第95話
世はひたすらに静かだった。
変わらず営みがある物は、契約者の機関のみ。
テロがなりを顰めると同時に、ぴたりとベヒーモスや四凶の出現は治まっていた。
だんだん落ちついてくると、人は外に出る様になり、徐々に活気を取り戻し――。
少しずつではある物の、元の状態に戻りつつあった。
――ただ、人心が落ちつきを取り戻していくように、疑念もまた巻き起こる。
“契約者はやはり危険な存在だ”
そう言う意見が出るのは、さほどかからなかった。
疑念は不安を呼び、不安は恐怖を産み、恐怖はやがて狂気となり……。
再びテロを引き起こす事となる。
――しかしそれも“四凶”により喰い荒らされ、それが不安をあおり逆戻りの悪循環。
契約者社会の魔王、東城太助。
人への絶望を掲げる彼の存在は、大罪と美徳、政府に次ぐ新たな均衡の一因となっていた。
大罪・美徳と政府高官との、会議にて。
「ピュアプラントの稼働率向上。この調子なら、植物性食品の不足問題は解決できるわ」
「はい。慈愛で行っている水産養殖も順調です」
「こちらも、食用合成獣の生産は順調ですね。植物、水産、動物性でこれだけの収穫があれば、食糧問題解決の兆しは十分見えるでしょう」
慈愛、色欲、暴食からの報告を受け、首相はにっこりと少し翳りのある笑みを浮かべる。
「嬉しい報告だわ。ありがとう、月ちゃん、怜奈ちゃん、我夢君」
「ありがとう。首相にそう言ってもらえてうれしいわ」
「はい。ワタクシ達にとって、首相は恩人ですから」
「小生も同じです。大罪、美徳の違いはあれど、貴方が居たからこそ今があると言うのは、全員同じだと胸を張って断言できます」
「――ありがとう」
東城太助の反乱は、政府にも影響を及ぼしていた。
というのも、大罪側に攻撃を仕掛け大量虐殺をおこない、その後はテロに対する攻撃。
最初の襲撃以来、民間の被害が出ていないとはいえ、大罪全員相手に多面攻撃を仕掛けてきたという事実は大きい。
それに拍車をかける様に、対契約者強硬派が東城太助の反乱を理由に攻勢を仕掛け、議会は荒れに荒れ……る事はなかった。
その議会の次の日、その全員の宿泊地が四凶に襲われ、喰い殺されてしまったが故に。
――余談だが、その宿泊地で殺されたのは、対契約者強硬派の高官のみ。
他の宿泊客や従業員は、一般人契約者問わず一切手を出す事なく、去って行っていた事が様々な推測を呼び、この事から東城太助に対する賛同者も出始めていた。
「以上で、報告は終了だな――しかし、東城太助についてはどうする? 奴を野放しにする訳にもいかんだろう?」
「うん。これじゃ誰も外に出歩けないし、社会機能がストップしちゃうよ」
「……めんどくせえ。誰も何もできなくなる」
王牙、アスカ、公人の3人が、ポツリとそう呟き――。
「だが、奴を倒した所でまたテロとの堂々巡りだぜ? それに、人に絶望したって言うあいつのいい分、わからん訳でもねえじゃねえか」
「ジレンマだね……皮肉な事に、彼の行動が世界の問題解決を助長しているんだ。彼をどうするかで、この先の人類の命運も大きく変わる」
「…………(こくこくっ)」
それに対して、シバ、昴がそう返し、詠がうんうんと頷く。
被害こそ出て入る物の、世の問題解決に取り組む環境が整えられていること故。
結果として大罪、美徳間でも意見は分かれていた。
「――お前達はどうなんだ? 朝霧裕樹、一条宇佐美」
それまで黙っていた白夜が、2人に問いかけた。
「――正直、わかんねえよ。なんでかはわからんがな」
「……ユウ」
「――何を選ぶか。それで未来は大きく変わる……全ては選択次第。誰のせいでもありはせず、何が悪いと言う事もありはしない」
それまで黙っていた凪が、割り込んできた。
――愛用するタロットカードをシャッフルしつつ。
「――凪」
「いずれにせよ、東城太助という男を野放しにはできない――我らは我らの役目がある」
ぺらりとタロットカードを並べ、2枚を手に取る。
「――だが、彼が人に絶望した事も理解出来る」
「どっちなんだよ!?」
「――どちらでもない。増して、そのどちらでもない答えもある」
「……回りくどい野郎だな、あいかわらず」
「半端な人間程、近道をしたがる物……最もそういう人間に縁があったが故だ。すまない」
誠実のナワバリは、魔術都市として知られている。
特に誠実の傘下には凪を始め、予知能力を持っている契約者が多く、それ故に独自のシステムを構築し問題の解決に取り組んでいる。
――それ故に、あらゆる方面から悪用したがる者からのアプローチが最も多く、それが世を揺るがす問題となった事があった。
それが経済バランスが大きく崩される事に繋がる、と言う予知を見たが故に、凪自身がそれを首相に相談した事。
それが、契約者との接触における制限の誕生につながった。
「いや、良いよ……お前なりの誠意だってのは、理解してるから」
「――感謝する」
故に彼は、誠意を大事にする。
欲望でも流されての物でもない、本物の意思――それを尊重する傾向が強い。
「ふーっ……で、どうすんだ? ユウよお」
葉巻を吹かし、シバが問いかける。
「……東城太助について調べて、その上で決める」
「良いだろう。元正義のナワバリ限定で、通行を許可してやる」
「……すまんな」
「あたしも、お願いできます?」
それには、その場の誰もが驚いた。
「――構わん。すぐにでも手配しておく」
「……ありがとうございます
「では、解散!」
白夜の号令で、解散。
「……ねえ、ユウ」
「ん?」
「――兄さんの死を弄んだ人。憎い筈なのに、なんでだろ?」
「……俺も同じさ。だから、その答えを探しに行くんだよ。一緒にな」
「――うん」
会議場から外へ出ると、光一とナツメの出迎え。
その後に、クエイクの背に乗っての空の帰路
「――正義のナワバリに?」
「ああっ、不謹慎なのはわかってるが、留守は任せていいか?」
「わかった。任せてくれ」
「うん、光一の兄さんのサポート、任せてよ。ユウの兄さん」
「ああっ」
「……見つかる、かな? あたしは、結局何をすべきなのか――ううん、見つけよう」




