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大罪と美徳  作者: 秋雨
第6章 絶望と憎悪の宴
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第96話

幾つもの培養液の詰まった、大型ビーカーが並ぶ研究所。


その中で人間、合成獣キメラ等、様々な生物が電極やチューブなどを取り付けられ、標本の様に静かで、ピクリとも動かない。

動きらしい動きは、ビーカーの前に設置されている端末に、心拍数から血圧、脳波に至るまで様々なデータが記録されている機械、そして生命維持装置のみ。


「ん~……」



そして、生物的な動きはその研究所の所有者であり、契約者社会の魔王として知られる研究系契約者、東城太助のみ。

その足元には、彼の開発したスーパーコンピューターODIOに搭載された人工知能の、外部端末ともいえる、犬型のロボットが鎮座していた。


「――何やってんだろうね。ぼくちんは?」

『創造主。過程検索、間違い発見でしたら、スケジュール調整を行うべく申告願います』


既に自身をとらえていたテロリストたちは、皆殺しとなっている。

言うなれば自由の身であり、ここで元々の望みである隠居生活に入る事も出来た。


研究所自体が、人目のつかない場所の更にその地下にあり、人が出入りする事がまずないため、見つかる事はまずない。

唯一の出入りは四凶と指揮官ブレイブクローンだが、その出入り口は多数ある上に巧妙にカムフラージュされており、こちらも見つかる事はまずない。

仮に見つかっても、無理にこじ開けようとすれば通路自体が爆発して、痕跡も残らない様に設計されているため、探知はほぼ不可能。


つまり、動きさえしなければ、ほぼ絶対の安息が約束された隠遁生活の場は、整っている。

空気循環装置があり、研究所全部を十分賄える自家発電装置があり、食料は備え付けの物は勿論の事、合成獣キメラ生産が出来る以上十分賄え、水も問題はない。


更にそれらにはキチンと予備も用意されている上に、東城太助は研究者であり、研究所に存在する装置は全て修理できる。

――有限でこそあるが、それでもほとぼりが冷める程度まで、誰一人気付かれないまま隠遁生活を送る事が出来る環境は、整っている。


――にも関わらず、彼は世に宣戦布告し、研究を続けている。


「いや……しても意味がないさ。僕に絶望がある限りね――僕は魔王……人間に絶望した契約者社会の魔王、東城太助」

『“肯定”。魔王様、予定実行時刻2分前』


彼は“正義”の系譜“忠誠”のブレイカーを持つ、系譜の契約者。

――それを稼働させるものとは、全く別の物……絶望の囁きのままに、人を狩る男。


その男は、四凶のデータを見比べ、調整を施していた。。


巨大ヒュージ合成獣キメラは、その巨体故に維持に手間がかかる。

増して、東城太助はそれを4体、その全部に独自の処理を施しているため、手間も更にかかっている――が、だからこそ、四凶は大罪とも渡り合えた。


――スペック上では、上級系譜にも勝てないと言うのに。


「――んー……トウテツは重量がいるか。トウコツは少々栄養が不足、コントンは減量が必要、キュウキは問題はない、か」


更に言えば、その独自の処理により四凶はワンオフとなっており、同じものを造る事は出来ない。

その処理はこの四凶を、東城太助以外が保持し、扱えない為の枷ともなっている。


――捕らえた所で、たとえ最高の合成獣キメラ使いだろうと扱いも出来なければ、調整も決してできない、東城太助にのみ許された力である。


「さて……」


東城太助はデータを纏めおえ、四凶に調整を施し――


『本日終了過程、オールコンプリート。予想時間1時間短縮』

「なんだ、少し早く終わったのか」

『“肯定”スケジュール調整、開始――now loading――』

「――」


プツッ!


『――次のニュースです。本日の会議は、契約者社会最悪の犯罪者、“魔王”東城太助の反乱に対する政府の方針を』


ピッ!


『テロにより稼働が妨害され続けたピュアプラントで、生産率の向上が見込める栽培の成功が発表されました。植物性食料難は解決の兆しを見せ――』


ピッ!


『こちらは暴食のビオトープです。ただ今出荷が確認され――』


ピッ!


『強欲のナワバリで、土壌問題解決策が――』


プツッ!


「――子供にはゲンコツが一番だね、やっぱり」

『“肯定”――!“否定”』

「?」


ピッ!


『次のニュースです。友情のナワバリで無差別テロが発生し、数10名が死傷しました!』

『こちら現場です。発生したテロは、契約者の能力による犯行という情報があり――』


プツッ!


「…………ODIO」



――次の日。


『次のニュースです。昨日、友情のナワバリでフォールダウンと思わしき集団が、例の魔王勢力に襲われたらしく、無残な惨殺死体となり――』



「…………」


東城太助は、呆けていた。

――虚空を見上げ、見る者が見ればアホ面と評されても仕方ない、魂の抜けた様な様子。


「……ははっ、はははははっ……あはははははははっ……」


自分を突き動かす物は、人に対する絶望。

しかし――


「――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


ひとしきりに、叫び続け……。


「……はははははははっ! あーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


笑い続け――


「……うっ……うああっ……うああああああああああああああああっ!!」


泣き叫び続ける。


憎しみを晴らす事は、自分を否定する事。

憎しみを耐える事も、自分を否定する事。


人に対する絶望。

自分自身を苦しめる元凶であり、今の自分の存在を支える要でもある


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ…………はははははっ」


――故に、東城太助は、ゆっくりと壊れて行っていた。


正の契約者としての自分と、絶望に支配された魔王としての自分。

決して相いれる事も、両立する事もなく、互いが互いを打ち消し合うジレンマとなって。



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