第四話 透明人間を捕まえろ!
家に入る。そこにはテントが張られている。
誤解しないでほしい。家の中にだ。外ではない。
ここでは常識が通じない。
いつも通りテントの中に案内される。小さな机にお茶と茶菓子まで用意してある。
机の向こうに50代女性が座る。これが今回の患者である。
そして、毎回同じ話が始まる。生命を狙われているからテントに入ってないといけない。物音を立てるとスナイパーに狙われる。
ところが今回はいつもと違う所があった。
いつもは開けっ放しになっていた、奥の部屋への扉に頑丈に南京錠がかけられている。
会話の途切れる隙をついて尋ねてみる。
「あそこ、鍵なんてかかっていましたっけ?」
ハッとした顔になり、よく聞いてくれたとばかりに話し出す。
「実はね……透明人間がいるの。」
は?透明人間?
透明人間というとあれか?透明な人間が洋服を着ると浮いて見えるやつ?それとも洋服ごと透明になるパターン?
……いやいやしっかりしろ。いるわけないじゃないか!!
そもそも透明だというのに何故いるのがわかるのだろう。ネズミやイタチの可能性の方が高い。
物音だけで判断しているのか……?
「えっと……なんで透明人間がいるとわかったんですか?」
「物音よ。夜中にゴソゴソ聞こえるの。」
やはり物音か!
見た所、この家は築100年くらい経っているのではないかというほど古い。害獣が入る隙間などいくらでもあるだろう。
「じゃあ私が捕まえましょう!」
特に何も考えず安請け合いをした。
後に、この発言を激しく後悔することになる。
「本当??いいの??」
女性はガチャガチャと南京錠を外していく。それを見ながらふと思った。
透明人間か?害獣か??
ガチャリと扉が開かれた。
暗闇なので懐中電灯を貸してもらい照らしてみる。
あまり使ってないと思われる部屋は、ホコリが多くかび臭い。
自然と鼓動が速くなる。
決して透明人間や害獣が怖いわけではない。
いや、害獣は少し怖い。
気づいたのだ。
『泥棒』の可能性を考えていなかったことに。
女性は、もちろん怖がって着いて来てはくれない。
『透明人間って乱暴だから気を付けてー!』
いや違う。乱暴なのは恐らく泥棒だ。
この物騒なご時世、空き巣や強盗など毎日のようにニュースで放送されている。
……もし、本当に泥棒がいたら……?
この時点で透明人間の線はゼロになっている。
グサリと刺されたら労災が出るのだろうか、
死んだら会社から家族に大金を払ってもらえるのだろうか……
いやいや私!正気になれ!!
こんな所で無駄死にしてなるものか!
せいぜい週刊誌に、
『透明人間を探し看護師死亡!』
などと面白可笑しく書かれるに決まってる!
色々な妄想をしながら奥の部屋を回るが特に異変はない。
なんだ、と少し拍子抜けたがとりあえず無事に帰れそうなので良かった。
「何もいませんでした〜」
それを聞いた女性は安堵の表情を浮かべた。
女性が待っている扉まであと数十センチのところで、ズボッという音と共に足に激痛を感じた。
床が抜け、足が床に挟まっている。
なんか床から足が生えているようにも見える。
確か、ここはさっき通った時ブヨブヨしていた。
人間、驚き過ぎた時は何もリアクションが取れないのだとこの時学んだ。
私はボーッと床に繋がった足を見ていた。
「あらあ大変!!」
女性の声で我に返る。
その後は床を壊したことを謝罪。
会社が弁償してくれ、以前のブヨブヨよりもしっかりした床になって逆に喜ばれた。
私は、労災で足の怪我を治療することとなった。




