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第2章 剣士

翌朝。

遥人は与えられた鎧を着込み、城の訓練場に立っていた。

石畳の広場には、槍や剣を手にした兵士たちが列を作り、掛け声をあげて素振りをしている。


「…おい、あれが召喚戦士か」

「ずいぶんと細身だな。あんな体で戦えるのか?」


ひそひそとした視線を感じる。

だが遥人は気にせず、木刀を握り直した。

日本の道場で叩き込まれた立ち姿は、異世界の兵士から見ても一際整って見えたらしく、周囲がざわつく。


そこに、甲冑を鳴らしてイルゼが歩み出てきた。


「今日は基礎訓練です。勇者殿といえど例外はありません。まずは剣を振ってください」


「わかった」


遥人は無言で踏み込み、木刀を振り下ろした。

空気を裂く音。

剣士たちの目が見開かれる。


「振りは速い。だが、腕だけで振っています」


イルゼの指摘は鋭かった。

遥人は思わず顔を上げる。


「剣は体で振るものです。腕だけで振れば、胴を断つ力は出ない」


その言葉に、遥人は胸の奥を突かれた気分になった。

まさに彼が現代剣道で抱えていた課題そのものだったからだ。

竹刀では打突の速さや正確さが重視されるが、本物の剣では「断つ」力が必要になる。


(やはり、こっちの世界でも同じ壁にぶつかるのか……)


その後も訓練は続いたが、胴を狙った斬撃は木人形に深く食い込まず、兵士たちの視線は次第に冷ややかになっていった。


訓練が終わると、遥人は城下の兵舎を案内された。

ふと気づくと、兵舎裏で剣士たちが薪を割っていた。

斧を振り下ろし、乾いた音が響く。


「勇者様は手を汚さなくてもよろしいのです」


案内の剣士が慌てて止めようとしたが、遥人はふっと笑った。


「いや、やらせてくれ。ちょうど試したいことがある」


そう言って斧を受け取り、薪の前に立つ。

ゆっくりと息を整え、足を踏み込み――振り下ろした。


ガンッ!


だが薪は真っ二つにならず、斧が半ばで止まってしまう。

この世界の木は幹がねじれていて、簡単に割れない。

周囲の剣士たちがクスクスと笑う。


「勇者様は、薪も割れんか」

「やっぱり腕だけで振ってるんだな」


遥人は歯を食いしばる。

悔しさと同時に、妙な納得感があった。

薪割りは、剣の斬撃と同じだ。

腕だけでは割れない。

力を乗せ、一気に振りぬき、その動きに全身を連動させなければならない。


(そうか……。これだ。俺が足りなかったのは)


何度も挑戦し、汗を流し、ついに薪が真っ二つに割れたとき、胸が熱くなった。

斧を握る手に、剣の感触が重なる。

その光景を見ていたイルゼが、口元をわずかに緩めた。

遥人のそばから声をかけた。


「少しは剣の重みを理解しましたか」


「……ああ。斬れる気がしてきた」


互いに視線を交わし、短いが確かな手応えが残った。


数日後。

再び訓練場で、遥人は木人形に向かい木刀を振った。


ガンッ!


木刀が胴を捉え、木が大きく裂けた。兵士たちがどよめく。


「ほう!」

「さすが、勇者殿…かな…」


遥人は木刀を下ろし、静かに息を吐いた。

ようやく、自分の剣がこの世界に通用する手応えを掴んだのだ。


その夜。

訓練場に一人残って素振りをしていると、イルゼが現れた。

月明かりに照らされた彼女はどこか柔らかい表情をしていた。


「今日は見事でしたな。……正直、あそこまでできるとは思っていませんでした」


「褒められると、照れるな」


「ふっ、勇者殿でも、そういう顔をされるのか」


二人の間に、わずかな笑みがこぼれる。

だが次の瞬間、イルゼは真剣な眼差しを向けた。


「だが忘れなさるな。戦場は訓練場ではありませぬ。あなたが死ねば、国の希望も潰える。……私は、それを見たくありません」


その言葉に、遥人は胸が熱くなるのを感じた。

彼女はただの護衛ではなく、一人の武人として本気で彼を認め始めている。


「イルゼ。俺は、死なない。必ず生き残ってみせる」


「その言葉、信じましょう」


そう言って彼女は背を向け、静かに歩き去っていった。

月明かりの下で剣を握りしめる遥人の心には、確かな決意が芽生え始めていた。

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