第97話
一条宇宙。
かつて、第三次世界大戦を終結させた、14人の契約者の1人。
前勇気の契約者、朝霧裕樹の対であり、現勇気の契約者、一条宇佐美の兄であり――今は亡き存在。
その彼の墓は――
「――意外かい?」
「――ああ、意外だね」
「逆に問わせてもらおうか。同胞の墓を参って何か悪いのかな?」
世界崩壊の折に破壊されたため、会議場の地下――正負廟に安置する事になっていた。
「――同胞か。お前からそんな言葉が」
「僕は彼を見放した覚えはない。確かに正負友好の折、僕は君達に反対し何度も敵対したが、別に否定してはいないよ」
――ユウと宇佐美が、光一とナツメを伴い、クエイクの背に乗りナワバリへと変えるその少し前の事。
ユウと宇佐美は、宇宙への墓参りをしようと地下へと降りて――
そこで、花を添える知識の契約者、天草昴。
「――まあよそう。折角の墓参りだ、無粋な争いを見せたくはないだろう?」
「……ちっ」
ユウと宇佐美は、花を添え手を合わせる。
「……」
その様子を、昴はじっと見ていた。
――彼らが立ちあがる時まで
「……1つ、聞いていいですか?」
「なんだい?」
「――貴方は、兄さんと敵対してたんですか?」
「そうだよ。当時は、正負友好なんてやった所で、逆に無駄な犠牲を募らせるだけだった」
「でも、兄さんは――」
「わかっているさ。彼は彼で最善の道を選ぼうとした――だが、僕も僕の、北郷さんも北郷さんの、最善と思う道を選んだまでさ」
そう言った所で、くいっとメガネを直す。
「――正解も不正解もない。ただ、僕は北郷さんの正義が必要と判断し、彼を否定したまでさ……今の君ならわかるだろう?」
「――わかりたくもありませんでした。でも、ここまでつきつけられて理解できない訳にもいかない」
「うん。ああいう者達が跋扈し、北郷さんはそれを止める手段として殺害を選んだ――実際無駄じゃないさ。彼のやった事はね」
「――宇宙は意味がある事は認めてはいたが、それを毛嫌いしてたがな」
「“お手手つないで仲良く歩きましょう”――そう教わっておきながら、つなぐべき手で命を奪い、仲良く歩くための足で命を踏み躙る者たちなんだけどね」
テロに次ぐテロ、世界崩壊等で減少した人口は、人の手で減り続けている。
「でも、彼らも人です」
「――人である事に意味はないよ」
「……ならなぜ、昴さんはここにいるんですか?」
「それが僕の責務だからだ。だから、いい加減な事も投げだす事もしないし、感情も一切交えない――慈愛を陥れ、憤怒を襲ったのも、憤怒の力が強くなりすぎ、世のバランスを大きく崩した故さ。言い訳に過ぎないが……っと、そろそろ時間だ。失礼するよ」
長髪を翻し、昴はその場を後にする。
「――ああ、それと」
「え?」
「色々と見て、色々と考えて、色々と話してみる君の真摯な態度、評価に値する――頑張りたまえ。君なら、僕達と並ぶのはそう時間がかからない筈だ」
――そして、その日の夜。
『第三次世界大戦――あの戦争で、人は一体何が変わったかな? ……何も変わってないよね? ただ、契約者の正と負、そして人という区別が生まれただけだった』
『――人である事に意味はないよ』
「…………」
宇佐美は、思い返していた。
――自分と同じであり、先輩である人達の言葉。
そして、東城太助の――人に絶望した男の言葉が、脳内に半濁する。
カチャッ……!
「?」
「…………」
「あら、葵? どうしたの?」
「――一緒に寝る」
「そう……なら、おいで」
「ん」
初めて契約者としての仕事に取り組んだ際、光一とともに保護した少女、三村葵。
――彼女とは今も一緒に暮らしていて、皆とすっかり打ち解けていた。
特に宇佐美が懐かれていて、良く布団にもぐりこんでいたりする事が多い。
「――あったかい」
「よしよし」
抱きついてくる葵の頭をなで、宇佐美はゆっくりと目を閉じる。
――明日、明後日、果ては1週間、1ヶ月、1年と、いつ答えが出るかわからない自問自答を、今は忘れて。
――その次の日
「故障!?」
「ああっ、クエイクのブースターが壊れたらしくて、今修理中」
朝一番に、ユウと宇佐美が光一を伴い、出向いた場にて。
移動手段ともいえるクエイクの不調に、2人は唖然としていた。
「おいおい……じゃあ時間が」
「――傲慢に連絡入れて、予定を伸ばして貰ったから。それと、友情が配備した量産型クエイクの事で、用事があるっつって」
「友情――アスカか」
友情の契約者、アスカ・ホークアイ。
宇佐美もまだ、自己紹介の時に会話を交えただけだが、ボーイッシュで気さくな女性、という事しか知らない。
「あたしには、何の用かな?」
「単純に、会って話したいってだけじゃないか?」
「――ちょっと、楽しみかな?」
――生き場のない感情、終わりのない問答
それぞれの正義、持論――大罪、美徳との会話は、宇佐美にとっては貴重な物。
「――改めて、どんな人なのかな?」
「会ってみりゃわかるさ。契約者1のムードメーカーでもあるから」




