いつもと同じ?
患者さんの家族から緊急電話に連絡が来た。
「いつもと様子が違う」とのこと。
とりあえず見に行って判断しよう。
行くと、そばに娘さんが付き添っており、90代女性の患者さんは穏やかな顔で落ち着いて座っている。
「昨日の夜おかしくて、夜中に子供が見えるとか、窓を杖で叩き出したりしたの」
なんだ?認知症か?
たまに物忘れや言い間違いはあったが、認知症とは思ったことはなかった。
頭?脳??
ご本人に話を聞く。
「こんにちは。私のことわかりますか?」
「わかるよ、いつも来てるもんね」
それから血圧や脈、酸素を測るがいつもどおり。
「体温計壊れてるみたいで測れないのよ」と娘さん。
手を握ってもらったり、立ってもらったり。
麻痺はなさそうだな。言葉もいつもどおり出てるような……特におかしなことは言ってない。
ふと気づいたことがあった。
「昨日の夜は一緒に寝ましたか?」
「いいえ、私は別の部屋で寝てるから」
患者さんの皮膚に触れる。
「救急車を呼んでください!!」
「え!?」
突然のことに娘さんは慌てるが、状態がいつもと違うと言って呼んでもらう。
これはもしかして……
数分後に救急隊が到着、三人の救急隊が入って来た。
くそ、コイツか。
長身細身の眼鏡の男性、私はこの人が嫌いである。
名前を覚える気がないので私の中で『メガネ』と名称をつけた。
見下した態度は当然のこと。
通常は救急隊員が書く患者情報の紙を書かされたり、救急隊の荷物を持たされたりする。そのせいで白衣が黒く汚れてその汚れも取れなかったことがある。
また当然のように紙が挟まれたバインダーを渡してくる。マジでむかつく。
そして患者さんのところへ行き、私がしたことと同じ事をしている。麻痺はないか、血圧低下ないか。
「認知症じゃないですか?」
メガネにボソッとつぶやかれる。
認知症発症くらいで呼ぶかよバカ!!
もちろん、声には出さない。
無視していたので、
「看護師さんの早とちりじゃないですか?」
思いっきり溜め息混じりに言われる。
「あれ?」
若い隊員が何かに気づく。
「体温が測れません!」
おせーよ気づくの。
救急隊は通常5本くらい体温計を持っている。それを知ってたから呼んだんじゃねーか。
全部使うが測れず、最後の1本で測定できる。
「33度です!!」
患者さんは緊急入院、集中治療室で治療することとなった。
娘さんが不思議そうに聞いてきた。
「なんでわかったんですか?いつもと同じみたいだったのに」
「一緒に寝てないと言われたでしょ?あの部屋だけ少し寒かったんです。しかもほんの少し。もしかしたら夜はもっと寒かったのかもしれない。
皮膚がいつもより冷たかったのもあるし。それと。」
「それと?」
「体温計が壊れているという発言が一番ですね。
実際私の物でも測れなかった。
2ついっぺんに壊れることはまずないでしょうから」




