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夏のタイムカプセル

作者: 也屋拓郎

 暑いと僕は吐いた。

 昨夜の雨でコンクリートは濡れているが今日は猛暑日により水蒸気となって僕の体に纏わり付く。首にぶら下げているタオルが汗で、雑巾を絞った後のようだ。麦藁帽子を被って来るのが正解だったのかもしれない。黒い帽子を被っている所為で汗がさらに噴出し、髪がしっとりと濡れていた。

 年をとる毎に僕は短気になっていると思う。

 十分の待ち時間がもう灼熱の地獄だ。それに耐え切れなくなった僕は歩き出す。そしてたった五分で後悔をする。こんな悪循環は都会の忙しい時間によってそれが普通だと思うようになったのかもしれない。

 そもそも何故僕がこんな田舎にいるのか? それは昔この田舎の小学校に通っていた卒業生で、その同窓会に呼ばれたからだ。

 僕の通っていた小学校は五人しかいなかった。だから僕が来ないだけで四人になり、どうしようもなく寂しくなるだろう。後はもういい年だから嫁とか欲しかったりした。

 それはおいといて。

 とにかく僕は歩いた。小学校はこの山道のもうちょっと向こうだったような気がする。希望的観測をぼやきながらただひたすら歩いたのだった。


 学校はすでに廃校していた。田舎の人口も減少傾向で最後に見た風景とぜんぜん変わらない。それが田舎なのだが。

「おーヨウじゃん!」

 正門から入ると雑草がちらほらと生えている運動場に集まっている四人の内一人が僕に声をかけてきた。僕は手を上げたけどその声をかけてきた男の名前を覚えていない。

「よう…えっと…」

「アユムだよ。佐藤歩。ほら、昔川原のエロ本を互いに読んだ仲じゃないか」

「若気の至りと思い出話を混合しないでくれ」

 そういって僕は笑う。一瞬で思い出す子どもの感覚。無邪気に遊びあって笑ったあの日を走馬灯のように思い出した。

「皆集まっているんだ! ジュンもキョウコもタスクも皆いるよ!」

「そういえばお前が幹事だったな」

 送られてきた案内には確か幹事にアユムの名前が書いてあったような気がした。僕はアユムの後ろを歩き皆の元へと歩く。

「大西。お久しぶり」

「ジュンであっている?」

 昔はスカートの中は短パンだったジュンが今ではお淑やかな女性へと変わっている時が経つと皆が変わるんだなと思った。キョウコも昔からずっと綺麗だった。

「ヨウ君はぜんぜん変わらないね。一目見て分かったよ」

「それ褒め言葉じゃないよ」

 僕は情けなく笑った。タスクは静かに笑って僕らの話を聞いている。

「んで、アユム何故僕らを呼んだんだ?」

「へへーん! 今日は俺らがこの学校を卒業して十年だぜ!」

 一同はへえという顔をする。

「思い出せよ。俺らが卒業した後十年後にタイムカプセルを掘り出そうって言ったじゃないか!」

 思い出した。確か卒業したときにまたここに戻ってこられるようにとアユムが言ったんだっけ?

「だから十年後だし、皆集まって掘り返そうぜと皆に聞いたんだ。それで、その後皆で居酒屋でパーとやろうぜというね」

 まあ確かに僕らはもう酒は飲める年齢だ。最近の話を肴にして話すのもありだと思う。

「それでタイムカプセルはどこにいれているのか覚えているのか?」

「確か校舎の中にあるから皆で探そうぜ」

 アユムはそういって三組に分けた。

 僕とキョウコ、アユムとジュン。そしてタスク。

 んじゃみつけたら言ってくれとアユムが言うと皆ばらけて校舎の中に入っていった。


 昔の廊下はまだいたが綺麗だったような気がする。だけど今は埃で汚れた窓ガラスに蜘蛛の巣があちこちに張られている。天井も背が小さい僕らには高かったが今では軽くジャンプするだけで届くような気がした。

 僕の後ろにはキョウコがいた。キョウコは確かお化けが苦手だったはず。今も変わらないキョウコが見られて僕は笑った

「なに笑っているの」

 怒りながら僕に言うが全然怖くない逆に可愛いと思った。

 昔は確か僕はキョウコに好意をもっていた。まあ五人だけだったし、もう一人のジュンは男勝りな性格だったから、女の子と呼べる子がキョウコだけだったのだ。恐らくアユムが仕組んだのだろうこの組み合わせは。

「怖いね……」

「まあ廃校だからね。電気も通ってないだろうし」

「そうだよね」

 彼女は怖がっていた。多分後ろからアユムが驚かせたら悲鳴を上げて泣き出すに違いない。僕は勇気を出した。

「服、持てば?」

「え?」

「俺がいるだろ?」

 そういって僕はそっぽを向いた。少しの間だけ時間が止まったような気がした。

「変わらんね、ヨウ君は」

 その言葉がとても重かった。

 僕達は理科室で休憩を取っていた。理科室といってもあるのは机一個と黒板がある部屋で全然広くない。あっついねえ。とキョウコが項垂れて言う。

「聞いた話猛暑日だってさ。たしかキョウコは暑いの苦手だっけ」

「うん。プールに入りたい」

 ついプールで遊んでいる彼女を妄想した。

「ジュンちゃんとアユム君。結婚しているんだよ」

「え」

「アユム君がプロポーズしたんだってさ」

 と何気なく言ったあの二人が結婚しているとは思わなかった。

 ヨウ君は、と唐突にいう。

「彼女とかいるの?」

「いや、都会に行くと毎日が忙しくてどうにもならんよ。そういう君は?」

「いないよ。というか全然結婚するつもりもないんだ」

 何気なく億劫そうに言う。

「私不倫しているんだ」

「……」

「引いたでしょ」

 僕は何も言わなかった

「顔がそう言っているよ」

 彼女は休憩お終い。と言って立ち上がるそして教室から出ようとする。

「ヨウ君さ。私のこと名前で呼ばないよね」

「そうか?」

 うんと彼女は返事をして、いこっか。と僕に言った。


「見つけたぞー!」

 僕らが校舎から出ようとしたときにアユムの声が聞こえた。

 外に出るとアユムの手にはせんべいの正方形の錆びた缶にタイムカプセルと汚い字で書かれているものがあった。

「どこにあった?」

「図書室の受付テーブルの下にあったぜ」

 なんともいえない場所だった。中見てみようよ。とジュンがアユムを急かした。アユムがおう。と言うと缶が開かれる。

 中は十年前の空気の匂いがした。中には写真とか、将来の夢とか絵が入っている。僕らが書いた将来の夢を各自が持ち、読む。僕の夢は都会で金持ちになるという夢だった。都会に出たけどまだ大成はしてないなあと思った。

 ほかの皆も笑っている。皆昔の自分に笑っているのだろう。タイムカプセルは僕らに子どもの思い出を届けてくれたのだ。この企画を作ってくれたアユムに感謝しよう。


 居酒屋で思い出話が終わってお開きになった。僕とキョウコは都会に帰る組だから一緒に駅へと歩いてゆく。

 理科室でのことを思い出してなにをいえばいいのかわからなかった。

「ヨウ君、将来の夢は何だった?」

「都会に出て、お金持ちだってさ」

「ヨウ君らしいね」

 笑う彼女を僕はつられて笑った。だけどすぐにやんでしまう。

「私ね。ヨウ君のお嫁さんになりたいって書いてあったの」

「……」

「将来の夢にそう書いてあって私ね、あ、ヨウ君の事好きだって思い出しちゃった。そのときの胸の高鳴りとか思い出してね。また恋って言うのをしたいなあって思っちゃった」

 彼女は上を見上げる。つられてみると夜空は都会と違って綺麗だった。

「もう遅いかな?」

 僕を見つめる目は答えを求めている。夏なのに田舎の空気はひんやりと秋のように冷たくてさっきまでかいていた汗が冷たく感じた。

「まだ大丈夫だよ」

 僕がそういうと彼女は微笑んだ。

「また同窓会あるといいね」

 そういって彼女は僕の手に絡めとるように繋いできた。



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