調剤薬局ストーリー(読み切り)
医療職では地味と称される薬剤師の実態はどういったものなのか。
調剤薬局の薬剤師はどういったものなのか。
恐らく、世間はその実態を知らないであろう。
この春、多くの薬剤師が2年間の沈黙を破って世に放たれる。
その若き新生薬剤師を国民がどう受け止めるべきなのか。
その石杖の一つになれたらいいなと思っております
「調剤薬局ストーリー」
※
哲也と一緒に夜中の峠をバイクで攻める。
ノーヘルの風圧は髪の毛をたなびかせ、その気持ちよさに右手のアクセルを何回も捻る。
最高だぜ!
ヘアピンを何度も交わし、山頂のドライブインに差し掛かると、突然サイレンが鳴った!
白バイの赤い点滅灯が二つ追いかけて来た!
哲也のバイクは更に加速してカーブを攻める。
俺もそれに続こうとした瞬間、一台の白バイに回り込まれた!
「くそっ」
交わそうとしたが交わしきれない。バイクの性能は向こうの方が完全に上だ。強い口調でやかましく制された俺は、ついに観念してアクセルを緩めバイクを停めた。
もう一台の白バイは哲也を追って行った。
降りてきた白いヘルメットに職務質問を受けている俺の右頬がほのかに明るくなった。
「えっ?!」っと思ってその方向を見ると、暗闇の木々を照らして、オレンジ色に立ち上る煙が見えた。
「まさか!」
俺は制止する警官を無視して、その方向へと走り出した。
バイクと違い、走っても走っても、なかなかその煙の所に辿り着かない。
それでも俺は全力で走った。
近づく明るさと、燃え盛る金属の残骸を遠くに見ながら、俺は喉の奥から叫んだ。
「哲也ーーーっっつ!!」
哲也に付添って病院についてきた俺は集中治療室の前で、静かに座っていた。
じっと廊下の四角い床のタイルを見つめて黙っている俺に、二人の警官もさすがに声を掛けられない様子だ。
ICU(集中治療室)のランプが消えた。
そして、開かれた扉から酸素マスクに点滴の哲也がベッドごと運ばれて出てきた。
近づこうとした俺は周りの者に制される。
「哲也は無事なのか!」
俺は入口に現れた全身緑色の手術着の奴に聞いた。
「かなりの火傷と両足の骨折だが、命には別状ない。二度と無茶をしないことだ」
俺はその言葉を聞いて安心すると、全身の力が抜けた。そして、その場に膝を付いて呟く様に言った。
「先生、ありがとう・・・」
しかし、そんな言葉も意味の無いものになった。
哲也は三日後に死んだ。
死因は薬の副作用らしい。
弱り切っている体に、合わない薬剤を投与された哲也は、その副作用に耐えきれず、呼吸困難でこの世を去った。その連絡を受けた俺は自宅謹慎を破って病院に駆け込み、涙の続く限りに泣いた。
退学は免れたが、停学で自宅謹慎中の俺はそれ以来、何もやる気がしないまま、ただヒマな時間を過ごしていた。
そんな俺の部屋に珍しくオヤジが入ってきた。
その神妙な表情に「コノヤロウ、俺に説教でもするつもりか?!」と身構えると、床に座ったオヤジは持ってきた黒い筒を開け、中から何かの賞状を出した。
俺が黙って見ていると、オヤジは真剣な目で俺を見上げて言った。
「秀一、これは父さんの大学の合格証書だ。大学に受かったんだが、家が貧しかったから父さんは進学を諦めて高校を卒業したらすぐに働いた。でも父さんは、本当は大学に行きたかったんだ。大学で勉強したかったんだよ」
以前、オフクロに聞いたことがある。
オヤジは高卒で就職したために大変苦労したらしい。
後から入ってきた若い大卒の上司に顎で使われたり、学歴の事で嫌味を言われたりしたこともしばしば。それでも歯を食いしばって努力した結果、同期でも出世組の部長にまで上り詰めたんだと言っていた。
それにしても、自分の大学のことを俺なんかに言ってどうするんだ?と言いかけた瞬間に、オヤジは俺に頭を下げてとんでもないことを言った!
「頼む、大学に行ってくれ!息子のお前に父さんの夢を叶えて欲しい・・・」
俺は目を丸くして反論した。
「おい、冗談だろ?!」
なんて無茶なことを言うオヤジだ。俺はここ半年、まともに勉強机に向かったことなんかねぇし、卒業したらバイクの修理工でもやろうと思って、そんな雑誌ばかり読んでいた。そんな勉強の出来ない俺に、あと一年もない高校生活の間に大学受験の勉強をして、大学に受かれって言うのか?!
絶対無理だろ、おまけに停学中だし。
俺はそんな突拍子の無い話をするオヤジの目を睨みつけた。
すると、いつもは目を伏せてどっかに行ってしまうのにきょうはそうじゃない。逆に見返してくる。
ここ数年、俺もオヤジも互いの目をこんなに凝視したことは無かったのかも知れない。
俺は低く唸ると、体を反転させて押入れを開け、暗くごちゃごちゃした中に上半身を突っ込みながら大声で叫んだ。
「一度だけだからな!一度だけ大学受験してやる。それでダメならあきらめろよ!その先は俺の好きにやらせてもらうからな!」
後ろでオヤジが礼を言っているようだったが、俺はどこかに閉まっておいた一年生の頃の教科書を探すのに忙しかった。
俺はオヤジの願いに乗ってみることにした。
やるとなったらとことんやるのが俺の信条だ。
それにしても、自分の学力は十分、分かっている。
高校一年生からやり直しだ!
大学なんて受かるかどうかわかんねぇ、とにかくやれるとこまでやってみる・・・
俺はそう決めた。
高校の卒業式も終わり、俺はひさしぶりに哲也の墓参りに来た。
花を換え、墓石に柄杓で水を掛ける。
すると、後ろで俺を呼ぶ声がした。
「秀ちゃん」
振り返ると、哲也の母さんが立っていた。
「おばさん・・・」
「お参りに来てくれたんだね。ありがとう」
何か言おうとして何も言えないでいる俺に気をつかってか、おばさんは優しく話しかけてきてくれた。
「秀ちゃん、大学に受かったんだってね。良かったわね、おめでとう」
「ありがとうございます。性に合わないんだけど、大学に行ってくれって、オヤジに泣きつかれたもんで・・・」
「そう・・・いいお父さんね。哲也もきっと、秀ちゃんの大学に受かったこと喜んでるわよ」
「・・・」
言葉の出ない俺の顔を覗き込むようにおばさんが言ったことに俺は驚いた。
「秀ちゃん、薬剤師になるんだね」
「えっ、薬剤師?!」
俺は、自分の受かった大学がどういう大学か詳しくは知らなかった。
とにかく自分の学力と受験科目に募集要項を照らし合わせて、受けられそうな大学を無作為に選んで、手当たり次第に受験していた。
そして、何とか一校だけ、ギリギリ受かったのがその大学だ。
薬学と書いてあったから、薬か何かの配合の勉強でもする化学系の大学だろうと思っていた。
そこで、化学に強くなって、特殊な燃料の配合とか勉強できたらバイクの整備に役立つと勝手に期待していた。
それがまさか、俺としてはあまり聞きなれない「薬剤師」とかいうものになる大学だったなんて・・・
「そんな、薬剤師とかになる大学だったなんて、いま知ったよ」
と俺はおばさんに言った。
それを聞いたおばさんは「秀ちゃんらしい」と、思いっきり笑ったが、こっちとしてはそれどころじゃない。大学を卒業したらバイクのメーカーか整備工場に勤めようと思っていただけに、そんなあまり聞きなれない「薬剤師」なんてものになるなんて全くの予定外だ。
やっぱり大学に行くのをやめて、バイク整備の勉強をしようと考えた時、おばさんは哲也の墓に手を合わせて哲也に話しかけた。
「秀ちゃんね、薬剤師になる大学に受かったんだよ。秀ちゃん、きっとあなたの仇を取ってくれるわよ」
そうだった、哲也は事故ではなく、薬の副作用で死んだのだった。
「まいったな・・・。こうなったら、とことんやるしかねぇな」と心の中で呟いた俺は、おばさんと一緒に鉄也の墓に手を合わせた。
大学の六年間なんてあっという間だ。
実習とテストに追われて、ろくにバイトする暇もねぇ。
それなりには遊んだが、一番思い出に残ったのは、夏休みに独りで北海道をバイクで一周したことだ。
道路は真っすぐで、空気は冷たくてうまいし、広がる緑の景色は最高だ!
それから後は実習やら国家試験の勉強に追われ、学生生活のことはあまりおぼえてはいない。
そうして、国家試験に合格した俺は、晴れて薬剤師となり、調剤薬局に就職した。
調剤薬局とは文字通り、調剤を専門とする薬局で、病院から発行された患者の持っくる処方箋を元に薬を揃えたり調合したりして、それを患者に渡すまでが業務となる。
そんな薬局に勤めることになった俺だが、すぐに辞めた。
それには、こんなことがあったからだ・・・
ある日、薬局の待合の方から怒鳴り声が聞こえた。
「俺は患者だ!早くしろ!」
調剤室から覗いてみると、患者が同僚の新人の女性薬剤師に向かって吠えていた。
どうやら、待ちくたびれて腹いせに怒鳴ってるらしい。
あわてて出てきた管理薬剤師(薬局の最高責任者)の男性が即座に、その患者に対応したが、低姿勢すぎる彼の応対に調子づき、その男は更に大きな声で怒鳴り散らした。
その様子を見ていた俺はイラついたので待合へと出て、その男に応対した。
「うるっせーなっ!静かにしやがれ!お前だけじゃなくて、周りが皆患者なんだよ!」
俺に怒鳴られた男は面食らった様子で、急に静かになった。
言われてみれば確かにそうだろう、周り皆が患者なら怒鳴るのは控えて静かにするべきだ。
スイッチの入った俺は更にキレ気味に
「一体、何分お待ちなんですかぁあ?」
と聞いた。
「いやぁ・・・」
男は言葉に詰まった。
実は待ったと言っても、まだ十五分くらいの話だろう。ただ、病院で待たされた分のストレスがたまっていて怒鳴っただけだと予想はつく。
その瞬間、カウンターから他の女性薬剤師の呼び声が聞こえた。
「山川さーん、お待たせしましたー」
「あ、はっ、はい・・・」
呼ばれたのはその男だ。
タイミング良く薬が出来たらしい。
女性薬剤師は丁寧に薬の内容を説明すると、笑顔で薬を袋に詰めてその男に渡した。
それを受け取った彼は帰りがけに、その様子を見ていた俺に物凄く小さな声で「悪かったな」と、言ってきた。
俺も、彼に寄り沿う様に近づいて小声で
「気持ちは分かりますけどね」
と囁いた。
男はばつ悪そうに自動ドアを抜けて、帰って行った。
薬局は再び平常業務を再開した。
しかし、その後、その時の俺の荒々しい応対が問題視され、「新人のくせに生意気だ」、「あんな応対は薬剤師にあるまじき行為だ」などと、管理薬剤師の男にさんざん非難され、反省文を書かないとクビだとまで言われた。
「上等じゃねぇか」
と言って、怯むそいつに背を向けて、俺はその薬局を去った。
その後も、何軒かの調剤薬局を渡り歩いた。
学生の頃からそうだったが、どうも、俺は薬学生や薬剤師という人種とはウマが合わないらしい。
曇り空のデパートの屋上でのんびり漂う雲を見ながら、
「やっぱり薬剤師になんかなるんじゃなかったな」
と、俺は呟いた。
哲也とバイクを乗り回していた頃が一番楽しかった・・・
※
「斎藤さん、また洗面所で髭剃ってるんですけど・・・」
「もう、そんな時間?」
薬剤師の高橋の報告に、管理薬剤師である小枝子は、調剤室の時計を見上げながら呟いた。
もう夕方の五時。
薬局で唯一の男性薬剤師、斎藤のアフターシェイブの時間である。
彼は髭が濃いので、必ず夕方になると頃合いを見計らって洗面所で髭を剃る。
ジョリ、ジョリ。
T刃のカミソリと水だけで、青々と髭を剃っていく。
従業員用のトイレ横の洗面台でそれを行うので、皆、引いている。
仕方なく、小枝子が彼に声をかける。
「斎藤君、まだなの?他の人がトイレを使えなくて迷惑してるの」
「あぁ、すいません。もう少しですから・・」
そう言って、彼は顎に手をあてて、鏡で剃り上がりを満足げに確認している。
「もう・・・」
そう呟きながら、彼女は調剤室に戻っていった。
秋になりかけている夏の夕暮れ。
患者もいなく、薬局は珍しく落ち着いている。
先程の女性薬剤師、高橋が事務処理をしながら彼女に話しかけてきた。
「小枝子さん、あした新しい薬剤師の方が入ってくるんですってね」
「社長から聞いたの?私もまだ会っていないからどんな人か分からないんだけど・・」
「女性の方ですかね?」
「ううん、男の人みたいよ」
「えっ、男性?!幾つくらいの?」
「あなたと同じくらいだって言ってたから、まだ二十六、七、ってところじゃないかしら」
「えーっ!楽しみ!ステキな人だといいですね!」
「高橋さん彼氏いるじゃない」
「彼氏が必ずしもダンナさんになるとは限りませんよ!」
「まぁ?!」
「もし、いい男だったら、小枝子さんだって容赦しませんからね?」
「こわーい」
高橋の小悪魔的なウインクに肩をすぼめてそう答えると、きょう、三十三才になった小枝子は奥で処方箋の整理をはじめた。
夕暮れの調剤室の窓はオレンジ色に光っていた。
―翌日―
ちょっといい感じ・・・。
朝の朝礼で秀一の姿を初めて目にした小枝子は、そんな第一印象を彼に持った。
斎藤はちょっと不服そうに彼を斜めに見ていた。
高橋は何故か驚いて、半分興奮気味。
他の従業員の持った印象も、小枝子とさほど変わりなし。
しかし、秀一の放つクールで影のある雰囲気は小枝子の持つ雰囲気と交わり、狭い調剤室を静かに覆っていた。
※
軟膏のMIX(混合調剤)をしている俺に若い女の薬剤師が近づき、話しかけてきた。
「あなた、西丘高校の成田君よね?」
「そうですけど、アンタは?」
俺はこの女を知らねぇが、彼女は俺のことを知っているらしい。
「私は高橋岬。あなたと同じ西丘高の卒業よ」
なるほど、それなら停学をくらった俺のことは知っていて当然だ。学校内でも結構問題視されてたことを思い出した。
「で、何の様です?」
「何の様?ってぶっきらぼうね。これでも私はここではあなたの先輩よ」
「はいはい・・・」
話が長くなりそうなので適当にそう返事すると、俺は一息入れに事務室へ向かおうとした。
「成田君、どこに行くの?」
突然、店長(管理薬剤師)の榊原さんが聞いてきた。
「一息入れに行くんですけど・・・」
「成田君、勝手に休憩を取るのはダメよ。しかも、就業時間中の飲食は禁止」
「そうなんですか・・・とにかく、俺のことは名前の方で呼んで下さい。その方が慣れてますんで」
そう言いながら、俺はポケットからガムを一枚取り出して口にしようとした。
彼女はそれをサッと取り上げて
「私は小枝子。私も名前の方で呼んでいいわ」
と顎を上げながら言ってきた。
彼女はどう見ても俺みたいな生意気なタイプでないのに店長として精一杯つっぱたみたいだ。
なかなか面白い女性だなと思いつつ、苦笑いを溜めこんだ俺はそのまま先程の作業に戻った。
斎藤、とかいう奴の視線を背中に感じながら・・・
その時、突然、電話が鳴った。
ちょうど側にいた俺がそれを受けた。
向い側の病院からだ。
「毒物を飲んで自殺を図った女性が運ばれてきた!何か薬はあるか?」
「先生、胃洗浄は?」
「いまやってる!」
「ちょっと待って下さい、管理薬剤師に代わりますから」
そう言って俺は電話の子機を小枝子さんに渡すと、クレメジンカプセルの箱を見つけ出してスタンバイした。
電話を受けた彼女は、すぐに答える。
「先生、クレメジンカプセルを処方して下さい。こちらでカプセルを開けて中の活性炭を取り出しますので。それを飲ませて消化器官内に残っている毒物を吸着させて下さい」
「OK!わかった!」
電話が切れた。
その瞬間、俺が指示を出す。
「斎藤、お前、力ありそうだからクレメジンカプセル割ってくれ!即効だ!」
「OK!」
彼は、俺が物凄い速さでヒートから取り出した白い大きめのカプセルを両手の親指と人差し指で縦に次々と壊し始めた。
さすがに俺の見込んだだけのワイルドな奴だぜ!
カプセルの中からは、真っ黒な活性炭が次々とこぼれ、振るいの下にある受け皿に溜まりだした。
それを小枝子さんが計って素早く手分包(機械を使わない分包)でたたみ込むと、その束を高橋岬に持たせて向いの病院に急いで届けさせた。
「そのへんでいい」
俺の声に斎藤は手を止めた。
「毒物って何を飲んだんでしょうね?」
俺が小枝子さんに話しかけると、少しうつむき加減に「わからない」とだけ言って彼女はその場を離れた。
毒物へのこういう対応は一度でも経験した薬剤師でなければ知らないことだ。
俺は電話を渡すことで彼女の実力を試したのだが、その対応の早さは半端じゃなかった。薬剤師としては俺より全然経験と実力がある。
そんな彼女にその内容がわからないはずはない。
「なにかあるな・・・」
自分の経験や過去のことに触れようとしない彼女に俺は何かしらの共感を覚えた。
その日は、斎藤と一緒に早上がりだったので、お互い独身のこともあり、二人で夜の酒場に飲みに出向いた。
「カンパーイ!」
サラリーマンのごった返す店内で二人、重たいジョッキを軽々と仰ぐ。
「ぷはーーーっつ!」
最初はウマが合わないと思った俺たちだったが、聞くと同じ年齢だったもんだから意外と話が合い、あっという間に意気投合して一気に仲良くなった!
気難しそうだった彼も酒が進むにつれ「秀さん、秀さん、」と言って慕って来た。
俺も、斎藤に「サイバー」というあだ名を付けて、親しげに呼んだ。
サイバーは、三本の焼き鳥を鷲掴みに豪快にかぶりつく。
皮もモモも関係なく食いちぎる彼の豪快さに、俺は大笑いだ。
くちゃくちゃと焼鳥を噛みながら、彼は聞いてくる。
「秀さん、あんた小枝子さんのこと気に入ったでしょ?」
目が怖い。
「そんなことねぇよ」
俺はシラっとかわした。
「言っておきますけど、俺は小枝子さん一筋なんで」
「なら、さっさと口説いちまえよ。もたもたしてると俺がさらっちまうぞ!」
「そんなこと言わないで下さいよ。口説くなんて緊張しちゃってダメなんですから」
彼のしょぼくれた顔を見て、俺は再び笑った。
そしてさらっと聞いてみる。
「それにしても彼女、きょうの毒物の対応、思いっきり早かったなー」
すると、サイバーはジョッキを見つめ、険しい顔で呟く。
「小枝子さん、自殺の経験があるのです・・・」
特に理由も無いが、俺はその言葉に胸を締め付けられた。
自殺を図った理由を聞いたが、彼は黙って何も言わない。
ただ、悔しそうな顔をしていた。
俺は静かに、サイバーの分もビールのおかわりを頼んだ。
次の日は遅番だったので、薬局には十時に付いた。
調剤室からのサイバーの変な合図を確認しながら待合を抜け、ロッカーのある事務室へと入った。
そこには小枝子さんと見知らぬ男がいて、真剣に何かを話しあっていた、と言うよりは言い争っていた。
軽く挨拶だけ済ますと、俺はその脇を通りぬけようとした。
すると、その男が俺に話しかけてきた。
「お前、こんど入ってきた新入りか?」
彼のいきなりの偉そうな言い方に、俺はいつもの通りに対応した。
「だったら何なんだよ」
小枝子さんがあわててとりなす。
「秀一君、この方は本部の川田さんよ。初めてだったわよね」
「えぇ。そうですか、始めまして。昨日から厄介になっている成田秀一です」
「本部の川田だ、噂は聞いている。あまり問題を起こさないでくれ・よ」
最後の「よ」のところが聞こえなかった。
というよりは、彼が言い終わる前に、気に入らないその喉元に俺が軽く拳をみまったからだ。
そのまま俺はロッカーに向かい、白衣に着換え出した。
背中を丸めて喉元を抑えてる川田はこっちを睨んではいるが、かかってくる様子はない。
怒ると思った小枝子さんは意外にも黙っていた。
白衣を纏った俺は二人を気にすることなくその横を抜け、調剤室へと向かった。
「サイバー、あの川田って何者なんだよ?」
「一応、本部のお偉いさんさ。社長の腰巾着みたいなもんすよ」
「ふーん、そうか」
―「もしかしたら、俺は早くもクビかも知れないな」と、思いつつ、作業に入る。
サイバーが更に小声で話しかけてくる。
「秀さん、奴が小枝子さんの自殺の原因だよ」
「何?!どういうことだよ」
「川田さんは、以前はここの店長で、小枝子さんの元旦那なんだよ・・・」
サイバーの話だと、小枝子さんの自殺未遂が原因で去年、二人は離婚したらしいのだが、川田の方は会社を辞めないでいたので、社長は親戚筋である小枝子さんのことを察し、その計らいで、川田を本部配属にして、半ば強引に閉じ込めた、とのことらしい。
それでも、彼はたまにこうして本部のご威光を傘に未練がましくやって来るらしい。
それを聞いて胸騒ぎがした俺は、もう一度事務室に戻った。
すると、そこでは、川田が小枝子さんを拳で殴っていた。
俺も初めて見たが、それは明らかにDV(ドメスティック・バイオレンス:夫の暴力的虐待)だった。
これが全ての理由か・・・。
俺はゆっくりと呼吸を整え、冷静に怒りを溜めた。
近づいた俺の存在に気付き、目を丸くして驚いた川田は、俺から二度目の拳をくらってその場に気を失って倒れた。
その川田をよそに、俺は床に倒れていて起き上がろうとしていた小枝子さんに手を差しのべながら聞いた。
「大丈夫ですか?」
「・・・えぇ」
彼女は赤く腫れはじめた頬を恥ずかしげに隠しながら俺を見上げ、
「皆には黙っていてね・・・」
と小さく言ってきた。
そんな彼女に強い愛しさを感じた俺は、その襟元をわしづかみにして、彼女の唇を思いっきり吸った。
小枝子さんは意外にも抵抗をしなかった。
しばらく濃厚な接吻をした俺たちは、川田のうめき声で唇を離した。
何か言いたげな川田の首元を掴んで引きずり上げると、俺はそのまま、事務室のドアを開けて川田を調剤室に向けて放り投げた。
「サイバー、こいつ、表に捨てておけ!」
驚き喜んでいる彼をしり目にドアを閉めた俺は、小枝子さんの華奢な体を強く抱きしめて更に強烈な接吻を交わした。
社長の親戚である彼女の計らいで、俺はクビを免れた。
※
あの事件以来、俺と小枝子は付き合うことになったが、当然、薬局の皆には内緒だ。
でないと、店内の統制がとれないだろうし、サイバーが暴れだしそうだ。
そんなある日、珍しく患者と言い合う高橋の声を聞いて、俺は待合に出た。
すると、そこでは、まだ十代だろうか、俺が哲也とバイクを乗り回していた頃みたいな感じの若者が生意気な態度で口をきいていた。
「うるっせーな!そんなことお前に言われる筋合い無いんだよ!」
聞くと、何かヤバイ薬を買って飲んでいるらしい。それを高橋が咎めたみたいだ。
俺が応対する。
「何の薬飲んでんだ、俺に見せてみろ!」
「お前、何なんだよ!偉そうに。俺は患者だぞ」
「患者だから聞いてんだよ!その辺のガキだったら放っておくんだよ」
チッ、っと舌打ちした彼はポケットから数種類の錠剤の入ったビニールを取り出した。
それを受け取った俺は、そのままそれをゴミ箱に放り込み、そのままその手で思いっきり彼の頬をビンタした。
「死にてぇのか、お前?!」
その場に倒れ、驚いて怯んだ若者は、
「そんなにヤバイ薬ですか?」
と、聞いてきた。
「あぁ、ヤバイ。習慣性がある。こいつを続けていると、そのうち効き目が薄れてきて、その頃にタイミング良くさらに強い薬を薦めてくる。それを飲んだらもう終わりだ。一生、その薬から抜け出せねぇ・・・」
その薬の恐ろしさを理解した若者は俺をまじまじと見つめると、
「ありがとうございました・・・」
と言って、頭を下げた。
俺は間に合った、と、思った。
バイク事故の件で、痛感している。
俺もそうだが、若い頃は無知故に大切なことを何も知らねぇ。
だから、簡単に一生修正のきかない道の踏み外し方をする。そんな、道を踏み外しかけた時には、こうして強く大人の意見を言ってやらなければならない。
何があっても、俺のオヤジの様に強く・・・。
いまのやりとりに小枝子が心配して出てきたが、無事済んだので、俺は素っ気なく調剤室に戻った。
二人の関係がバレては薬局の運営に良くない。
高橋が俺の後を追ってきて調剤室で親しげに話しかけてきた。
「成田君、ありがとう。おかげで助かっちゃった?」
目にゴミが入ったのか、笑顔でしきりにパチパチしている。
そんな様子を小枝子はガラス越しに寂しく見ていた。
薬局からの帰り、少し離れた公園で、俺は小枝子と待ち合わせをしていた。
しばらくして、彼女がゆっくりと現れた。
そのしょんぼりした様子を見て俺は聞いた。
「元気ないな、なんかあったのか?」
「ううん、別に・・・」
「そんなことないだろ?何でもいいから言ってみろよ」
俺の強い問いかけに彼女は口を開く。
「・・・なんか、高橋さんとのやりとり見てて、こんな年増の私より、高橋さんみたいに若い娘の方があなたにはいいのかな、って思っちゃって・・・」
彼女の、こんな消極的なところが、川田のDVを引き起こしたのかもしれないな、と思いつつも、その中に秘められた年下の俺に対する小枝子の心の葛藤と不安を感じながら、俺は口を開いた。
「俺はアンタの事が好きだ。それは絶対に崩れねぇ。だからもっと自信を持ちな」
「信じていいの・・・」
大きな眼で問いかける彼女に俺はバイクの横から丸いスイカくらいのピンク色のものを取り出した。
「俺が薬局に来る前の日、誕生日だったんだってな。かなり遅くなったけど、俺からの誕生日プレゼントだ」
そう言って、俺は彼女の頭にすっぽりとフルフェイスのヘルメットを被せた。
驚いている彼女をよそに、俺もヘルメットを被り、互いに声はあまり聞こえないので「乗れ!」とだけ合図して、彼女を初めて俺のバイクの後ろに乗せた。
腹にしがみつく小枝子の細い腕を確認すると、俺は湾岸目指して一気にアクセルをふかした。
吹きつける風圧が気持ちいい。
俺は振りかえって叫ぶ。
「どうだ!」
小枝子が耳元で叫んだ。
「最高ー!!」
ご機嫌な俺たちを乗せたバイクは更に加速した。
灯りだした大都会のネオンは俺と小枝子を呑み込んでいく。
※
ある日、ホテルを出た俺たちは、空腹を満たすために夜中の牛丼屋に入った。
並んでカウンターに腰をおろす。
「決まったか?」
「ううん、秀ちゃんと同じのでいい」
うつむき加減に小枝子が答える。
「そうか・・・」
カウンターの内側を回遊する店員に俺は声を掛けた。
「大盛りつゆダク味噌汁と並つゆダク味噌汁」
その注文を素早く書き留めた店員は奥へと消えていった。
「秀ちゃん、いま何を頼んだの?!」
小枝子が驚いた感じで小声で聞いてくる。
「何って牛丼じゃねぇかよ。俺は大盛りだけど、小枝子のは普通にしといたぞ」
「えっ、どうやって?!」
聞くと、小枝子は生まれて初めて牛丼屋に入ったらしい。
どうりで、さっきから落ち着かない様子なのかと俺は理解した。
俺は彼女に、牛丼屋の符牒(注文の略語)を教えてやった。
「ナットウ、牛シャケけんちん、ダクダク、アイガケ、・・・」
小枝子は驚きつつも、楽しそうにそれを聞いていた。
牛丼が運ばれてくると、こんどはその食べ方の説明だ。
紅ショウガはここ、七味はここで、俺は七味を牛丼と味噌汁に掛ける。箸はここで、・・・初めての小枝子は何でも楽しそうだ。
本来なら十分もいない牛丼屋に結構長居した。
店を出ると、空が明るみだしていた。
「急いで帰らなくっちゃ」
そんな小枝子の言葉を寂しい感じで受け止めたおれは、「そうだな」と言って、彼女を店の前に待たせ、バイクを取りに行った。
バイクに向かうと、その陰に三人のガキどもがたむろしていた。
俺は無視してエンジンをかけようとすると、その中のひとりが
「兄さん、金貸してくれねぇかな?デート代余ってるんだろ?」
と言ってきた。
気にせずにキーでロックを外し、手でバイクを移動させると、無視されたガキが後方で吠えてきた。
「無視してんじゃねぇーぞっ!!」
振り返ると三人立ちあがっている。
俺は更に無視してバイクを立て、ヘルメットを取ろうとした。
「コノヤロウ!」
一人が殴りかかってきた。
バイク脇のフックからヘルメットを外すと、そのままそれで、そいつの顔面をブチかました。すかさず他の二人も掛ってきた。
そのまま乱闘になった。
三人相手にどう闘ったか覚えていない。
とりあえずサイレンの音で倒れているガキ以外は逃げたので事が納まった。
遅い俺を不思議に思って見に来た小枝子が警察に携帯電話をしたのだった。
近くの警察署で職務質問と軽い注意を受けて、俺と小枝子はそこを出た。
特に会話も無く、駐車場のバイクまでゆっくりと歩く。
「・・・悪かったな」
よく分からないが、心配と迷惑をかけちまった彼女に俺は謝った。
人に謝ったのは何年振りだろう・・・哲也の母さんに謝って以来かもしれない。
大きく息を吸って吐いた小枝子は俺に向き直ると、優しく言った。
「もう、子供なんだから・・・」
不服気味に見返した俺の眉尻のキズを彼女が指で弾いた。
「いてっ!」
「さあ、急いで帰ってキズの手当てしましょ」
そう言って小枝子は小走りに俺の前を歩き出す。
俺もその後を追う。
そして思った。
俺は子供なのだろうか・・・。
その日、俺は初めて小枝子のアパートに入った。
「何やったんすか?!」
その朝、薬局に行くとサイバーが、絆創膏まみれの俺の顔を覗き込んで半分笑い気味に聞いてきた。
「なんでもねぇよ」
「秀一君、何があったか知らないけど、その顔じゃ患者さんの前に出るのは無理ね。きょうは一日、調剤室にいて調剤してなさい」
更衣室に向かう俺に時間差で一足先に出勤していた小枝子が言ってきた。
「はーい。すいませーん」
事務室のドアを開けながらトーンを落として俺は答えた。
昨日の件で俺も小枝子も、殆ど寝ていない・・・薬局の長い一日が始まりそうだ。
昼過ぎ頃、期限ギリギリの処方箋を持って中年の男性患者が現れた。
そんなに暑くも無いのに結構汗をかいている。
小枝子が応対した。
俺も気になって、あまり顔を出さない様にしながらも様子をうかがった。
どうやら、まだ家に薬があったためか、けさになって処方箋の薬を貰い忘れていることを思い出してあわてて近所の薬局にもらいにいったらしい。処方箋の期限は四日だ。それを超えると手続きが多少面倒になる。
それにしてもこの患者、運が悪い。処方箋の発行元はここからかなり遠い大学病院で、記載されている薬も結構特殊だ。
恐らく、この辺の薬局には無いだろう。
「秀一君・・・」
調剤室に小枝子が入ってきた。
「この処方箋なんだけど、患者さん、この辺の薬局ぜんぶ歩いて回ったけど薬が無かったんだって。もちろんうちの薬局にも無いし・・・」
小枝子が薬局のことで俺に判断を仰ぐのは珍しい。
「それなら取り寄せるしかないでしょう」
「それが、この方、ボランティアでこれからアフリカに行くので、きょうの十八時半の飛行機で現地に向かうんですって。そうしたら二か月は返って来ないらしいの・・・」
「じゃあ、薬の入荷次第、航空便で送るしかないですね」
「それが、あしたからの飲む分がもう無いんですって!」
「何?!」
それじゃあ、絶対に薬をいま揃えるしかないじゃないか!
俺はあわてて時計を見た。午後二時を回っている。余裕を見てもあと三時間半くらいしかない。
薬を急ぎで注文したとしても、おそらく入荷は最速で夕方の六時すぎだ。
俺の頭が高速で回転する。
それがヒートアップしかけた時、答えが弾き出た!
「ネットで処方箋発行元の大学病院近隣の薬局を調べて、そこに電話して薬を小分けしてもらおう。おそらく、何軒かあたれば薬はあるだろう。病院の眼の前の薬局だと品ぞろいは完璧なはずですから」
「それでどうするの?」
「うちで出来るとこまでやって、会計まで済ませておいて下さい。俺はこれから、バイクでその病院の方に向かいます。分けてくれる薬局がわかったら現地から携帯電話で連絡するからその時、教えて下さい。患者は飛行機に間に合わないといけないから先に空港に向かうようにして、空港で俺と落ち合う事にする。俺が戻るまでに患者の詳しい連絡先とフライトの内容を確認しておいて下さい」
そう言い終わると俺は身支度をはじめた。
小枝子は何か言いたげだったが、黙って頷く俺を見て、即座に作業に入ってくれた。
大学病院までの往復で約一時間、一回この薬局に戻ってきて薬を受け取ってすぐに成田空港に向かっても、時間ギリギリだ。
とにかくやってみるしかねぇ。
薬局での作業は皆に任せ、俺はバイクで一路、大学病院を目指した。
途中、渋滞にあったが、それほど影響はなく、ほぼ予定の時間にその場所に付いた。
活気ある商店街の一角に、その巨大な大学病院はあった。
その周りを大小数々の調剤薬局が取り囲んでいる。
俺は携帯電話で自分の薬局に電話した。
サイバーが出たが、すぐに小枝子に代わった。
手短に薬局の名前と場所を聞く。
バイクを押して、言われた通りの薬局に着くと、ヘルメットを外して中に入る。
その薬局の中は患者でごった返していた。受付らしき女性が俺の姿を見つけると、調剤室の中の白衣の男性に声を掛けた。
俺より一回り上くらいか、その男性薬剤師に、既に話は伝わっているらしく用意されていた薬剤の入った薬袋を俺は受け取り、礼を言って代金を支払った。
こういった、薬局間での薬のやりとりは多い。患者のために薬を融通し合うのだ。
とはいえ、こんなに距離の離れた薬局同士でのやりとりはあまりないことだが・・・。
とにかく薬を受け取った俺は急いでそこを出ると、自分の薬局を目指してアクセルを噴かした。
戻ると、俺のバイクのエンジン音を聞いて、小枝子が出てきた。
その時、小枝子の後ろを抜けて薬局を出ようとした、見覚えのある青年が話しかけてきた。
「あれ、兄貴じゃないっすか?」
「おう、お前か」
それは、先日、俺にやばいドラッグをゴミ箱に捨てられて、おまけに強烈なビンタを食らったあの青年だ。
「いいバイク乗ってますね。どっか行くんすか?」
急いでるので、手短に話すと、何と、その青年も自分のバイクで一緒に行くと言い出した!
拒否した俺に青年は、「成田までなら東関東道(東関東自動車道高速道路)を通るから、そこを抜けるには白バイや覆面パトカーを交わさないとならないかもしれない。二台で向かった方がいい」と主張され、俺もその案に賛同した。
「お前、下の名前は?」
「テツヤと言います」
「テツヤか・・・頼もしい名だ。俺は秀一、頼んだぞ」
「まかせて下さい!」
小枝子は薬と患者のフライトのメモを俺に渡しながら
「気を付けて・・・」
と小さく言った。
俺とテツヤは簡単な合図を打ち合わせると心配そうに見送る小枝子に手を挙げ、日の傾きはじめた首都高へと向かった。
そして首都高を抜け、東関東道に入る。
スピードは控えめにしてはいるが、俺たちは並走しながらも次々と車を抜いていく。
幕張を抜けてしばらく飛ばすと、後方でサイレンが鳴った。
白バイだ!
その瞬間、テツヤがスピードを落として蛇行走行を始めた。
「テツヤの野郎!」
白バイに止められたテツヤがバックミラーの中で小さくなっていくのをやりきれない気持ちで見つめながら、俺はそのままのスピードで成田空港を目指した。
時間ギリギリに空港に着いた。
空港内に入ったが、あまりにも広すぎて、人も多く、約束の場所までなかなか辿りつけない。
そして、なんとかその場所に行ってはみたが、誰もいない。
携帯に連絡したが、電源が切られているのか繋がらない。しばらく待ったが、来る気配もなく、時間が無いので患者は恐らく手続きに向かったのだろう。
案内カウンターの係に分けを言って館内放送をかけてもらい、搭乗する人間に会えるギリギリの場所、一段低いホールまで行って待機した。
俺はそこでじっと待った。
会えないとマズイ・・・。
「おーい!」
しばらくして声が聞こえたので振り向くと、患者が手を上げて向かってきた。
息をついた俺は、彼に近寄った。
とりあえず薬の確認を済ませると、何度も礼を言う彼に搭乗を促し、その背中を見送ってから薬局に電話した。
電話には小枝子が出た。
無事に薬を渡し終えた報告と、テツヤの携帯電話の番号を聞いた。恐らく、薬局のパソコンのデータに入っているはずだ。
すぐに回答が返ってきた。それを手早く書き留めると、すぐにその番号を押す。
以外にもあっさりテツヤが出た。
「大丈夫か?」
「ええ、とりあえず。結局、免停喰らっちまいましたけど。それより、そちらは?」
「そうか・・・悪かったな。俺の方はおかげで無事、患者に薬を渡すことができた。ありがとう」
「よかった。・・・ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「薬剤師になるにはどうすればいいんですか」
「薬剤師になるにはとりあえず薬科大学に行くことだな・・・どうしてだ?」
「免停喰らっちまってバイクに乗れなきゃやること無いし、どうせ暇なら秀さん目指して勉強してみようかなって思って・・・」
「・・・俺なんか目指したってろくな人間になんねぇぞ。ただ、テツヤ、おまえみたいな骨のある奴が薬剤師になることを期待してるぜ」
そう言って俺はテツヤに再度、侘びと礼を言うと電話を切り、空港を出た。
東関東道を戻り、首都高を抜けて一般道に入る。薬局に着いた時には辺りはすっかり真っ暗になっていた。
すでに閉店しているはずなのに、中には明かりが灯っている。
入ると小枝子が一人で待っていた。
「秀ちゃん!」
俺の顔を見るなり、彼女は駆け寄ってきた。
そして、いきなり俺の胸に顔を埋める。
戸惑っている俺にこもった声で小枝子は言う。
「秀ちゃん、ほとんど寝てないのに出て行ったから心配だった。事故したらどうしようって怖かった。秀ちゃん、無事でよかった・・・」
俺は小さく震える小枝子の華奢な体を強く抱きしめた。
※
「秀一君、散剤(粉薬)を乳鉢(調剤用擂鉢)で混ぜるには乳棒(擦り棒)と乳鉢を逆回転で回した後、更に乳棒だけ逆に十回くらい回転させるの。そうしたら、比重で分離している粉薬も均等に混ざるわ」
俺が粉薬を混ぜていると、小枝子が寄ってきて教えてくれた。
やはり、彼女の調剤技術はかなりのハイレベルだ。薬局を何軒か渡り歩いて、それなりに経験のある俺でも叶わない。
小枝子が去った後、入れ替わりにサイバーが寄ってくる。
「小枝子さん、ずいぶん秀さんに優しいっすね」
「そうかな、気のせいじゃないのか」
「そうですかね・・・」
彼は首をかしげながら持ち場に戻って行った。確かに微妙な変化はあるだろうし、そのうちバレるとは思うが、その時はその時だ。
俺は混合した散剤を自動分包機に落とすと、ヘラでならし、スイッチを押した。
薬を受け渡すカウンターで、患者に薬の説明をしていたサイバーが、患者をそのままにして調剤室に入ってくると、誰と無く聞いてきた。
「アムロジピンで歯が浮く、っていう副作用ありますかね?」
アムロジピンとは高血圧の薬でカルシウム拮抗薬というものに分類される。カルシウム拮抗薬とは血管のカルシウムイオンの出入りを抑える薬剤のことで、血管のカルシウムイオンの出入りに連動する反応の血管拡張作用、つまり血管を広げて血液の流れを良くする働きを引き起こして血圧を下げる薬剤のことである。
その薬剤の主な副作用にはほてり、頭痛、めまい、等々、とあるが、「歯が浮く」なんてことは誰も聞いたことが無い。
サイバーを含め、薬剤師皆がこの問いかけに疑心暗鬼ながらも各種文献、関連書籍を調べ出した。
俺は黙って自分の記憶の中を検索し始める。
主要薬剤七千種類の持つ二万五千通り以上の副作用とその対処法が俺の頭の中にはインプットしてある。そこから、「歯が浮く」に関連する情報を探し出す。
・・・・・あった!
「歯肉圧肥だ」
俺の発言に皆が驚く。小枝子が急いで添付文書(薬に添付されている詳しいデータの載っている取扱説明書)をもう一度調べる。
「あった、0.1%未満の欄に「歯肉圧肥」ってある!」
0.1%未満とは、副作用の発現率が極端に少ないか、その副作用の発現も可能性として考えられなくは無い、といった程度の、本当に極稀な副作用の確率だ。
それでも、可能性は可能性として存在する。
歯肉・・・つまり、歯ぐきが厚みを持てば、感覚的に歯の浮いた感じになる。
患者は恐らく、その事を言っているのだろう。
小枝子がその薬の販売元である製薬会社のDI室(医薬品情報室)に問い合わせの電話をかけた。
すぐに答えが返ってくる。
「はい、市販後の段階でそのような副作用の報告はございませんが、当社の研究開発段階、フェーズⅢ(スリー)の時点でその様なデータの報告がありますので、発現率0.1%未満の副作用として掲載してあります」
フェーズとは薬の研究開発試験の段階を表現する言葉であり、その第三段階であるⅢは動物実験の段階、Ⅳは人での実験(臨床試験)を表す。
この薬剤をビーグル犬に投与した際、約千頭のうちの何頭かに、その様な歯ぐきの厚くなる傾向が見られたそうだ。
断定はできないが恐らくそれだろう、ということでサイバーが患者に説明に行った。
奴のことだ、患者をあまり刺激しない様に、丁寧に優しくその旨を伝え、医療機関(病院)に副作用の報告を促すはずだ。
じっと見つめてくる小枝子の視線を感じながら、何事もなかったかの様に俺はもとの作業に戻った。
薬局も終わり、待ちあわせの近くの公園で小枝子をバイクで拾い、コンビニに寄って弁当を買う。
小枝子のアパートに着いた時にはもう、夜の九時近かった。
それから遅めの夕食を二人でとる。
あまり女の部屋に入ったことの無かった俺は、初めて彼女の部屋に来た時は妙に落ち着かなかったが、こうして何回か来てみると、慣れてくるものだ。
俺は居間に座るなり、早速缶ビールを開け、テレビを付けて一人で見だした。
酒を飲まない小枝子は後ろのキッチンで簡単に夕食の準備を始めた。
そこから彼女が話しかけてきた。
「ねぇ、秀ちゃん。なんであんな滅多にない副作用のこと知ってたの?」
俺は別に振り向きもしないでテレビを見ながら答えた。
「昔、無二の親友を薬の副作用で亡くしてな・・・それが悔しくて片っ端から副作用を覚えたんだよ」
哲也の事があって、それをいつまでも忘れられないでいる俺は、薬剤の膨大な副作用のデータを自分の頭の中に叩きこんだ。それが少しでも奴への供養になるかと思って。
そんな哲也を失った悔しさはいつも俺の眼に涙の様なものを浮かばせる。それを彼女に見られたくなかったから振り向かないでいた。
そんな俺を何か優しいものが包み込んだ。
小枝子が後ろから俺を優しく抱きしめてくれていた。
※
小枝子はいつも寂しげに同じことを俺に言う。
「秀ちゃん、私なんかみたいな年上でいいの?もっと若くて可愛い娘いっぱいいるのに・・・」
彼女はいつも不安を抱えている。
「若いとか関係ねぇよ。俺が好きなのは小枝子なんだから」
俺はいつもそう言って、彼女の不安を解いてやる。
俺の気持を確かめたいのか、不安なのか、それは分からない。ただ、俺は小枝子を大切にしているから、何度となく繰り返される同じ質問にも、何度となく真剣に答えてやる。
年老いるのが早いとか、先に死ぬだとか、とにかく小枝子の持つ不安は多い。
でも、それだけ不安を持つということは、それだけ俺といることが大切でこの俺を好きでいてくれている、と俺は勝手に思っている。
そう思えるだけの愛情を俺は彼女に注いでいる。彼女もそれに応えてくれる。
そんな仲のいい俺たちだった。
薬局のその日の早番は俺と小枝子だった。
早番と言っても、調剤薬局の朝はゆっくりめだ。
診療をすませた患者が院外処方箋を持って病院から出てくるのは早くても九時半過ぎ。
俺は薬局に八時半に来て黙々と掃除を始めている。
一緒に来た小枝子も調剤室で各種機器、パソコンのスタンバイをさせている。
薬局で二人だけというのは、何となく程良い緊張感で俺は好きだ。
待合のソファーすべての雑巾がけを済ませ、体を伸ばしながらガラスの向こうの小枝子の方を望むと、いるはずの彼女がいなかった。
狭い調剤室で消えるはずもなく、不思議に思った俺は調剤室に足を踏み入れた。
「小枝子!!」
彼女が倒れている!!
顔が真っ白だ!
俺は小枝子を抱え、揺らしてみる。
呼吸はあるが意識が無い。
そのまま彼女を持ち上げた俺は、薬局もそのままに、向い側の病院に駆け込んだ。
彼女を抱えて血相を欠いて現れた俺に、病院の職員が素早い対応をしてくれた。
鼻に酸素チューブを挿し、移動ベッドに乗せられた小枝子は即座に内科の処置室に運ばれ、医師、看護師によって、懸命の処置がされ始めた。
それを見届け、俺は慌てて開けっぱなしの薬局に戻ると、出勤していた高橋が誰もいないことに驚いていた。
ざっと理由を説明し、何かあったら俺の携帯を鳴らすように彼女に告げると、即座に病院に戻った。
俺の慌てぶりに彼女は何か思ったかも知れないが、そんなことは関係ない。それどころじゃねぇ、小枝子は大丈夫なのか!一体どうしたというんだっ!
丸めた白衣を抱えるように待合の椅子に腰を下ろした俺は、じっと廊下の四角い床のタイルを見つめて黙っていた。
俺の横に俺と同じ体格が、同じような姿勢で腰掛けた。
サイバーだ。
ここまで来ては小枝子との関係を隠していても仕方が無い。俺は口を開いた。
「黙ってて悪かったな・・・」
「いいんですよ。小枝子さんと秀さんのことは薄々感づいてたし、あの人は俺なんかよりあんたの方が合っている」
「・・・」
「で、どうなんです?小枝子さんの様子は」
「分からない。さっきまでピンピンしてた。それなのに突然・・・」
「そうですか・・・とにかく、秀さん、あなたは小枝子さんに付いていてあげて下さい。きょうは患者も少なそうですから大丈夫ですよ。何かあったら呼びますから」
サイバーはそう言って立ちあがると、長めの白衣をひるがえし、振り向きもせずに廊下の向こうへと消えていった。
その背中を黙って見送ると、俺は再び床の四角いタイルを見つめた。
「成田さーん」
看護師に呼ばれ、俺は診察室の中へと入って行っていった。
中は広めの診察室で、そこに中年の医者が座っていて、彼の目の前には大きなパソコンの画面が開いてあった。
社長と彼女の家族への連絡は恐らくサイバーがやってくれているだろう。とりあえず彼氏である俺が、彼女の様態を聞く。
医者の眼の前の画面には何個にも区割りされた、CTスキャンから送られてきた小枝子の体の輪切りのレントゲン画像が映っていた。
ゆっくりと腰掛けた俺に、医者はその画像の一部をマウスで示しながら言う。
「この部分に肝硬変の症状が出ています。この大きさだと以前より多少症状も出てるでしょうし、本人も薬剤師でしょうから薄々気づいていたんじゃないですかね・・・」
「肝硬変?!」
肝硬変とは肝臓の一部の細胞が死んでしまっている状態のことだ。ウイルスやアルコールなどによって引き起こる肝炎が悪化してなる病気であり、際立った症状が出ない場合、ギリギリまで気づかないことも多い。
とは言え、小枝子は別に酒は飲まないし、煙草もやらない。肝炎ウイルスをうつされたとしても、そんなに急に肝硬変までは進まない。
一体どういうことなのか、俺は更に医者に聞いてみた。
医者は答える。
「彼氏の君には隠していたかもしれないけど、実は、彼女、以前から肝炎の薬を服用していてね・・・」
知らなかった!小枝子は肝臓が悪かったのだ。
だから以前、俺が強く酒を進めた時も、かたくなに拒み続けていたのか!
まだ付き合い始めて間もない俺たちだ。彼女のことを全て知っているわけではない。
小枝子はいつもひとりで自分の病気のことを悩んでいたんだろう、だからあんな質問ばかりしていたんだと俺は思った。
医者の話は続く。
「私も彼女のことは、薬局の出来た頃から知っているけれど、一時期、大量にアルコールを摂取していた時期があってね。それが原因で肝臓を痛めてしまったんだよ」
その時期には心当たりがある。
恐らく結婚していた頃だ。川田のDVを受けていた時だろう。
更に何か言いたげな医者に俺は聞く。
「それで、小枝子は助かるんですか?」
「ここまで来ると動かすことは出来ないですね。安静にして薬剤を換えてこれ以上進行しない様に食い止めるしかない」
医者は肝心なところに触れない。肝硬変はその度合いによっては命に関わる病気だ。
そのことを俺はもう一度、医者にぶつけてみた。
「だから、小枝子は助かるのかどうか聞いてるんです」
医者は下を向いて呟いた。
「・・・もって一カ月・・・」
「・・・」
俺はゆっくりと診察室を出た。
そして、階段で屋上へと向かった。
まだ午前中だというのに、空は夕焼けの様にオレンジ色に光っていた。
その光は俺の涙とあいまって乱反射する。
俺は右手の震える拳を屋上のドアに思いっきり叩きこんだ。
そして喉の奥から吠えた。
「くっそーーーーーーーーーーーーーっっつ!!」
頭を垂れて見つめた俺の足元のコンクリートが見る見る黒く変色していく。
滴り落ちる俺の涙が灰色のコンクリートを濡らしてどんどん広がっていく。
ぽたぽたぽたぽたと、俺の涙はいつまでも垂れ続けた。
どれくらいいたのだろう・・・屋上から戻り、小枝子の病室に顔を出すと、社長が来ていて眠っている彼女を見ていた。
「成田君・・・」
社長が俺に気付き声を掛けてきた。
軽く会釈をすると、俺は彼女の傍に座り、彼女の冷たい手を握ってその静かな寝顔を見つめた。
社長の話だと、小枝子は社長以外、身寄りがいないらしい。
俺はそんなことも知らなかった。
優しく前髪を撫でてやると、少し動いて小枝子がゆっくりと目を覚ました。
「小枝子っ」
俺は声を抑えながら彼女を呼んだ。
ゆっくりと俺の方を見た小枝子は、潤む目で俺を見ながら
「秀ちゃん・・・ごめんね」
と、言った。
彼女は自分の症状を理解していた。
俺は泣きそうになる心を抑えるために強く歯を食いしばりながらも懸命に、「気にするな、俺は何も思っちゃいない、ただ、小枝子のことが好きだ、心の底から好きだ」と彼女に話した。
「私も・・・秀ちゃんのことが好き・・・」
小枝子はそう言うと、そのか細い手で俺の頬を触った。
その手を抑え、俺はもう、泣いていた。
小枝子も泣いている。
どうすればいいのだろう、どうすればこの悲しみから逃れられるのだろう・・・
オーバーヒートしている俺の頭が意味もなく、ゆっくりと回転を始めた。
泣きながらも、俺の頭の中は高速で回転し始めている。
肝炎・・・・・副作用・・・・対処法・・・病気・・治療・治癒・・・!
急に目の前の小枝子の顔がはっきりと見えた。
俺は彼女の手を握って、強く提案した。
「小枝子、俺と生体肝移植をやろう!」
「えっ!」
小枝子は驚いたが、彼女が助かる方法はそれしか無い。肝臓の悪い部分は切り取って、足りない部分を俺の肝臓で補う。そうすれば彼女はきっと助かる。
小枝子も俺も血液型はA型、臓器はきっと合うはずだ。大好きな小枝子に俺の肝臓を少しやろう。
「・・・秀ちゃん、私に肝臓をくれるの?!」
「ああ、やるよ。そのかわり、約束してくれ」
「何?」
「絶対良くなって、また俺とバイクで湾岸の夜景を見に行くって」
俺は白くて弱々しい彼女の顔を見た。
彼女は優しい声で答えた。
「・・・嫌。・・・夜景でなくて晴れた海がいい・・」
そう言って、小枝子は可愛い笑顔を見せた。
俺も笑顔で答える。
「いいぜ、海でもどこでも連れてってやる!」
彼女の頭を強めに撫でると、俺は病室を出て先程の診察室へと向かった。
生体肝移植は大手術だ。
臓器移植は様々な規定や厳密な手続きがあるが、医療的に妥当で、よりよく生きるための正当な選択であれば、提供者と患者の意志は最大限尊重される。
費用も結構かかるが、それは親戚である社長が工面してくれた。
手術着に着替えた俺たちは、並んだ手術台にそれぞれ仰向けに寝ると、互いに見つめ合い、手を繋いだ。
麻酔のマスクを当てられ、俺はゆっくりと眠りについていく。
深く眠った。
そして、夢を見た。
真っ白な世界、その先に影が見えた。
哲也だ。
バイクで飛ばす哲也の後ろ姿が見えてきた。
俺は懸命に追いかけた。
「哲也ーーーっ!」
俺の声に振り返った哲也は、右手をハンドルから離してVサインをすると、更に加速して消えていった。
俺は走るのをやめ、ただ、ぼう然とその先を見ていた。
そして目が覚めた。
十時間に及ぶ手術は終わっていた。
真っ暗な病室の窓はカーテンが閉めてあった。
起き上がろうとしたが、上腹部に巨大な切り込みを入れた俺は動けなかった。
誰もいない。
室内の暗がりに目が慣れてくると、俺は辺りを見回した。
腕には点滴が刺さっている。
俺はそのまま動けずに、ただ、暗がりの中でいまの状況を知ろうとして、いつまでもいつまでも辺りをきょろきょろと見回していた。
※
エピローグ
炎天下の空の下、俺はバイクにまたがると何回か空ぶかししてエンジンの様子を窺った。
絶好調だ。
あれから一年。
俺と小枝子はすっかり回復していた。
手製の弁当と水筒を入れたリュックを背中に背負った小枝子が後にまたがる。
そして俺の耳元で彼女が言った。
「秀ちゃん、大好き!」
俺は振り向いて彼女に声をかける。
「俺もだ、いくぞ!」
「うん!」
ピンクのフルフェイスから目だけ覗かせる小枝子の可愛い笑顔を見た後、彼女の腕がしっかりと腹に巻き付いたことを確認した俺は、思いっきりアクセルを捻った。
俺と小枝子を乗せたバイクは車のひしめき合う首都高に入る。
ご機嫌な空の下、車をかわして吹き抜ける風が気持ちいい。
最高だぜ!
俺たちは、国道一号線(東海道)を抜けて一三五号線に入ると、南伊豆の尾ヶ崎ウイングを目指して一気に加速した。
完
(C)楽刻 2012 writtien in Japan
お読み頂き、有難うございました。
薬剤師をテーマにした小説をこれからも作っていく所存です。
どうぞこれからもよろしくお願い致します。