宮廷医
本日もう1話投稿しています。まだの方は前の話からどうぞm(_ _)m。
「そなた、宮廷医にならんか。一度断られたと聞いているが、そのままにしておくにはあまりにも惜しい」
「申し出はありがたいんですが…僕にはもう店があるので」
やんわりと断ると、
「店は続けてもよい。それに城のものに民とよく関わるものがいた方が、民の声も届きやすくなるだろう」
そう来るか…。
「そなたには世話になったしな。受けてくれると言うなら、禁書庫の書物の閲覧を許可しよう」
ちら、とこちらを見る陛下。
くっ、禁書庫の書物……読みたい…ッ!この人、わかってやってるな!
「そなた、医学の他に魔法にも秀でているのだろう?ルルネでは見たことのないであろう魔法書もごまんとあるだろう」
「…!…知っていたんですか」
ルルネ出身であることは誰にも言っていないはず。
「身元のはっきりせぬものを城に入れるわけにはいかんからな。調べさせてもらった。まぁ私はルクスから聞いたに過ぎんが」
ルクスを振り返ると、
「君はルルネで魔導士長を務め、王太子のお目付役でもあった。それがなぜこの国に来たのかはわからないけど、あの国の噂はここまで届く。…よく頑張ったね」
それは追放されたことについてだろうか。それとも日々暴言を浴びせられ虐げられてきたことだろうか。
頑張ったね。
その言葉を聞くのはいつぶりだろう。はるか昔、母親に初めて書いた文字を褒められた時のことが浮かぶ。他にも他にも…。
ポロリ。涙が溢れた。そしてそれは一度流れ出したら止まらない。
「……ぅっ、ぐす、ん……ひっく……っ」
あとからあとから流れる涙にどうすることもできずにいると、ルクスが近寄ってきて、頭を撫でた。
「君はよく頑張った。いくらでも泣いていいんだよ」
僕はしばらく頭を撫でるその手に甘んじて、泣いた。
「ぐす、ずびっ」
「止まったかな?」
鼻を啜っていると、ルクスが顔を覗き込んできた。
っコイツ、泣き腫らした顔をわざわざ覗き見るなんて!!
べし!!と顔面を叩いてやる。
「痛!この僕を叩くやつなんてそうそういないぞ!」
「ふんっ」
ぎゃいぎゃい2人で言い合っていると。
「コホン」
「「!」」
陛下が咳払い。慌てて2人とも姿勢を正す。
「私たちは君の働きを当然のものとはしない。約束しよう。そして民の声をここに届けてくれぬか。この国には君が必要だ」
「………」
正直まだ不安はある。また同じことにならないか。でも短期間だったけど、この2人の人柄を見て信じたいと思った。陛下は誠実で今話している限り、裏を感じない。政を行うときはそうもいかないだろうけど、今代でラフィネはここまで栄えた。陛下の手腕が伺えると言うものだ。ルクスはなんかチャラチャラヘラヘラしてるけど、多分それは本性じゃない。あれは仮面だ。なんでそうなったのかはまだわからないけど、ふとした時に見せる楽しげな顔は少し幼くて。あれは彼の本当の姿なのだと思う。そしてそれをもっと引き出してあげたいと思った。だから……
「……お受けします」
「まことか!……礼を言う。これからよろしく頼む、エル」
「よろしく、エル」
「はい、よろしくお願いします」
それからは結構慌ただしく日々が過ぎていった。店の休みを3日に増やし、城と店を行き来できるように城の自室と家の自室に内密で転移陣を設置し…。店の休みに関してはどうせ午前中には売り切れるから増やさなくてもって言ったんだけどね。午後からは行けるし。でもそれだと僕の休みがないって言われて却下されちゃった。なんとホワイトなことか。
「ねぇ、今日からお城に住むの?」
くん、とジルが裾を引いて聞くので、
「そうだよ、お城でお仕事が見つかったからね」
「んー、でもお店も続けるでしょ?エル、倒れちゃう」
ふふ、心配してくれてる。
しゃがんでジルと目線を合わせる。
「陛下はいい人だよ、そんなことにはならない。大丈夫!」
「ほんと?」
「ほんと!」
力強く言うと安心したのか、笑顔が戻っていた。
「ここが君の部屋ね。ジルくんは少し離れるけどまぁそんなに遠くないから」
部屋を案内されて荷物を運ぶ。明らかに貴族用の部屋だったので疑問だったが、お医者様に平民用の部屋はあてがわないよと笑われてしまった。そんなものなのかな。
ジルは部屋が離れることについてだいぶごねたけどこればかりは仕方がない。立場が違うから。
「お城の中では会えるし、大体はお家にいるから。そんなに不安にならなくても大丈夫!」
そう言ったら渋々納得していた。
皇帝陛下の体調が良くなってきて、公務に戻られることになった。そのおかげか皇太子の仕事の量も少し減ったようで。ルクスは度々うちの店にやってくるようになった。相変わらずジルには威嚇されてるけど。どうもジルは彼が苦手みたい。仲良くなってくれるといいんだけどね。今日は珍しく2人で騒いでるけど。
「ははーん。ジルくん、君エルが僕に取られそうで怖いの?」
「…そんなことないもん!」
「いや、そんなことあるね。でも残念!君がエルに意識されることは今後数年ないと言っていい」
「っうるさい!…そんなことわかってるもん…」
あーなにやら喧嘩?してるけど。仲良くしてよね、まったく。
「はいはい喧嘩してないで!ルクスごめん、来てくれて悪いけど今日は今から薬草採りに行こうとしてたんだ。また今度来てくれる?」
「そうなの?じゃあ僕も行こうかな」
…なに言ってんだこいつ。
「いや、流石に皇太子様連れて森に行けるわけないでしょ、大体武器もないのに」
「そんな魔物が出る奥の方まで行くのかい?」
「そうしないと採れない薬草もあるからね」
へぇ、そう言って考え込むルクス。
「ねぇ、エルは武器作れる?」
「…作れるけど」
なに、作れと?
胡乱気な目で見ると期待の眼差しを返された。はぁ。仕方ないな。
「《霊剣召喚:シャストリス》」
精緻な紋様が彫り込まれた細身の剣を召喚する。これはいつだったか、水の精霊王様に会った時に頂いた剣。とても綺麗で、見ていると吸い込まれるような剣だ。現にルクスも言葉を失っている。
「はい。これ貸してあげる」
「っあぁ、ありがとう…」
受け取って鞘から剣を抜くと、中から透ける刀身が。
「……綺麗だね」
思わず溢れてしまったというような声。
「でしょ。折らないでよ」
「それはもちろん」
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