間話 暴食の1日
――とある大罪のナワバリの港町。
「――畜生。今日もやられてやがる」
テロ組織の放った、鮫がベースの合成獣に近隣の漁場や波止場、船着き場を荒らされ危機に晒されていた。
合成獣ともあり、人の身で繰り出す銛や銃で役に立たず、この街に駐留する契約者達も、既にその合成獣に食われていた。
「――漁に出れなきゃ、俺達食っていけねえよ」
「ようやく持ち直せると思ったのに」
「――この街もこれで終わりか」
ザパーーーン!!
「なっ、何だ!?」
「でっ、出たぞ!!」
成人男性の2倍は在りそうな、まるでギロチンの刃を思わせる巨大な鰭
それは水を切り裂き、港町を目指していた。
「まっ、まさか……陸にも出れるって事は」
「あり得るぞ! 逃げろ!!」
「うわああああああああああああああっ!!」
住民がパニックになり、警報が鳴り響き住民は逃げ惑う。
軌道上の船舶、波止場を破壊し、一路港町を……
ドバァアアアアン!!
「!?」
襲いかかると思いきや、突如轟音とともに鮫の合成獣が宙に舞った。
腹部に強い衝撃を受けたかのようにへこませ、血へどを吐き……
ズズゥゥゥウウウウン!!
弧を描く様に、海水浴場として整備された砂浜へと落下し、痙攣し息はてた。
「――なんだ?」
「何が、起こったんだ?」
住民が恐る恐る、まだ無事だったテトラポットの積み重なる波止場から、打ち上げられた鮫を警戒する。
ザバッ!!
「――ふぅっ」
その次に海から現れたのは、3メートルはある海水パンツ一丁の超巨漢。
しかし腕が4本あり、その内の2本が掌部分が口になっていて、尚且つ耳元まで裂けた頬にファスナーを付けた男。
暴食の契約者、明治我夢。
「少々乱暴に扱ってしまいましたが――これはいいフカヒレスープが作れそうだ」
これまで銃に銛どころか、駐留していた契約者の攻撃すら通さなかった怪物。
――それが、目の前で息果てている光景。
「……あっ、あの」
「ん?」
「――ありがとうございます。おかげさまで、もうこの町の生活は脅かされずに済みます」
「? ――ああっ、そう言う事でしたか。なに、ここは小生のナワバリであり、これは昼食のための漁みたいなものです。お礼と言うなら、そうですね――この鮫のフカヒレスープでも作っていただけませんか?」
「――すぐに準備に取り掛かれ!!」
暴食のナワバリは、合成獣研究においては契約者社会最高水準を誇る。
故に、ここで起こるトラブルは大抵が合成獣がらみである。
輸送中の合成獣の暴走、あるいはビオトープの襲撃、そして暴食の物と見せかけての合成獣の襲撃。
――大抵それらで使われた合成獣は、明治我夢の3食、あるいはおやつや前菜、間食となって解決するのだが。
「――美味美味。ご馳走様……では、前菜は終了。メインを食べに行きましょうか」
「え――?」
「あっ、残りで済みませんが、フカヒレは皆さんでどうぞ。追加の人員はすぐに送りますので」
――この町全員が茶碗一杯食べられる量をあっさりと飲み干し、再び我夢は海へと飛び込んだ。
――その少し離れた地点の海中にて
バキバキッ!!
貝を殻ごと食べる1人の男の姿があった。
――息継ぎの為に海面に上がり
「――ぷはっ! ……まだ足りませんが、まあいいでしょう。続きはかえってから……ですからね」
「――最近、魔王勢力の台頭の所為で、活動やり難いったらありゃしねえ」
「だが、魔王勢力には海の戦力はいねえ。海からの攻撃なら、慈愛相手なら無理だが暴食なら――」
ゴゴッ!
「ん? なんだ!?」
「大変です! 船底が破れて、浸水してます!」
「何!? すっ、すぐに救命ボートを……」
「それも全部やられてます!!」
「なにぃっ!?」
「――ドン、迎エニ来タゼ!」
「ご苦労様です、彰。では、帰りましょうか」




