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「おおーっ! 木が光ってる! 光ってるっすよ! ローザお嬢様!」

「これが精霊樹。本当にきれい……」


 通されたのは辺境伯家の中庭。

 キラキラと光る大木を前にして、レズリーは興奮気味で私に話しかける。

 母から話は聞いていたけど、実際見ると迫力がすごい。

 

「精霊樹って不思議ですね。光っているだけじゃなくて、神秘的な力強さを感じます。お嬢様は奥様から何か聞いていますか?」

「文字どおり精霊の力が宿っているのよ。……精霊というのは自然界に生きる生命体の上位存在。時々、その力の依代として選ばれる動植物がいるの。精霊樹はその一つ……他にも神獣とか――」

「いかがですかな。見事なものでしょう。あなたたちにはこの場所の警備をお願いしたい」

 

 グレンの疑問に答えている中、辺境伯様が鎧兜を身に着けた屈強な者たちを数名引き連れてきた。

 あのエンブレムはデルタオニア王国のものだ。


 おそらくは辺境の地に駐在している騎士たちね……もしかしたらこの中に盗賊団を手引きした人がいるのかもしれない。


「辺境伯殿、これは一体どういうことです? なぜ、我々ではなくどこの馬の骨ともわからない連中を最も重要なところに配置を……?」

「そうですよ! ここは騎士である我々が守りにつかせてください!」


 騎士たちは辺境伯様に不平不満を述べる。

 あ、本当にこの場を私たちだけに預けるつもりなのね。

 信頼されるのは嬉しいけど、彼らにもプライドがあるはずだ。

 

 この場を任せないということは、よっぽど騎士の中に裏切り者がいるという話が信頼できる情報筋によるものなのだろうか。


「すまぬが、ここはワシに従ってもらおう。むしろ、お主たちにはこの場にすら立ち入らせないような警備を期待しておるのだ」


「しかし!」

「わかりました。お任せください。賊は一人たりともこちらに入れはしません。誇り高きデルタオニア騎士団の名にかけて」


 一際大柄な体躯の騎士が白い歯を見せながら、反論しようとしていた騎士を制する。

 この全身が無駄のないしなやかな筋肉。

 間違いない。彼は相当の手練れね。


「エルマー分隊長殿、わかっていただけて感謝する」

「いや、なに。辺境伯殿にも何かお考えがあってのことでしょう。この程度で任務を遂行できないほど、我々は弱くありません」


 分隊長ということは、彼が駐在騎士たちをまとめる立場のようだ。

 他の騎士たちの信頼も厚いらしく、エルマーさんが了承したら不平の声を上げる者もいなくなった。


「ねぇ、グレン。かなり責任重大になっていないかしら?」

「ふむ。困りましたな。これは失敗したらごめんなさいでは済まなくなりそうです」

「安請け合いって良くないことなんすね~」


 私が現状に戦慄すると、グレンとレズリーは呑気そうな顔をしてこちらを見る。

 なんでそんなに落ち着いているの?

 ま、まさか。責任を取るのが私だけだからって、親身になってくれないってこと?


 こんなに薄情だなんて思ってもみなかった。

 婚約破棄されたときはあんなに気にかけてくれたのに……。


「あなたたちね。ちょっとは心配とか――」

「心配? こういう土俵でお嬢様が失敗するはずないでしょう」

「貴族のお兄さんと縁談が始まるなら心配っすけどね~」


 盗賊なんか捕まえたことないんだけど。

 それに一応、婚約は三回もしているってことは縁談は上手くまとまっているのよね。そのあと三回とも婚約破棄されただけで……。

 だから、レズリーがいうほど苦手じゃないっていうか。

 って、あれ? 何の話をしているんだっけ?


「まぁ安心してください。婚約継続は俺たちが手助けできる要素がほとんどありませんが、これならお手伝いできます」

「婚約継続って言葉、初めて聞いたわ」

「あたしたちがローザお嬢様の名誉を守れるって話っすよ」

 

 グレンとレズリーは自信満々という表情でこちらを見る。

 二人ともクロスティ家の使用人として両親が認めた有能な人たち。

 とっても頼りにしているし、実際に助けてもらっている。


「じゃあ、お願い。……それにしてもどうやってこんな大木を盗み出すつもりなのかしら」


 グレンたちと力を合わせるのは良いとして、実際こんなに大きな木を盗むなんて本当にできるだろうか。

 木を斬り落とすにしても、かなりの時間がかかるだろうし……。


「お嬢様なら色々と手があるんじゃないですか?」 

「そうね……魔法を使えば、何とか。ああ、そうか」

「俺は盗賊の中に魔術師がいるんだと読んでいます。伐採と運搬……これらに適した魔法が使えるんじゃないでしょうか」


 うーん。確かに盗賊がグレンが言うとおり魔法を使えるとなると話は別ね。

 これを盗み出す算段があるということは、かなり高度な魔法が使えるのかもしれない。


「とにかく魔法には警戒しましょう。お嬢様に及ぶべくもないですが、一応俺も多少は心得がありますし」


 グレンの魔法の腕はかなりのものだ。

 昔は私と一緒にお母様から手ほどきを受けていて、センスが良いと褒められていた。

 

 グレンとレズリーと大木を監視すること数時間……夜は更けてきて、ついにそのときがやってきた。


「ローザお嬢様! 地面っす! 地面に穴が!」


 レズリーの叫び声とともに中庭に大きな穴が空き、中から盗賊たちが飛び出してきた。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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