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(3)

「ま、待ってくだされ! あなたの腕を見込んで頼みたいことがあるのです!」


 家路につこうとしている私を引き止めるように通せんぼする一人の老人。

 かなり焦っているように見える。


「あなたはレイクベルト辺境伯ですね?」

「辺境伯? こちらの方が……?」


 グレンの言葉に私は首を傾げた。

 辺境の領地を収めている方が、昨日ここに来たばかりの私に何の用事があるのだろうか。


「ワシのことを知っておられましたか。……そちらのお嬢様は王宮の騎士にも勝る実力者だとお見受けする。どうかお話だけでも聞いてはくれませぬか?」


 予想はしていたけど、やはり腕力が求められているということか。

 騎士にも勝るとの評価だけど、辺境伯ほどの地位の者ならそのくらいの実力者で懇意にしている者の一人や二人いそうだけど。


「ローザお嬢様、どうされます? レイクベルト辺境伯はこのあたり一体を取り仕切り、デルタオニア王家からの信頼も厚い方だと聞いております。無下にはできないかと」


「そうね……お話を聞くくらいでしたら、問題ございません。辺境伯様がどうして私などにお声がけしたのかわかりませんが」


 グレンの話を聞いて私は頷く。

 どちらにしても、この土地でしばらく暮らすならば、隣国の辺境伯様に冷淡な態度を取るわけにはいかないだろう。

 

 クロスティ家の名前を汚すような行為だけは避けなくては。


「おお! ありがたい。我が屋敷まで馬車を出しますので、付いてきてくだされ」


 辺境伯様は嬉しそうに笑い、私たちを馬車へと案内した。

 そして、馬車に乗り込んだ私たちは辺境伯様の屋敷へと向かったのである。


 ◆


「なんと! あの古城の所有者殿であったか。まさかアルトメイン王国の英雄クロスティ伯爵が所有しているとは思いませんでしたな」


 辺境伯家の応接室へと通された私たち三人は、まずは軽く世間話をする。

 そして、話はあの私が滞在している別荘の話になった。


「いえ、我が家でなくて。そこのグレンが――」

「お嬢様、話がややこしくなるのでクロスティ伯爵の所有物ということで。俺の持ち物は主である旦那様のものでもございますゆえ」


 私が訂正しようとすると、グレンが素早く耳打ちした。

 確かに、執事の所有している別荘に住んでいるというのは少し違和感があるわね。

 初対面の人に話すには面倒かもしれない。

 

「あの屋敷のみ所有者が長年不明であったんですよ。ただ、国王陛下より詮索無用と言われましてな。クロスティ伯爵はここデルタオニア王国でも有名。国王陛下とも懇意にされていたと聞いておりますから、何らかの機会に恩賞でも与えられたのかもしれませんな」


 知らなかった。

 父はデルタオニア王国の国王陛下と懇意にしていたなんて。

 だからあっさり私がこっちの国に住むことを許してくれたのね。


 それにしても、そんな大事なことブルーノ殿下と婚約したときに話してくれれば良かったのに。

 なんで教えてくれなかったのだろう……。


「……それで、ローザお嬢様に頼みごとというのは?」

「うむ。ローザ殿の勇猛果敢な立ち振る舞いを見て、ただ者ではないと声をかけましたが……クロスティ家の者と聞いて納得いたしました。どうか、我が家の秘宝……精霊樹を守ってもらえませぬか?」

「精霊樹を守る? それって確か、聖なる魔力が宿った幻の樹木のことですよね?」


 精霊樹か。

 魔女と呼ばれていた母から名前だけは聞いたことがある。

 大地に大いなる恵みをもたらし、材木としては伝説級の魔道具を生み出す基礎となる……滅多にお目にかかることができない逸品。


 ――そのような貴重なものがここにあるというの?


「精霊樹をご存じならば話が早い。実は今夜……このあたりを荒らしている盗賊団が我が家を襲撃するという情報を入手いたしまして。それを守っていただきたいのです」


「盗賊団……ですが、それならこの付近に駐在している騎士の方々に警備をお願いすればよろしいのではないでしょうか?」


 妙な話よね。

 私の力を借りたい理由はわかったが、それならこの地に来たばかりの人間よりももっと信頼のおける人物の方が良いに決まっている。


「いえ、それがそうもいかなくて。もちろん騎士たちにも救援をお願いしているのですが、どうやら盗賊団を手引きしている者に……駐在している騎士たちの中にいるようでして」


「なるほど。騎士の中に盗賊団と繋がりがある者がいるということですね」


「いかにも。もしかしたら大事なところで騎士の誰かが裏切るかもしれぬ。そう考えるとどうしても不安でして……誰か腕の立つ人間が他に警護をしてくれると助かると思っていた矢先にローザ殿の強さを目の当たりにしたのです」


 辺境伯様は微かに震えながら私の目を見て訴えかける。

 どうしましょう。

 思ったよりも事態は深刻みたい。

 

 下手に大暴れしてしまうとまた噂になってしまうかもしれないし。

 でも、困っている老人を見過ごすなんてクロスティ家の名前を――。


「わかりました。私でよろしければ力を貸しましょう。ですが、一つだけお願いがあります。無事に解決しても私がこの件に関わったことは誰にも言わないで内緒にしてほしいのです」


「内緒にですと? ふーむ。もちろんそれは構いませぬ。ローザ殿が力を貸してくださるのでしたら、この件は内密にいたしましょう」


 こうして私たちは辺境伯家の秘宝……精霊樹を盗賊団から守る手助けをすることとなった。

 心を癒すために、のんびり過ごすつもりだったんだけど、まさかこんなことになるなんて。


 とはいえ、力を貸すと約束したからには全力を尽くそう。

 精霊樹を盗賊団なんかに渡さない。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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