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大罪と美徳  作者: 秋雨
閑話集
117/130

間話 暴食の1日

――とある大罪のナワバリの港町。


「――畜生。今日もやられてやがる」


テロ組織の放った、鮫がベースの合成獣キメラに近隣の漁場や波止場、船着き場を荒らされ危機に晒されていた。

合成獣キメラともあり、人の身で繰り出す銛や銃で役に立たず、この街に駐留する契約者達も、既にその合成獣に食われていた。


「――漁に出れなきゃ、俺達食っていけねえよ」

「ようやく持ち直せると思ったのに」

「――この街もこれで終わりか」


ザパーーーン!!


「なっ、何だ!?」

「でっ、出たぞ!!」


成人男性の2倍は在りそうな、まるでギロチンの刃を思わせる巨大な鰭

それは水を切り裂き、港町を目指していた。


「まっ、まさか……陸にも出れるって事は」

「あり得るぞ! 逃げろ!!」

「うわああああああああああああああっ!!」


住民がパニックになり、警報が鳴り響き住民は逃げ惑う。

軌道上の船舶、波止場を破壊し、一路港町を……


ドバァアアアアン!!


「!?」


襲いかかると思いきや、突如轟音とともに鮫の合成獣キメラが宙に舞った。

腹部に強い衝撃を受けたかのようにへこませ、血へどを吐き……


ズズゥゥゥウウウウン!!


弧を描く様に、海水浴場として整備された砂浜へと落下し、痙攣し息はてた。


「――なんだ?」

「何が、起こったんだ?」


住民が恐る恐る、まだ無事だったテトラポットの積み重なる波止場から、打ち上げられた鮫を警戒する。


ザバッ!!


「――ふぅっ」


その次に海から現れたのは、3メートルはある海水パンツ一丁の超巨漢。

しかし腕が4本あり、その内の2本が掌部分が口になっていて、尚且つ耳元まで裂けた頬にファスナーを付けた男。


暴食の契約者、明治我夢。


「少々乱暴に扱ってしまいましたが――これはいいフカヒレスープが作れそうだ」


これまで銃に銛どころか、駐留していた契約者の攻撃すら通さなかった怪物。

――それが、目の前で息果てている光景。


「……あっ、あの」

「ん?」

「――ありがとうございます。おかげさまで、もうこの町の生活は脅かされずに済みます」

「? ――ああっ、そう言う事でしたか。なに、ここは小生のナワバリであり、これは昼食のための漁みたいなものです。お礼と言うなら、そうですね――この鮫のフカヒレスープでも作っていただけませんか?」

「――すぐに準備に取り掛かれ!!」



暴食のナワバリは、合成獣キメラ研究においては契約者社会最高水準を誇る。

故に、ここで起こるトラブルは大抵が合成獣キメラがらみである。


輸送中の合成獣キメラの暴走、あるいはビオトープの襲撃、そして暴食の物と見せかけての合成獣キメラの襲撃。


――大抵それらで使われた合成獣は、明治我夢の3食、あるいはおやつや前菜、間食となって解決するのだが。


「――美味美味。ご馳走様……では、前菜は終了。メインを食べに行きましょうか」

「え――?」

「あっ、残りで済みませんが、フカヒレは皆さんでどうぞ。追加の人員はすぐに送りますので」


――この町全員が茶碗一杯食べられる量をあっさりと飲み干し、再び我夢は海へと飛び込んだ。



――その少し離れた地点の海中にて


バキバキッ!!


貝を殻ごと食べる1人の男の姿があった。

――息継ぎの為に海面に上がり


「――ぷはっ! ……まだ足りませんが、まあいいでしょう。続きはかえってから……ですからね」



「――最近、魔王勢力の台頭の所為で、活動やり難いったらありゃしねえ」

「だが、魔王勢力には海の戦力はいねえ。海からの攻撃なら、慈愛相手なら無理だが暴食なら――」


ゴゴッ!


「ん? なんだ!?」


「大変です! 船底が破れて、浸水してます!」

「何!? すっ、すぐに救命ボートを……」

「それも全部やられてます!!」

「なにぃっ!?」



「――ドン、迎エニ来タゼ!」

「ご苦労様です、彰。では、帰りましょうか」


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