皇宮からの呼び出し 2
三日後。僕とジルは皇宮に向かった。
「エル様ですね。開門します。少々お待ちください」
門番さんが門を開けてくれて。もう1人の違う兵士さんに案内されて、大きな扉の前にやってきた。ジルは別室で待ってもらう。呼び出されたのはあくまでも僕だけだからね。
「こちらは謁見室です。もうじき皇太子殿下がいらっしゃるので、中でお待ちください」
「わかりました。案内ありがとう」
「いえ。それでは失礼します」
謁見室は広くて豪奢だった。
それにしても、皇帝陛下じゃなくて、皇太子殿下か。何か訳があるのかな?
跪いて頭を垂れて待っていると。
「皇太子殿下の御成です」
来た。
扉が開き、一つの足音が響く。その足音は僕の横を通り過ぎて、中央の玉座の前で止まった。
「人払いを」
その声に。
ん???
兵士たちが出ていき、扉が閉まる。
「面をあげよ」
ふ、と顔をあげると。
「やぁ、この前ぶり」
この前見たばかりの顔が。てことはこの人は皇太子殿下…?
「鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔だねぇ、面白い!」ケタケタと笑う皇太子殿下。
……この人性格悪いな…。
思わずジト目になってしまった。
「あぁ、喋っていいよ、ここで礼儀は特に気にしなくていい」
「…そりゃどうも」
「改めて。ラフィネの皇太子、リヒト・ルクス・ラフィネだ。よろしく、エル」
「…ヨロシク…」
釈然としないまま話を聞いた。内容は僕への市民栄誉賞授与について。魔物が増えてきている昨今、僕が作るポーション類が冒険者たちの大きな助けになっている。実際、魔物による怪我などで死亡する人たちが少なくなっているそうだ。その功績から、市民栄誉賞を授与したいと。
「あともう一つ。宮廷医にならない?街で薬屋するよりよっぽど給料がいいよ」
「あ、お断りします」
即断った。
「……」
「……」
お互い黙って見つめ合う。
「えーと、なんで?」
「僕は上流階級の方々が苦手なんだよ。窮屈な城より街の方が好きだ」
ケッ、という感じで吐き捨てる。
「話がそれだけなら帰るよ。栄誉賞も特にいらない」
くる、と踵を返して扉に近づく。
バチィ……ッ!!
扉に触れようとすると弾かれた。
…結界か。
「僕の許しがない限り、その結界は解けないよ」
ニコリ、と笑って皇太子が言う。
「……」
(簡単な作りの結界だな。解析するまでもない。)
結界に手を触れ、抵抗をものともせず、唱える。
「《アナリシス》」
パリィン…ッ
「っ!!!」
あっけなく結界は壊れた。
「このくらいで僕を閉じ込めたなんて思わないことだね。それじゃ」
兵士の静止を気にも留めずに歩き出し、皇太子は1人取り残された。
「なんという無礼!反逆罪で捕らえてしまいましょう!………殿下?」
俯いて動かないリヒトに従者は心配そうな眼差しを向ける。
「……く、ふふ、あはっ!」
急に笑い出した。
従者ドン引き。
「あー、面白い!こんなに笑ったのはいつぶりだろう!あんな子初めて見たよ!他にはどんな反応をするのかな?もっと見てみたいよ!」
「で、殿下…」
「礼儀については僕が許したんだ、彼女を責める必要はない」
「は…」
「彼女はどうして断ったんだろう。宮廷医になれるなんて大出世だろう?」
「…私にはわかりかねます」
「もう一度様子を見に行ってみようか」
「…殿下の仰せのままに」
皇太子のお忍びが決定した。
「全く、これだから上流階級の方々はさぁ…下々の気持ちなんて分かりゃしないんだから」
イライラしながら帰途についていると、
「エル?なにがあったの…?」
ジルが聞いてきた。皇太子相手にキレて帰ってきたなんて言えないので、曖昧に濁す。
…いや言えないでしょ。下手したら首が飛ぶよ。下手しなくても飛ぶか…。
それから数日後。
「やぁ、また会ったね」
「……暇なの?」
皇太子様がまた店に訪れた。
「いやぁ、この前はお客さんがいなかったからね。今度はお客さんがいる時間帯に来ようと思って」
公務終わらせてきちゃった、と言って笑う皇太子様。
「僕としてはもう来なくてよかったんだけど…」
「ひどいなぁ、臣民たちの生活を知るのも立派な務めだろう?」
…そうだけど。
「僕にはただ遊びにきてるだけに見えるよ」
「まぁ当たらずとも遠からず」
「何それ。お客さん待ってるからちょっとどいてくれる?」
「扱いが雑だなぁ」
無視して接客していると。
「先生!急病人だ!熱が全然下がらなくて…!!」
女の子を抱えた両親と思われる男女が店に入ってきた。
「みせて」
脈を測って、おでこに手を当てて熱を測る。確かに高い。
「ここ数日の様子は?何か変わったことは?」
「数日前から咳が出始めて…それから熱が出て…下がらなくて…っ」
「なるほど。僕の声聞こえる?聞こえるなら頷いて」
女の子に声をかけるとかすかに頷く。
(意識はある、か。状況的に…)
「風邪かな。ただちょっと重めの」
「何か重い病気ではないんですか?!」
心配そうにいう両親。
「大丈夫。熱冷まし飲んで安静にしてればじきに良くなるよ。数日分薬出すから、しっかり飲ませてね」
キッチンの方へ入っていって、咳止めと熱冷ましを5日分取ってくる。
「お代は後ででいいから。早く家帰って飲ませてあげてよ」
はい、と渡すと、両親は涙を流して感謝し、帰っていった。
「いやぁ、見事な処置だ」
「…まだいたの」
「いたよ?…今日見ていた限り、君は街の人たちとの交流を大事にしているようだ」
「そうだね。今までできなかった分、大切にしようと思っているよ」
「そこはおいおい口説いていくとして。こちらも君に協力してもらわなければならない理由がある。だからこうしようと思うんだ!」
一呼吸おく皇太子。
イヤな予感…。
「君、冒険者でもあるんだってね?そこで僕は依頼を出すことにした!依頼内容は…今度確かめてね」
そう言い残すと皇太子は去って行った。
…そんなふうに言い残されると気になるんだけど!!!




