第8話 改訂済
契約者による、ラッキークローバーのコンサート襲撃。
それから一週間が経過。
世間ではラッキークローバーの4人は、契約者にさらわれ行方不明とされていた。
一条宇佐美が今は亡き“勇気”の契約者、一条宇宙の妹であることから、過去に恨みを持つ負の契約者の仕業か。
はたまた、その勇気の対である憤怒の仕業か……
世間では動揺しつつ、あちこちで噂が噂を呼んでいた。
「お掃除終ったわ」
「洗濯物とりこんだよ」
「お昼ご飯出来ました」
「みやちゃん、ユウ君にもってってあげるのですよー」
その渦中はと言うと、憤怒の契約者朝霧裕樹の仕事場兼実家の工房で、家事をやっていた。
「なんだか夢みたい。あのラッキークローバーの皆と、この家で家事やってるなんて」
ファンの裕香は、そんな光景に子供ながらの感激を抱いていた。
ただ、いつもは1人でか光一が手伝ってくれるかなので、個人としてのありがたさも持っていたが。
「ま、それもそうだろうな。はいこれ」
「あっ、光一兄ちゃんいらっしゃい。わあっ、ありがとう」
そこへ背広にネクタイとスーツ姿の光一が、裕香に土産のケーキを持っての参上。
「どこ行ってたの?」
「ラッキークローバーの事務所に、経緯の報告と謝罪しにね。当然俺が契約者って言うのは隠しておいたから、社長を始めとした面々は大激怒だったよ」
「……ごめんなさい。あたしの所為で」
「気にすんな。アンタ達の確保は、言うなればこっちの勝手なんだから。寧ろ不自由強いて悪かったと思ってるくらいだ」
結論から言えば、一条宇佐美には勇気の契約者としての資格はあった。
――が、まだ資格だけで、本契約にまでは至れておらず。
そんな状態で他の大罪が動き出したら、間違いなく良い未来はあり得ない。
「よっ、光一。どうだった?」
そこで汗を拭きつつ、今からシャワーでも浴びようか、と言う雰囲気のユウが合流。
「たっぷりとお小言をいただいた。一応ある程度の誠意は提供して、何とか同意はして貰ったけどね――問題は、どうやって他の美徳と大罪の狙いをそらすかと、最近このあたりで活発が激しいフォールダウンだ」
フォールダウンとは、俗に言う落ちこぼれの契約者が集まって造った組織の総称。
正確に言えば、量産型ブレイカーに契約条件が存在せず、契約者自身の最も強い感情を読みとり、それを条件とし稼働する。
という特性から生まれた、“元”正の下級契約者達による無法集団である。
「被害が出てるのか?」
「ああっ。流石に対無き大罪を舐めちゃあいないらしく、最近は連携取ってやがる」
「そうなったら、流石に黙ってられないな。よし……」
「待て待て。たかがフォールダウンに大罪が出張ったら、他の大罪や美徳に出張るチャンスを与えるだけだ。心配しなくても、ちゃんと対応策は考えてる」
「じゃあ任せる」
そう言って、ユウはシャワーに。
光一はテーブルについて、裕香におにぎりをもらう。
「ここの生活には慣れた?」
「はい。ユウさんも裕香ちゃんも、おじいさんも良い人ぞろいですから」
「そう。何か不便な事はない?」
「今のところは特にないよ、久遠君」
「んじゃ……何か欲しい物は?」
「とくにないですよ~」
「そう……ご馳走様。んじゃ、俺はこれで」
みた目通りの小食で済ませる光一は、一路外へ――
それから2日。
「全員捕縛は完了。ブレイカー取り上げた上で、街の修繕作業の労働力にする」
「ん? お前にしては甘いな?」
「そうか? 主に被害が出た地域での作業や、病院の手伝いなんだが?」
「……前言撤回。厳しいな?」
フォールダウンの事後処理報告。
実質の業務は全部光一がやってるが、組織の長であるユウには報告を行っている。
「それと、技術班からあれの制御、成功したらしい」
「本当か?」
「ああっ。今週末には実用化できるってよ……さて、報告は以上だ。後は朝倉さんに島津さんから頼まれてた雑誌でも」
「ちょっと良い?」
光一とユウがふと見ると、宇佐美が真剣な顔で立っていた。
手に勇気のブレイカーを持って。
「何?」
「本契約って、何をすればいいの?」
「……決めたのか?」
「うん……兄さんはいつも、あたしの憧れだった。どこまでできるかは分からないけど、あたしに兄さんの後を継ぐ資格があるんなら」
「……」
ユウが立ちあがり、すっと宇佐美に握手の為に手を差し伸べる。
宇佐美はその手を、きゅっと握りしめる。
「長い付き合いになりそうだな」
「ええ。よろしくね、対の大罪さん」
その光景に、光一はふぅっと肩をすくめる。
「それじゃ、手術室の準備始めるか」
「手術?」
「そっ。ブレイカーはそのままでも使えるけど、より深くリンクするためのユニットを埋め込む手術が必要になる」
そう言って、光一は袖をまくり残虐のブレイカーを外すと、その下から中心に水晶らしき物がはまった、小さな八角形の装置が姿を現した。
「へえっ、そうなんだ」
「ちなみに他の大罪や美徳もやってるよ。もちろん宇宙さんもやってた」
「じゃああたしがやらない理由もないわね」
「ただ覚悟はしとけよ。この手術は神経に直接つなぐから、メチャクチャ痛いんだよ」
「…………え?」
「…………」
「え? ちょっとユウ? なんで顔を青くしてあたしから眼をそらすの!?」
「ああっ、契約者用の手術室の用意。拘束具のチェックしろ」
「ちょっ、光一! 手術室はわかるけど、拘束具って何!?」
「大丈夫、像が暴れてもびくともしない頑丈な奴だから」
「そんなこと聞いてないわよ!!」
この日、勇気のブレイカーは本当の意味で、主となる契約者を得ることとなる。
名は一条宇佐美、兄である先代一条宇宙の遺志を継ぐべく、契約者として――
『~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!』
声にならない断末魔をあげた。
「「「…………」」」
「……なんか思い出すな」
「……やめろ、思い出したくもない」




