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病院に入院しない人々  作者: VANRI


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第二話 赤子を抱かない父親

 30代男性、ガン末期、余命数カ月。

妻は初めての子供を妊娠中。臨月である。

 妻とも話し合い、赤ちゃんを抱いてもらうことを目標にした。


「もうすぐ赤ちゃん産まれますね!楽しみですね!」


明るく話し掛けた。

 が、男性は、その話題の時は毎回決まって悲しそうな笑顔を見せる。


 初めての子供に不安があるのかな?


 それくらいしか思いつくことがなかったので、とりあえず様子を見ていた。


 それから数日で赤ちゃんが産まれる。


「おめでとうございます!写真は見られましたか??」


「いや、見てない……」


 もうその頃には動くことがやっとの状態になられていた。


「お手伝いしましょうか?」


と言い、男性のスマホを手にしようとしたが、


「大丈夫だから。」


とやんわり断られた。


 実物を見るまで楽しみをとっておきたいのかな? とも思ったが、何か引っかかるものがあった。


 翌週、私の訪問中に妻が退院して帰って来た。


「ただいま〜」という明るい声。

赤ちゃんの声は聞こえないので眠っているようだ。

 妻が戸を開けようとした時、


「開けるな!!」


 男性が大きな声で叫んだ。

初めて聞くこの男性の大きな声。私はビックリして動けなくなった。

しんと静まり返ったリビングはいつもより広く見える。


 私は考えるより先に言葉を発してしまう。


「どうしてですか?せっかく帰って来られたのに。」


 あと何日生きれるかわからない。今会わなければもう永遠に会えないかもしれない。

 奥さんはもちろん、赤ちゃんも父親に抱いてもらうことを望んでいるかもしれないのに……


 しばらくの沈黙の後、男性はゆっくり口を開いた。


「会ってしまったら、生きたくなってしまうだろ。」


 そして震える声で絞るように発した。


「見れば見るだけ、声を聞けば聞いただけ、抱けば抱くほど死ぬのが辛くなってしまう。」


 男性は両手にぐっと力を入れた。膝にはポタポタと涙がこぼれている。


「本当にすまない……」


 私は、涙が溢れそうになるのを必死に抑えながら男性の背中をさすった。

 戸の向こうで、奥さんが声を抑え泣いているのがわかった。


 それから奥さんは、男性の意思を尊重し、子供に会わないでいいよう実家に帰られた。



 その後、数日で男性は亡くなった。




 あなたのことだから、天国でもこちらを見下ろすことはないでしょうね。

 あれから10年経ちました。今日は息子さんの誕生日です。

 あなたが見なかった赤ちゃんは、毎日あなたの写真を見て手を合わせていますよ。



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