっ、ユウの刀“焔群”と、他にも“六連”って言う6本の刀があるんだけど、あれユウの作品」
「そうなんだ」
「だからこうして、俺が組織の運営とナワバリの管理やってんの」
コンコン
「? どうぞ」
「よう」
「こんにちはー」
ユウが歩美達を連れ、入ってきた。
「もうそんな時間か」
「ああっ、いつもすまないな」
「気にすんな。んじゃ」
次の日
「だから、公式発表聞いてないのか? 勇気のブレイカーも一条宇佐美も、とうに逃げられたから俺達の方でも行方を追ってるって」
『そんな発表を信じろとでも言うのか!?』
「勇気のブレイカーを一条宇佐美が使えるなんて、俺達にとっても想定外だった。笑いたければ笑え、こっちとしても恥なんだから」
『……ちっ』
今日も今日とて、他勢力から勇気のブレイカー、もしくはその所持者である一条宇佐美を渡せと矢のような催促が来ていた。
抗議こそあれど、どこも直接的な行動に出ない……と言うか出れない。
他の大罪と違い、現在憤怒には対が存在しないが故に。
「……とはいえ、そう長くは持ちそうにないな」
光一がぼやいた理由は、大きく分けて2つ
1つはフォールダウンが我先にと、憤怒のナワバリに押しかけ勇気を探そうとしている事。
元々フォールダウンは、量産型ブレイカーの“契約条件が存在せず、最も強い感情を読みとりそれを条件に書き換える”と言う機能から生まれた者達。
正から負へと変わったが故に居場所を失い、それを求めて負の集団を襲う様になった事が発祥となった契約者達の総称である。
その活動はピンキリであり、地道にあちこちの企業や街に売り出す者たちも言れば、正負問わず攻撃を仕掛ける盗賊まがいもいる。
そんな彼らにしてみれば、所持者が居ないにしろ一条宇佐美が契約したにしろ、新生勇気としての飛躍のチャンスである事。
そしてもう1つが……
「……傲慢と強欲のナワバリで反乱が起こり、しかもそれに乗じていくつかのフォールダウンが屈託、か」
通常、大罪のナワバリで犯罪や内乱が起こる事は、めったにない。
それは決して“逆らった所で無駄”と言う訳ではなく、幾ら稼ごうがそれを使う先も接待する相手もいなければ、金も意味もない。
更に言えば、ナワバリはあくまでナワバリであり、そっぽを向かれた後は他を当たられれば即座にアウト。
それでも、契約者の研究の恩恵は多大で、ある程度の暴政を強いられた所で意味がない訳だが……
「大体鎮圧に時間かけ過ぎてる上に、その対のナワバリでも同様ってのが、明らかに不自然だしな……調査してみるか」
――所変わって
「これはこれは、傲慢さんちの白夜サマではありませんか」
「……口上はいらん。さっさとこちらからの要請にこたえるかどうかを言え。“強欲”」
「高圧的だ事で。願ってもないが、なんで同盟なんて?」
「単純な話だ。今は互いに大変な時期だろう?」
「ああ、そうだな。お恥ずかしい限りで(……嘘つけ。ニセ情報流して発起させておいてよお)」
「全くだな。だが今目的は同じであるなら、協力しない手もないだろう?(……気付いているか。まあ、そうでなければ価値はないが)」
「それもそうだな(……この時期にこんな事言いだすって事は、どうせこっちの技術と情報目当てだろ。そうはいくか)」
「なら決まりだな(……精々隠せるだけ隠しておけ




