間話 嫉妬の1日
「…………」
嫉妬の契約者、陽炎詠
物言わぬ彼女の住居は、洋館である。
アンティーク風に整えられた室内に備え付けられた、天蓋のついたベッドで目を覚ます
「おはようございます、マザー。ご機嫌いかがですか?」
身の回りの世話を担当する上級系譜、ミス・ファントムが恭しく一礼。
――普段のイブニングドレスではなく、仮面はそのままのメイド服で。
「…………」
「では、御召物を」
ネグリジェを脱がされ、ゴスロリ系のドレスへと着替え――
それから髪の手入れをやらせつつ、詠自身は自身の顔に化粧を施す
――ココだけの話、彼女は化粧が趣味で、その腕はプロにも引けを取らない程である。
「出来ましたわ。今日もお美しい」
「…………」
コンコンッ!
「どうぞ」
「失礼いたします――マザー。朝食の準備が整いましたので」
顔から手に至るまで、全身をびっしりと包帯で覆い尽くした執事服の男。
上級系譜、ミスタ・バンデージが朝食の知らせを。
場所は変わり、詠達は朝食のならぶテーブルを囲い、パンにスープ、ゆで卵等を食す。
「本日の御予定ですが――」
仕事の補佐は、ミスタ・バンデージが担当。
嫉妬のナワバリは、通称芸術都市。
詠が死霊を操る能力を持つ事から、オカルト方面の研究などが行われ、その過程で主に音楽や絵画などの芸術方面が盛んに。
美術・音楽系の名門校も多数存在し、契約者社会の文化方面で多大な貢献を成していた。
「以上になります」
と言うのは、世界崩壊前の話。
――現状は、主に荒れた人の心をいやす為の癒し系音楽、そして新しい方面の建築等に力を注いでおり、人心の安寧に貢献していた。
現状、最も多く建築物のならぶナワバリは、嫉妬である。
「…………」
朝食を食べ終えた詠は、ミス・ファントムを連れ一路とある部屋へ。
――その中に備え付けてある、パイプオルガンの前に座り。
~~♪
日課の演奏を始める。
「あなた、詠様の演奏が始まりましたよ」
「おおっ、もう仕事の時間か」
「いつ聞いてもいいなあ、詠様の演奏は」
「本当ね。ココを選んで良かった」
「ん~……気持ちいい目覚めだ」
現在7時
詠の日課の演奏は、ナワバリ中のモーニングコールにもなっていて、全ての街に備え付けられたスピーカーから、流れるようになっていた。
『ではみな様、マザーの加護への感謝、お忘れなく日々を過ごしてくださいませ』
演奏終了後、ミス・ファントムによる挨拶が終わり――嫉妬のナワバリは稼働する。
嫉妬のナワバリにおける陽炎詠に対する支持率は、かなりの水準をキープしていた。
「ではマザー、公務のお時間です」
ここからは、ミスタ・バンデージと交代
ナワバリにおける執務の為に、一路執務室へ。
――数時間後
「…………」
「そろそろ休憩としましょうか――庭でお茶の御用意をいたしますので、少々お待ちを」
「…………」
基本的に、嫉妬の1日は平平凡凡と終わる物である。
――詠の機嫌が良ければ。




