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病院に入院しない人々  作者: VANRI


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第一話 ほったて小屋の住人

 訪問看護とは、医師やケアマネージャーの依頼を受け、患者の住んでいる自宅へ赴き看護をする仕事である。


「小嶋さん!この家よ。」


 私があまりに呆然としているので、先輩看護師から声を掛けられる。


「ここが家……?」




少し小高い丘の上に広場があり、そこには壊れた自動車や何かの機械の破片などが山積みになっていた。

 すぐ横に「捨てるな!」と書いてある立て看板。


 車から降り、辺りを見回した。


……家がない??


 先輩も同じように車を降り、そそくさと訪問の準備を始めた。


 ここから歩いて行くのだろうか?

 周りに道など見当たらないけれど。


 その丘に着くまでも一本道で、やっと車が一台位通る位の幅しかなかった。


 ここに来る途中でも、家らしき物は目に映らなかった。

 ということは、山を登るのだろう……


 そう考えていた矢先に先輩から声がかかったのだ。


「ここ……?」


 先輩が立つ場所を見ると、プレハブ小屋があった。 

工事現場の近くに一時的に建てられる、倉庫のようなあれである。


「え!?ここ小屋じゃないんですか!?」


 驚き過ぎてつい言葉にしてしまう。


 先輩は私の反応を予想していたかのように笑った。


「まあ、見てみなさいって。」


 そう言ってドアを開ける。

 ドアと言っても、よく倉庫に使われている茶色っぽくて縦線の入った横に開け締めするタイプの物である。


 中に入って息を呑む。


 やはり倉庫ではないか。中には見たこともない機械やら木材も置かれている。ツンとした匂いが鼻を突く。


 まるで姥捨山ではないか。

そう言いかけたが飲み込んだ。


 家の中を見て回る。トイレはあるが故障中で使えない。洗面台は機能している。お湯も出るようだ。

 風が吹くたびに屋根のトタンがバンバン音を立てている。

エアコンの温度が30度に設定されているが、壊れているのかそれとも隙間風がひどいからか、部屋の中は寒い。


「トイレは使えないみたいですが……」


 先輩はケロッとして答える。


「だって必要ないじゃない。」


 この患者は、寝たきりで自分で動くことが出来ない。手は少しは動くので、コントローラーでベッドを起こしたり、食事を食べたりは出来るようだ。


「トイレに行けないのよ?使えなくても不便じゃないでしょ。」


 確かに……とは思うがどこか釈然としない。

 

 患者に軽く挨拶をして身体を観察する。

やはり床ずれがある。自分で動けないのだから仕方ない部分もある。だが、適切な介護で防げないこともない。


 先輩に、患者に聞かれないようコソッと尋ねてみた。


「あの……ご家族は?」


 同じように、ささやくような声で答えてくれる。


「近い所にはいなくてみんな県外なんだって。」


「それじゃ、施設に入れてあげるべきでは……」


 先輩は軽く溜め息をつく。


「お金よ。

 施設に入るにはお金がいるでしょ?

 この方は年金収入があるから、その範囲で施設には入れるんだけど、ご家族が全部年金を使われることを嫌がって入れてくれないの。」


 確かに、親の年金で生活している子供が、親が亡くなったことを隠して年金を不正に受給していたと何度かニュースで聞いたことがあった。



 それからも訪問は続いた。一人で訪問することも何度かあった。

 その患者は90代女性でいつも穏やかに話される方だった。痛いであろう床ずれも、顔をゆがめて大丈夫と言われる。


 私はこの方と過ごす時間が好きだった。若い頃の話や好きな食べ物、天気の話など、とても落ち着いて会話することが出来るからだ。


 ふいに聞いてみた。


「この生活は辛くないですか?」


 それまで笑顔だった顔が、一瞬で無表情に変わる。


「仕方ないのよ」


 よく聞いていなければ聞き逃すほどの小さい声だった。


「仕方ない……?」


「主人が早くに死んでしまって、親にも手伝ってもらえなくて、一人で子供二人を育ててきたの。

今と違って大した保障もなかったから、人より働いてきたつもり。」


 続けてふうっと息を吐く。

「だから嫌われてしまったのね。全然遊んであげなかったから。今では顔を見せてくれることもないのよ。」


 少し涙目になられたように見えた。


「これは、私がしたことの結果。この環境なんかより、あの子達が味わった寂しさの方が何倍も辛いでしょう。」


 そんなことはないと思った。

 小さな子を二人を抱えて働いて育てて来たのに。親二人いても子供を育てることは大変なのに。


 たくさん言いたいこともあったし、励ませるような言葉も浮かんだが、どれもこの方の悲しみの前ではちっぽけな言葉にしか思えず、


 私は何も伝えることは出来なかった。



 そして、数カ月後、体調を崩し入院されそのままこの世を去られた。


 ご家族は会いに行かれたのだろうか。



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