第93話
広がるのは、無残な光景だった
溶岩と風で抉れ、焼かれた大地に、その中心に立つ2人の男。
プロテクターは溶解、あるいは切り裂かれ、血が未だ滴り落ちている指揮官ブレイブクローン。
風で斬り裂かれ、手甲による打撃あとが目立つうえ、眼帯がはがれ古傷が露わになっているユウ。
「……」
かつて宇宙に付けられた傷が、ずきりと疼くのを感じていた。
「……でも、どうして?」
これはクローンである事は間違いないが、自然過ぎるほど自身の脳裏に刻み込まれた一条宇宙の動きその物。
――それどころか、雰囲気さえも同じで、とてもクローンと言ったちゃちな物で再現できる代物ではない、正真正銘一条宇宙の物。。
――しかし、一条宇宙はすでに死んでいる。
まして、妹相手にあんな事を言う男でもない。
『聞きたいかい?』
そこへ割り込む声
『BC-0。もう良い、そこまでだ』
「了解」
『通信機を朝霧裕樹へ』
通信機を差し出され、ユウは奪い取る様に受け取る。
「――誰だお前は?」
『ブレイブクローン、ブレイブトレースの開発者って言えばわかるかな?』
「……東城太助」
『正解。流石に君はわかってるだろうから、教えてあげるよ。BC-0、つまり君の前に居るブレイブクローンは、オリジナルの脳を移植した特注品なんだ』
「っ!」
『つまりそれは、一条宇宙本人と言う事さ。ただ、人格をいじらせては貰ってるけどね』
その言葉に、ユウの頭の中で思い切り引きちぎれる音が響く。
無論、それを聞いていた宇佐美もまた、同様だった。
『――その様子、やはり君じゃないんだね。一条宇宙を殺したのは』
「っ! ……」
『……ぼくちんの思った通りだ。マー君と同じだよ、君は』
一人称とマー君……恐らく北郷の事
に、色々と突っ込みどころはあったが、ユウは黙って聞いていた。
『第三次世界大戦――あの戦争で、人は一体何が変わったかな? ……何も変わってないよね? ただ、契約者の正と負、そして人と言う区別が生まれただけだった』
正の契約者、負の契約者、一般人。
――世界はこの3つに区分され、それぞれの立ち位置が確立され、それぞれの思想が生まれ……それぞれの欲望が生まれた。
『その後も同じさ。正と負の戦争、人のテロ、諍いに争い――手を取り合う事を選んだ一条宇宙と、元凶である負の契約者殲滅を選んだマー君の争いは、マー君の勝利。そのマー君も乱世の最中で姿を消し、世界は謎の崩壊を起こし――その崩壊で生じた問題故に人類は存続の危機に陥り、手を取り合う事を選んだ』
「――お前はそれが気に入らないとでも?」
『まさか――人と言う種が絶えてしまっては、何もかもが意味がない。マー君は負の契約者せん滅の先に、未来があると信じて進んでいたんだ……ぼくちんにそれを踏み躙るなんて出来やしない。だが、それを理解できない者達もいる』
テロを起こす者達。
反契約者団体“大地の賛美者”、正負友好を反対する契約者達。
――主に、乱世で大切な物を失った者達。
『それならまだ良いさ――でもぼくちんが接触した奴等は、揃って虐殺して喜ぶ事しか考えていなかった。何より耐えがたかったのは、そいつらは揃いも揃ってマー君の正義を、ただの虐殺としかとらえてなかったのさ』
「…………」
『……マー君の正義は、確かにやり過ぎだったかもしれないけど、必要とはされていた。救われた存在だっていたし、未来を守る事も出来たんだ……許されない事を重ね続けこそしたけど、決して無意味だった訳じゃない――でも、表面しか見なかったそいつらも、もう居ない』
ぼくちんがたった今、すべて殺したからね
その言葉だけは、通信機を通しての物だと言うのに、偉くのっぺりとした雰囲気だった。
「…………」
『この襲撃は、そいつらの依頼を表面上果たす必要があったから、そうしたまで――でも、ぼくちんはまだ満たされない』
「――何をする気だ!?」
『――魔王となるのさ。ぼくちんは……いや、我らはね』
「!?」
『ODIOの名のもとに――BC-0、戻れ』
「了解」
「!? 待て!!」
――所変わり、東城太助のラボ。
そこで東城太助は、一心不乱に端末を操作していた。
彼の目の前には液体で満たされ、人間の脳が中で浮かぶビーカーが何百と立ちならぶ光景
「和也……健二……フレイ……丈……由良……アイ……」
その太助の口からは、ただひたすらに人の名がつづられていた。
今は肉体が死に絶え、今は脳となって目の前のビーカーに詰められている、かつての友人たちの名を。
「ぼくちん達は未来を憂い、ぼくちん達の正義の先に誰もが笑いあえる世界があると信じ、ただ純粋に信じて、戦い続けてきた……だが、現実は違う。ぼくちんたちの犠牲を足蹴にし、誰も彼もが未来を見据える者達を否定する――自らの欲望を満たす事しか頭になく、周囲も自身の恥も省みない者達によって」
バンっ!
「……ぼくちん達の無念と憎悪。今立っている場所が、どういう物かを知らない者達――その意味を教えてやろう。皆」
部屋を出て行き、ある場所を目指す。
自身が開発したスーパーコンピューター“ODIO”の元に。
「――ODIO。準備はいいか?」
『ハイ、創造主』
「――1年。マー君はどう思うかな? ぼくちんを」
『答えかねます』
「……それで良い。それじゃあODIO、1ヶ月後を楽しみにしようか」
『1ヶ月。了解』
「今回の事が、世にどんな影響を及ぼすか――それを見極めてからでも、遅くはない」
「――誰が何の目的か……だが、そこらのテロリストとは違う事はよくわかった」
「……めんどくせえ。これから、どんなめんどくせえ事がある?」
「――小生達は、一体どこへと向かうのでしょうね?」
「――厄介なもんが動いてやがるか。だが、芯の通った相手だっつーんなら、やりがいがあらあな」
「…………『――誰かが、何かをやろうとしている、か……忌々しい』」
「――強引かつ、印象的なアピールだったわね……ダーリンたち、大丈夫かしら?」
大罪達は、感じ取っていた。
――この先の動乱の予感と、新たな敵の決起の気配を。




