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「さっそくおでかけっすか! ローザお嬢様!」

「ええ、これからしばらく住む町を見て回りたいの」


 グレンの別荘に着いた日の翌日。

 私はさっそく、この辺境の町メルムイータを散歩することにした。


「それでは馬車の準備をいたします」

「必要ないわ。せっかくだし、自分の足で歩いてみたいの」

「承知いたしました」


 馬車は昨日……ここに来るまでの間に嫌というほど乗ったし、そもそも私は体を動かすほうが好きだ。

 

 初めての町の大地を踏まないなんてもったいない。

 それに、ここには私を知る人は誰もいない。

 久しぶりに大手を振って歩けるというものだ。


「ああ、空気が美味しいわね。散歩するだけでこんなに楽しいなんて」

「最近は出歩くと後ろ指さされていましたからね」

「そもそもお嬢様は目立ってたっすから。旦那様と奥様のせいっすけど」


 いや、本当にここのところ王都を歩くことがなくなっていたのよね。

 絶対に顔をさされてヒソヒソ話をされていたから。


 自意識過剰と言われるかもしれないが、レズリーが言うとおり我がクロスティ家は結構有名な家族で、そもそも顔は売れていた。


 そんなクロスティ家の一人娘が三度も縁談を台無しにした。

 しかも、将来有望な令息や果ては隣国の王子に。

 こんなスキャンダルを町の人々が興味を持たないはずがない。


「ですが、旦那様はローザお嬢様にこの国で名を轟かせてほしいみたいでしたよ?」

「知らないわ、そんなの。お父様が何と仰っても私は静かに傷付いた心を癒すつもり。目立つような行動を取るなんてとんでもない」


 父は昔から目立ちたがりな性格で、私に英雄になれとか、伝説を作れとか、そう言って幼少の頃から発破をかけてきた。

 

 でも、そのせいで今……故郷で笑われるようになったのだ。

 せっかく誰も私のことを知らないところに場所にやってきて、また笑われるような真似をするなんてあり得ない。


「あっ! ローザお嬢様! あっちに可愛い小物が売ってるお店があるっす! 行きましょう!」

「レズリー、待って。すぐ行く」


 元気な笑顔を見せながら、お店を指さすレズリー。

 私はレズリーを追って、店舗の中へと入った。



「これなんてお嬢様に似合うんじゃないっすか?」

「金色のカブトムシのブローチ? いいわね!」

「こっちも可愛いっすよ」


 楽しい!

 何の気兼ねなく買い物ができるなんて、久しぶり!

 時間を忘れて私はレズリーと一緒にお店の中を見て回る。


 これだけでもこっちに来た甲斐があるというものだ。


「お嬢様! 今度はあっちのお店に行ってみましょう!」

「ええ、そうね」

「荷物は俺に渡してください。両手いっぱいに買い物袋持って歩くと目立つでしょう? ローザお嬢様」

「うう、それは嫌味かしら? 今日だけよ、今日だけ。はしゃぐのは」


 いつの間にか、大量に買い物をしていた私をジッと見つめるグレン。

 正直言って、かなり浮かれている。

 婚約絡みで色々とあったアレやコレから解放されたからなのか、心が軽い。

 だから足取りも軽くなる。


「嫌味だなんてとんでもない。俺は嬉しいですよ。久しぶりにローザお嬢様の笑っている顔が見られて」

「そんなに笑っていなかった?」

「ちょうど百日ぶりです」

「数えていたの?」

「……冗談ですよ、お嬢様」


 また本気にしてバカを見た。

 グレンの冗談のセンスが上達すればもっと笑えるようになるかもしれないのに。

 そんなことより次の店よ。次の店。レズリーが待って――。


「強盗だ! 誰か捕まえてくれ!」


 突然大きな声がしたので、そちらの方向を向く。

 すると大きな袋と剣を手にした体格の良い男がこちらに向かって走ってくる。

 その奥には店主らしき人が怪我をしているのか、腕を押さえながら叫んでいた。

 あの体格の良い男、おそらく強盗だ。


「どけ! 殺されたくなかったらな!」


 周囲の人たちは剣をブンブン振り回す強盗に圧倒されて、近付けずにいた。

 王都と違って治安がかなり悪いわね。

 強盗なんて初めて見た。


「女! そこをどけ!」

「お嬢様、お下がりください。ここは俺が……」


 強盗が肉迫してくるのを察して、グレンが私を守ろうと前に出る。

 下がるって、そんな必要ないじゃない。

 どうみたって、剣の扱いが素人なんだから……。

 私は三歩前に出て、強盗が振り下ろす刃を躱して、腹に手刀を突き刺した。


「がはっ!!」


 バタリとその場に倒れる強盗。

 かなり加減したから、そこまで大きな怪我は負わせていないと思うけど、大丈夫かしら。

 

 とりあえず、店主らしき人にこの袋を返してあげなきゃ。



「ありがとう! 白昼堂々と襲ってくるから、面食らっちまった。助かったよ」

「腕を怪我していますね。とりあえず治癒魔法を」

 

 店主にお礼を言われたが、私はそれより腕の出血が気になってしまい、彼の腕に手をかざす。

 治癒魔法は母がもしものためにと最初に教えてくれた魔法だ。

 

「へっ? すごい! ざっくり切られたのに治ったぞ!」

「痛みもありませんか?」

「ああ、まったくない。助かったよ。本当になんて感謝をすればいいか」


 深々と頭を下げられて感謝の言葉を述べられて、私はちょっと恐縮してしまう。

 当たり前のことをしただけなんだけどな。


「あんた! すごかったな!」

「見たか? さっきの動き、剣を躱してさ」

「ああ、見た見た。王宮の騎士だってあんな俊敏に動けないだろ」

「素手で強盗に立ち向かうなんて勇敢よね」

「しかし、このあたりで見ない顔だよな。誰なんだろう」


 あれ? 思ったよりも騒ぎになっている?

 町の人々が次々にこちらに集まってきて、私はようやく事の重大さに気が付いてきた。


「ローザお嬢様、退散したほうがよろしいのでは?」

「そ、そうね。目立つのは良くないし……」

「その心がけは既に手遅れです」


 呆れたような顔をしたグレンに守られるようにして、私はこの場から何とか離れようとする。


 だって、目の前であんなことがあったら見過ごせないじゃない。

 それだけで目立つなんて考えもしなかったし。

 今度から気をつけなくては……。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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