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大罪と美徳  作者: 秋雨
第7章 絶望の魔王、起つ
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第103話

「人間など汚らわしい」

「人間など愚かで身勝手」

「人間など欲深く罪深い」

「偉大なる魔王様の滅びがあらん事を」

「魔王様の滅びこそが、我らの救いである」

「幸なかれ!」


魔王教団


度重なるテロ、暴動、そして糾弾。

大罪、美徳の同盟による救済活動を悉く停滞させ続ける中、人々の不満も不安も積み重なる一方で――そんな中、魔王東城太助を崇める集団が現れた。


魔王の従える合成獣キメラ四凶を模した仮面をかぶり、滅びと死を謳い、人である事を嫌悪し、呪詛を唱え続けるその集団は、次々と規模を膨らませ続け……。

今は東城太助に献上する居城として、魔王御殿を建造していた。


「親方、あそこが魔王教団が、居城を建造している現場です」

「ふむっ……」


「魔王様の城を造るのだ」

「ここが魔王様の居城となるのだ」

「どうか愚かな人間達に滅びを」


四凶を模した仮面を被った者たちが、せっせと呪詛を呟きながら建造に勤しむ光景。


「……ワシらも、無力な物だな」


部下を引き連れ偵察に赴いた“希望”の契約者、鳴神王牙はギリっと拳を握りしめ、歯を食いしばり、沈痛な表情でそれを見つめていた。


「どうしましょう? ここは鎮圧に……」

「よさんか。魔王教団自体は、テロリストの様な直接的な行動に出てはいない以上、力で解決すべき相手ではない――まずはアプローチからだ。そこから和平交渉の椅子について貰う事を前提に行動する」

「はい、わかりました」


王牙自身、美徳としての立場上倒さねばならない相手とは認識しているが、それでも個人としては魔王東城太助と、魔王教団を否定する気になれなかった。


「――いつまでこんな事を続けねばならんのだ?」


「いつまでも続くさ――人の敵は人、人は所詮人の敵にすぎないんじゃあね」


ふと背後から割り込む、聞き覚えのある声。

振り向いたその先……


「――久しぶり」

「……東城」


かつて、正義と同盟を汲んでいた頃の同士であり、今は敵となった男の顔。

しかし今は、漆黒のゴシックの服を身にまとい、顔に赤い涙の様なタトゥーを入れ、かつての無機質な冷たさを持った瞳は、より黒くより冷たくなっていた。


それこそ、王牙自身が飲み込まれるような錯覚を覚えるほどに。


「何をしに来た?」

「僕を崇める組織がある……って聞いたから、ちょっと見に来ただけさ。世も末だね」

「――ああ、全くだ。だがそれもまたワシ等の罪……責める事は出来ん」

「僕が言う事じゃないけど、罪は償う物であって責める物じゃない筈だけどね――本質は埋もれて行き、勝手な都合がなり変わってばかりだ」


そう吐き捨てる様に呟いた太助に、王牙が自身の武器である大斧を突きつける。

――戦闘員ではない筈の太助はそれに動じる事もせず、にっと笑みを浮かべた。


「……それで良いさ。もう僕は君の敵なんだからね」

「悪い様にはせん、投降してくれ――ワシはお前を殺したくはない」

「僕だって同じだけど、無理な相談だよ。もう僕を抑えた程度じゃ、絶望は消えはしないんだ。僕の後を、意思を受け継ぐ者は必ず現れる」

「……許す事は出来んのか?」

「許してどうなる? ――許して何も変わらない、殺しても何も変わらない、何をしても変わらない。あは、あははっ――あーっはっはっはっはっはっは!!」


最強格に武器を突きつけられている。

その事実がないかのように、太助は狂ったように笑い始めた。


「何が成長、何が未来、何が命――何が平和だ。所詮は全部言い訳、全部嘘。人の全部が勝手な都合、勝手な理屈……誰も何も変われない。それが限界じゃければ、何だと言うんだ? 僕達を――北郷正輝を否定しておきながら、幾らなんでも酷過ぎるじゃないか」

「――お前の言いたい事はわかる。だが……」

「人は人の敵、そして人の敵も人。なのに同族が殺し合う事が愚か? じゃあどいつもこいつも愚かじゃないか。迷える子羊なんて思い上がった、救いの手を食いちぎる図々しい野良犬だ」


息の続く限り声を振り絞っての言葉を切って、息を切らせる。


「――あんたたちこそ、いつまでこんな“有害種”に拘る気だ? 別に救ってやらなくても、他を喰らって勝手に救われるさ」

「……まだ終わりではない。ワシは希望の契約者だ、前に進む歩みを止め、可能性を捨てる事だけは出来ん」

「終わってるさ。落ちるに前後も左右もないし、可能性は選択肢があるから成り立つ、こんなの小学生の問題だろ」

「ならば選択肢を作るまで。変えられる事を示さねば、北郷が否定された意味がなかろう」


――ま、だからこその希望だろうけどね

と、自嘲気味に太助は呟いた。


「お前は……」

「後悔してるさ。北郷正輝を裏切り、正義の皆を裏切る願いを今抱いてる事は――だけどもう忘れたよ! どうやって穏やかに生きればいいか、どうやって人を許すのかなんて!」

「……!」

「納得できない、権利はない――そんな我儘ほざいておきながら、他人の意思を叩き潰す事を痛みもせず、何もしない。ならば何故欲望を斬り捨てる事を拒んだ!?」


ドロッ……!


「太助……!?」

「終わらせてやるさ――僕が作ったこの“絶望”のブレイカーで手に入れた、最強格さえ凌駕するこの力と、四凶達を創る過程で手に入れた、生体改造技術を施したこの身体で――全てを絶望の底へと突き落としてやる」

「お前、人である事を……」

「希望の契約者、鳴神王牙――僕の絶望に飲み込まれておくれ」


ドガッ!



…………


「終焉――か。羨ましいな」


ポタ……ポタ……


「がはあっ! はぁっ……はぁっ……」

「――あっ、まだだったか。流石にしぶといね」

「太助……お前の、絶望は……ワシをも、凌駕するほど……強いのか」

「そう、みたいだね……」

「……泣いて……いるのか?」

「――九十九だって、人を殺す時に笑うなんてしなかった--なのになんで人は、笑いながらこんな事が出来るんだろうね? ……必要なら、もっと苦しみながらやるべき事なのに」


--そうすれば、もっと違う未来があったかもしれないのにね。

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