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それぞれの後悔(バルバトスの場合)

「騎士道とは弱きを助け強きを挫く道をゆくこと」


 そう。それこそが僕の理想だった。

 僕の元婚約者。

 英雄ローウェルの一人娘、ローザ・クロスティ。


 彼女は天真爛漫で、ひたむきで努力家で、正義感に溢れ、そして美しく……魅力的な女性であった。


 ローザと婚約したとき、周囲からは羨望の目で見られていたものだ。

 それはそうだろう。

 国民なら誰もが知っている英雄の娘と結婚できるのだから。

 しかも母親もあのルシファーを封印したという伝説の魔女だ。


 クロスティ家と繋がりを持てるなど騎士として最大の誉れだと、先輩たちにも言われた。


 だが、それでも僕は婚約破棄してしまった。


 彼女はあまりにも英雄の血を色濃く継いでいたからだ。


『バルバトス様が甘いものがお好きだと聞いたので、今度クッキーを焼いてみますね』


 彼女の気遣いが怖かった。

 騎士として長年修行を積んだ僕にはわかる。

 その所作にまったくの隙が見当たらないということが。

 

 ローザの実力は僕の遥かに上の領域。

 剣で勝負したら、たちまちのうちに敗れてしまうだろう。

 

 僕は弱い。彼女と比べたら……。


 そんな強い彼女が、僕にクッキー?

 意味がわからない。

 僕が自分の弱さにくじけないように気にかけてくれているのだろうか。


 苦しい。僕は強くなって弱い人たちを守りたくて騎士になったのに。

 この先、僕よりもずっと強い女性が……弱さを憐れむようにクッキーを焼くような女性が側にいるなんて耐えられない!


『ローザ……君はほら、どちらかというと守ってもらうタイプではないし、騎士としての僕の力など不要だろ? 婚約を破棄させてくれ』


 気が付いたら僕はローザに婚約破棄をしたいと訴えていた。

 情けなくて、恥知らずにも、僕は自分の感情を彼女にぶつけてしまった。


『正直、気分が悪いんだよ。英雄ローウェル……君のお父様から剣術の手ほどきを受けたのか知らないが、僕の女になるには君は力強すぎる』


『気分が悪いって、私は別に……』


『ちょっとは男を立てることを考えたほうが良いぞ。悪いが僕はもっと可憐で守りがいがある女と結婚するよ』


『待ってください! 私は別にあなたを蔑ろになど……』


『君がどう思っているなどこの際、関係ないんだよね。僕がどう思うか……それが重要なんだ。察する力も今後、他の男と婚約することがあれば磨いたほうがいいかな』


 もっと弱い女性と結婚したい。

 僕は自分の弱さを棚に上げて、ローザを突き放すような言葉をかけた。

 

 思い出せば、思い出すほど最低な理由だ。


 だが、苦しくて仕方がなかったのだ。

 

 男として、騎士として、妻よりも腕っぷしで劣るなど、あってはならない。

 

 周りからどのような目で見られるか想像するだけで胸が苦しい。


 もしも子供ができたとして、「弱きを助け強きを挫く」など僕の言葉に説得力は皆無だろう。


 これで良かったのだ。

 僕は自分にそう言い聞かせて、縋る彼女に背を向けた。

 

 最低なのはわかっている。

 弱すぎる僕が悪いのはわかっている。


 ローザ、ごめん。

 きっと君には僕よりも相応しい男性が現れるはずだ。


 このとき、僕はそう確かに思っていた。


 ◆


「また婚約破棄されたのか? 信じられないな。あのローザが」

「お前がそれを言うのか? 一番最初に婚約破棄したくせに」


 デルタオニア王国の第二王子に婚約破棄されたという噂を騎士団の先輩から聞いて、僕は驚いてしまった。

 

 いや、先輩の言うとおり僕がそもそもの元凶なわけだけど、それでもあれほどの女性がその後二回も婚約破棄されるとは予想外にも程がある。


「ローザ、僕のせいで君は……」

「未練タラタラだな。お前、あれから誰とも縁談の席にすらつかないらしいじゃないか。それなら何で婚約破棄したんだよ?」

「彼女は僕よりも強い。男として情けないと思ってしまっていたからです」


 未練はある。 

 婚約を破棄したあと、色んな貴族の令嬢との縁談はあった。

 だが、どんな女性もローザと比べると色褪せて見えた。

 

 僕が自分のプライドを守るために、彼女を捨てたのに……。


「器の小さい野郎だな。そんなちっぽけな理由であのクロスティ家との繋がりを捨てるんだから。弱さを認めるのもまた強さなんだぜ。いくら腕っぷしが強くなっても、そんな精神じゃどんな女性も幸せにはできないだろうよ」

「――っ!?」


 先輩のその言葉は深く僕の心に刺さった。

 そうだ、僕は何を小さなことをウジウジと考えて……大事なことを忘れてしまっていたんだ。


 ローザは僕を憐れんでなどいなかった。

 ずっと自然体で、強さとか弱さとか、そんな些細なことで人を測ったりしていなかった。

 そして、常に僕に歩み寄ろうとしてくれていた。それなのに!!


「もう一度、よりを戻せないかどうかローザと話をしてきます!!」

「お、おい! 待てよ! これから仕事があるんだぞ!」

「何か理由をつけておいてください!」


 気が付いたら僕は走っていた。

 彼女のもとへ。一刻も早くたどり着くように。


 ローザ、僕がバカだった。反省する!

 もう一度だけやり直させてくれ! 絶対に君を幸せにするから!

※最新話までお読みくださってありがとうございます


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