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「あれが精霊樹だ。野郎ども、必ず持って帰るぞ」

 

 黒いフードをかぶった男を先頭に、十人ほどの人相の悪い男たちが中庭へと侵入してきた。

 まさか下からやってくるとは、騎士の人たちも気が付かないのは仕方がない。


「俺があれを引き抜く。お前たちは運ぶ準備をしろ」

「「おう!!」」


 フードをかぶった男が指示を出すと後ろの男たちが一斉に返事をする。

 どうやら、彼がリーダー格のようだ。


「たったの三人しかここを守る者がいないとは。神は俺たちを祝福してくれたようだな」


 彼が地面に手を触れると、中庭の土が隆起して巨大な腕となり精霊樹を掴もうとする。


 地面に穴を開ける魔法といい、彼はかなり高度な土属性の魔法の使い手みたいだ。


「力強いけど、土でできているから硬度はそこまでではないみたいね」


「はぁ?」


 辺境伯様に借りた剣で、土の腕を斬り落とす。

 そして一気にフードの男に詰め寄って、喉元に剣を突きつけた。


「降参しなさい」

「……くっ! 万能霊薬(エリクサー)の材料を諦めるわけには……」


 万能霊薬(エリクサー)? それって万病を治すという伝説の治療薬の名前よね。

 精霊樹には神秘的な力が宿っているというし、その材料と言われても不思議ではない。


 それがこの人たちが精霊樹を盗もうとする理由なのか。


「俺に構うな! 枝一本でもいい! あの御方のところに精霊樹を届けろ!」

「えっ?」


 予想外の言動に私は驚く。

 まさか自分の身よりも精霊樹を持ち帰ることを優先するなんて。でも――。


「ふぅ……指示を出しても無駄ですよ」

「全員お縄についているっす」


 仕事が早い。

 残りの盗賊たちはグレンとレズリーが制圧しており、縄で拘束していた。


「くっ……もはやこれまで、か。騎士以外にこんな連中がいるなんて話が違いすぎる」


 フードの男も諦めたのか、膝をついている。

 彼の場合、魔法を使う可能性がある分、特に念入りに拘束しておきましょう。


「おお! 見事じゃ! さすがはローザ殿。こんなにも早く、盗賊どもを捕まえるとは!」


 それからしばらくして様子を見にきた辺境伯様が、私たちに声をかける。

 そういえば、騎士の方々はこの騒ぎでもまだこちらに来ない。

 一体、どうしたのだろうか。


「辺境伯殿、申し訳ございません! 騎士の中に裏切り者がおりまして。到着が遅れてしまいました」


 辺境伯様が中庭に現れてから、数十秒後。

 苦悶の表情を浮かべながら、ただ一人エルマーさんが現れた。

 やはり情報どおり、騎士の中に盗賊たちの仲間がいたのね。


 私たちが警備の手伝いをしていなかったら、盗賊たちの計画は成功していたのかもしれない。


「ふむ。やはりそうであったか。……ローザ殿たちがいなければ大変なことになっておったな」


「不甲斐ないことこの上ございません。たかが三人の警備すら、掻い潜れないとは。せっかく私が部下たちを足止めしてやったのに……」

「っ!?」


 その瞬間、エルマーさんが辺境伯様を羽交い締めにし、首元に刃を押し当てた。

 

「ぬぐっ! エルマー、貴様がまさか!」

「ふふふ、あなたが我々を疑っていたことはわかっていました。ならばこそ、このように一芝居打ったのです」


 なるほどね。

 まさか駐在騎士のリーダーが裏切り者だったとは。

 これは本当に危ないところだったかもしれない。


「エルマーさん、辺境伯様を解放してください。あなたのやっていることは無意味です」


「無意味? 君たちこそ、状況がわかっていないのではないか? 早く盗賊どもの拘束を解くのだ。精霊樹を手に入れたら、辺境伯殿は解放してやる。だが、命令に従わぬならこの男の首を斬り落とす!」


 そう彼が主張することはわかっていた。

 だけど、それでもその主張は無意味なのよね。

 何故ならば――。


「首を斬り落とすなど無理ですよ。お嬢様がそれを許しません」

「はぁ? 何をバカなことを! この状況でそんなこと――」

「グレン、ありがとう。助かったわ」


 カラン。

 地面にエルマーさんの剣が落ちる。

 彼がグレンの言葉に意識をそらした隙に、私は彼の剣を払い落とした。

 そして、動揺した隙に辺境伯様を救い出す。


「お怪我はありませんか?」

「ワシは大丈夫だ。……さすがは英雄ローウェルの娘さんじゃ。動きが見えんかったぞ」


 父の名前を口にされると、ちょっと照れるわね。

 エルマーさんは決して弱い方ではなかったけど、油断していた。

 人質を取ったことで安心して、集中力が途切れていた。

 そこにグレンが自分自身に意識を向けさせ、私はそこにできた隙を狙う。

 心の隙を狙え。父の教えを忠実に従った行動である。


「い、今の動き……完全に見えなかった。くっ……」


 エルマーさんは観念したようで、抵抗することなくグレンによって拘束された。

 これで本当に一件落着。

 デルタオニア王国に来てまだ二日目だというのに、すごいことに巻き込まれてしまった。



「ローザ殿、あなたには命まで救われた。……その恩に報いるために、これをあなたに渡そう」


 盗賊たちとエルマーさんの処理が一通り終わった後に、辺境伯様は透明なガラス瓶を私に渡す。


「こ、これって、まさか精霊樹の枝……ですか?」

「うむ。数年に一度、木から落ちても尚……枝が輝きを失わぬことがあってな。おそらく精霊の力を失わずにおるのだろう。煎じて飲めば万能霊薬(エリクサー)と呼ばれる薬のように、どんな病や怪我をも治す効果があると聞く。きっといつか役に立つ」

 

 こんなに貴重なものを貰っても良いのかな?

 精霊樹の枝なんて、おそらく母ですら持っていないと思うんだけど。

 とはいえ、断る理由も特にないので私はありがたくそれを受け取る。


 しかし、本当に緊張したわ。

 色んな悩みごとがどうでも良くなるくらいドキドキした。

 さすがにしばらくはのんびりしたい。


 そう思っていたんだけど……それからたったの一週間後。

 私のもとに驚きの訪問者が現れる。

 しかも、三人も。


 そう、全員が私の元婚約者たちである。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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