病の名は…
皇太子様がうちの店に来てからはや数日。僕たちは特になんの問題もなく過ごしていた。
今日までは。
「エルちゃーん!!!冒険者協会から呼び出しがきてるってよ!!」
「呼び出しー?」
なんだろうと考えて、ハッ、とする。
もしや指名依頼の…。
うわー行きたくない。
そんな思いが表情に出ていたのか、知らせに来てくれた冒険者が苦笑い。
「行きたくないのはわかるが、結構火急みたいだったから早く行ってきな」
「…わかった」
急いで店を閉めて冒険者協会に急ぐ。
「エルさん!よかったぁ来てくれて!依頼についてお話があるんです、中へどうぞ!」
「はーい」
応接室に入ると、会長様が座っていた。座るよう促されたので座る。
「今から話すことは他言無用にお願いします。…今回お呼び立てしたのは、皇宮からエルさん宛に指名依頼が来たからです。内容は…皇帝陛下の病を治すこと」
「皇帝陛下の病?病に臥せられていること、国民には…」
「伝えられていません。だから他言無用なのです」
なるほど…。あれほど宮廷医にしたがっていたのは関係者にしてしまいたかったからか。そうすれば口止めも効くから。
「ちなみに聞きますけど。その依頼拒否権は…」
「ありません。通常なら拒否権もありますが、今回は依頼主が皇室です。断ることは不敬にあたります」
「…ですよね」
『できるなら今日のうちに来て欲しいとのことです。急で申し訳ありませんが、皇宮に向かってください』
そう言われた僕はしばらく休業するという張り紙を店のドアに貼って、ジルと一緒に城へ向かった。
「またお城に行くの?」
「そだよ、依頼が来たからね」
「ふーん…」
城へ着くとすぐに部屋に通された。荷物などを置いて、兵士に案内されるままについていく。
そしてある部屋の前で止まり、
「こちらで皇太子殿下がお待ちです。どうぞ」
と扉を開けてくれた。
ぱたん。ドアが閉まると。
「やぁ、エル。依頼を受けてくれてありがとう」
白々しく言う皇太子。
「よく言うよ。断れないって知ってるくせに」
「そんなに怒らないでくれ。こちらとしても一刻を争うんだ。手段は選んでいられない」
それにしても。
「その子はどうしたんだい?この前は居なかったと思うけど」
ジルを見て首を傾げる皇太子。
「一緒に住んでる子だよ。この前は別の部屋で待っててもらったんだ」
「…ヴー……」
毛を逆立てて威嚇するジル。皇太子との微妙な空気感を感じ取ったらしい。
「ジル、威嚇しないで、大丈夫だから」
「…うー…」
ジルは僕の後ろに隠れてしまった。
「そろそろ本題に入ろうか。依頼内容については聞いてるよね?」
「うん。皇帝陛下の病を治すように、って」
「そう、陛下は今病に臥せっておられる。国中の医者を集めて診させたが、原因はわからずじまい。最後に君に白羽の矢が立ったわけだ」
「なるほどね」
「陛下の現状は見ればわかる。…場所を移そう」
そう言って移動したのは皇帝陛下の寝室。
「…診ていい?」
「あぁ」
体を解析。毒素を分解…。
「《アナリシス》」
ふわ、と光るが特に変化はなし。陛下も苦しそうなままだ。
「体に問題はないみたい…」
(これで良くならないなんて。…もしかして病ではない…?それなら…)
「《瘴気視》」
(…!…これは…)
「何かわかったのかい?」
皇太子を振り返り、まっすぐ目を見る。
「…陛下は病で倒れたんじゃない。…呪われたんだ」
「なに…!?」
「陛下の体に呪いの痕跡を見つけた。かなり強力だ。早めに解除しないと間に合わない…」
「解除できるのか!?」
「…やってる…待って…」
瘴気を手で鷲掴みにする。そしてべりっと剥がす。すると少し陛下の顔色が良くなった。
「…顔色が…」
「良くなったね。…これどうしようか」
手に掴んだ瘴気を見て呟く。
「…呪い返すか。…《リフレクト》」
手の中の瘴気がどこかへ飛んでいく。
「どうしたんだい?」
「いや、陛下に呪いをかけたやつに呪いを返したんだ。これで今頃かけた本人は倒れでもしてるんじゃないかな」
「へぇ」
陛下の様子はどうだろう。覗いてみると、さっきより明らかに顔色がいい。呼吸も安定してる。もう異常はないようだ。
「あとは目が覚めたら少しずつ食事をとること。一気にたくさんはダメだよ。胃が受け付けないから。ちょっとずつ量を増やすんだ」
「わかった。伝えるよ。他は?」
「他は特に大丈夫。悪化したらまた呼んで」
「あぁ。君は誰も見抜けなかった呪いを発見し、解除してみせた。感謝する」
「貴方に素直に感謝されると少し寒気がするよ」
「ひどいなぁ。あ、僕のことはルクスって呼んでよ」
そっちの方が堅苦しくなくていいだろ?と言って笑う皇太…ルクス。
「念のためしばらく泊まっていってくれるかい?容体が変わるかもしれない」
「そうだね。そうするよ」
そうしてそれから1週間ほど。陛下が起き上がって話せるようになるまで城に泊まった。




