第8章 剣
戦火の跡。
リューネブルク王国の城は、かつての威光を失い、瓦礫と煙に包まれていた。
王や貴族たちの屋敷は焼かれ、かつて権力を振るった者たちは姿を消した。
遥人は剣を下ろし、静かに息を吐いた。
戦いは終わった。
しかし、心はまだ静まらない。
遥人は魔物と手を組んで、王族を滅ばしたのだ。
味方の説得も困難を極めた。
遥人はイルゼと共に、初めは回りの兵士から説得した。
「貴族は、信用できない」
初めは反発する者も多かった。
だが、遥人が戦場で命を救った兵士たちの信頼から少しずつ輪は広がった。
それでも秘密は、守られねばならない。
信頼できる自分たちの部隊と、顔見知りの隊長しか、説得はできなかった。
しかし、彼らが蜂起すると、元々貴族への反発があった兵士たちは、遥人たちの反乱に呼応した。
そして、勇者ハルトへの民衆たちの信頼は絶大だった。
「勇者殿、あなたの言葉には力があります。民も耳を傾けます」
イルゼがいった。
そして、リューネブルク王国は滅んだ。
新たな国家の建設が始まった。
遥人は、魔物と人間が共に暮らせる町を視察し、橋を架け、村を再建した。
そして教育。
人々が世襲を捨てるには、教育が必要だ。
初めは上手くいかなくても、徐々に効果が表れるだろう。
そして、魔物たちは農耕や鉱山で力を貸し、人間たちも魔物たちに知識を与え、たがいに恐れることなく共存する。
ともに手を取り合って、国を再建していった。
そんな中、王女のアデーレが現れた。
彼女はずいぶん汚れた姿になってしまっていたが、遥人を見つけると、微笑みながら近づいてきた。
「勇者様……いや、ハルト様。あなたが本当に、この国を変えたのですね」
満面の笑顔だった。
遥人に抱きつこうとする。
その笑顔に、遥人は疑念を持った。
(彼女はすべてを失った… そんな彼女が笑ったりするだろうか…)
次の瞬間、アデーレは遥人の胸を短剣で突き刺した。
「父の仇! 魔族と手を組む人間の裏切者め!」
近くにいたイルゼは気づいたときは、アデーレは森の中に去って行った。
イルゼは遥人を抱きしめて叫んだ。
「勇者殿、死ぬな! お願いだから、死なないでくれ!」
イルゼの目から涙がこぼれた。
最初は心もとないヒヨっ子だったが、しだいに頼れるようになった遥人。
イルゼには、もう彼の存在が無くては、生きてはいけない…
そんなふうに感じるようになっていた。
押し黙っていた遥人だったが、堪えきれないように笑い出した。
「ふふふ… イルゼ、俺は勇者なんだぜ。簡単に死にはしないよ。見てみろ」
遥人はイルゼの腕をほどくと、彼の刺された胸を見せた。
鮮血に染まった胸。
しかしその胸の傷が、見る見るうちにふさがっていく。
「今まで言ってなかったけど、俺には治癒スキルがあってさ」
「治癒スキル?」
「このぐらいの傷なら、すぐに治るんだよ」
「はあ?」
遥人はすぐに立ち上がった。
「では、何でもないんだな、勇者殿」
「ああ」
「では、なぜ倒れたんだ」
「イルゼの心配そうな顔が見たかったのさ」
「バカ野郎!」
魔物たちは、すぐに森の中に逃げたアデーレを捕まえた。
そして、元王女は処刑された。
ある日、遥人は森の中で魔物たちと談笑していた。
翼の魔物が人間の子どもたちと遊び、獣の魔物たちは人間たちと農作業の手伝いをしている。
かつては敵だった者たちと笑い合う光景に、遥人はしみじみと感じた。
(これが……理想の世界なのか……)
剣を振るい、戦いを経て、ようやく見つけた居場所。
そして、共に歩む仲間たち。
イルゼも、民衆も、魔物たちも――みんなが未来を信じている。
遥人は、空を見上げる。
「戦いはもう終わりだ。だが、とても清々しい」
その決意の光は、月明かりに照らされ、森も町も包み込むように輝いた。
飢饉の際に、魔物との分断が起ころうとした時がある。
「人間の命より魔物の命を優先するのか!」
「どちらも大事だ。対立よりも協力が、未来を作るんだ」
遥人は訴えた。
そして危機を乗り越えることが出来た…
こうして、異世界で召喚された現代人、遥人――ハルトは、剣と信念で新しい世界を切り開いた。
この世界に来たころは、「剣で名を上げたい」と思っていた彼は、いま思うのだった。
「正しさを守るのは剣ではない。正しさを信じる心だ」
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