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執事の謁見(グレン視点)

すみません!前のエピソードを続けて投稿していたようです!

直しました!

 俺よりも幼い女の子が、とんでもない修行をさせられている。

 英雄と伝説の魔女が住む屋敷。

 旦那様に拾われた俺がそこで見たのは常軌を逸した光景だった。


『どうしてそんなに頑張るのですか?』

『……お父様とお母様が楽しそうだから』


 確かに旦那様も奥様もお嬢様の成長を素直に喜んでいらっしゃった。

 できないことができるようになると、毎日のようにお祝いだと、お嬢様を褒めちぎっていた。


 しかし、あのお二人は人外だ。


 お嬢様は才能豊かとはいえ、普通の人間。

 きっと限界がくる。


 心の中で、どこか止めたいと思う自分がいた。


 でも、動き出せなかった。


 俺もローザお嬢様の成長を見守るのが、楽しくなっていたから。


 そうだ。俺が支えられるくらい強くなればいい。

 お嬢様よりも、誰よりも――。


「まさかあなたから謁見を望まれるとは思いませんでした。グレン殿下」


 俺に声をかけるのは、デルタオニア国王が最も信頼を置く宰相リュゲル。

 宰相室で待つこと二時間。ようやく彼との対面を果たした。


「殿下はやめてくれ。俺はまだ王子ではない」


「まだ、ということは……ようやく決意をされたと受け取ってよろしいのでしょう。陛下もお喜びになります」


 国王との謁見を取り付けるには、俺の正体を知っている数少ない者と接触を図るしかなかった。

 リュゲルもその一人。


 王都に着いた俺は、まず彼の屋敷を訪問して国王陛下との謁見を取り次ぐように頼んだ。


 助けてほしい人物がいるということ共に……。


 ローザお嬢様やエルムハルトの話は伏せておいた。


 エルムハルトはこの国の第一王子。

 陛下の判断が下されるまでは、下手に刺激すると思わぬ混乱を招きかねない。


 だからこそ、俺は謁見を急いだ。やつの手がお嬢様へと届く前に……。


「陛下は謁見を許してくれたのか?」


「もちろんです。殿下……いえ、グレン様とのお話を楽しみにしております。クロスティ家のご令嬢のおかげだと、感謝の言葉も述べておりました」


 ローザお嬢様に感謝、か。

 そういえば、国王はお嬢様を使って俺を説得させようとしていたな。


 今、その勘違いは好都合だ。

 お嬢様への恩を返すという形で、俺の要求も飲んでくれるだろう。


「そうか……便宜を図ってくれてありがとう。礼を言う」


「いえいえ、このリュゲル……グレン様に忠誠を誓っておりますゆえ。なんせ、あの戦争を止められなかったら私は責任を取って今ごろは田舎で隠居生活を送っていたでしょうからな」


 二年前の七十日戦争。

 その諍いはリュゲルの使者の不手際が発端だと言われていた。


 しかし、真実は違う。


 エルムハルトについて調べていた俺は、たまたまリュゲルの使者が脅迫されていたことを突き止めたのだ。


 脅迫したのはもちろんエルムハルト。


 戦争を引き起こした責任を取らされるところだったリュゲルは、それから俺のことを過剰に持ち上げるようになった。


 おそらく次期国王の座を俺に……などという提案をしたのも彼だろう。


「どうぞ、こちらへ。陛下はきっとグレン様の助けになってくださるはずです」


 だが、今はそれでいい。

 俺の人生など、ローザお嬢様の身の安全に比べたらどうでもいい。

 

 あの人は、俺に光をくれた太陽なのだ。


 ローザお嬢様は何もかも失った俺に、生きがいを与えてくれた。

 

 お嬢様、あなたと共にいた時間は俺にとって宝です。

 どうかご無事で……。


 ◆


「グレンよ。また、こうして二人で話せるとは思わなかった。クロスティ家のお嬢さんに頼んではみたが、お前は言うことを聞かぬと思っていたからな」


 国王は玉座からこちらを一瞥すると、嬉しそうな声を出す。

 やはり、ローザお嬢様が説得したと思っているようだ。


「ここに来たのは、陛下に一つ便宜を図っていただきたい。それだけのため。話は私の事情をお聞きになったあとにしてくださると助かります」


「……便宜か。リュゲルもお前から頼み事があると言っておったな。よろしい。話してみよ」


「ありがとうございます。実は――」


 リュゲルのおかげでスムーズに話が進んだ。

 俺は国王にこれまでの経緯を話す。


 ローザお嬢様が今まさに、エルムハルトの陰謀の餌食になろうとしていることを。


「……というわけで、陛下からエルムハルトの暴走を止めるよう進言していただきたく存じます。関所の封鎖を解き、ローザお嬢様が故郷へと戻れるようにしていただきたいのです」


「まさか、エルムハルトがまたそのような……」


 一通り話を終えると国王は愕然とした表情をする。

 それは当然だろう。

 以前、エルムハルトの悪事が明るみになったとき、王権を奪うだけに留めた結果……このようなことが起きてしまったのだから。


「すぐにエルムハルトを処分する……と言いたいところだが、やつが悪事を働いているという証拠はあるのか?」


「ありません。しかし、状況からして明白です。ことを収めてから、証拠を探せば必ずや出てくるかと。……ローザお嬢様がクーデターなどという荒唐無稽な話、陛下はお信じになりますか?」


「それは、もちろんあり得ぬと思っておる。何者かの陰謀が蠢いていることも理解している。だが、王子の処分となるとな」


 もはや時は一刻の争いも許さないというのに、国王は渋い顔をしたままで、決断をしない。

 

 予想していたことだ。


 ここに俺が来た意味。ローザお嬢様では、国王を説得し得ない理由がここにある。


「何卒、便宜を。もしも、ローザお嬢様を無事にアルトメイン王国に帰してくだされば、俺は陛下の望みどおりに生きると約束いたしますゆえ」


 俺はどうなってもいい。

 ローザお嬢様が救われるなら、旦那様と奥様のもとに帰れるなら、それでいい。


「なるほど。ローザ殿が説得してここに来たわけではないのか」


 すべてを察したように、陛下はうなずく。

 そう。ここに来たのは純然たる俺の意思だ。


「そして、そこまでして彼女を守りたいのだな。……一つだけ聞かせてくれ。お前にとって、ローザ殿はどういう存在なのだ?」


「俺のすべてです。俺に存在する理由を与えてくれた、そんな御方です」


 孤独だった。

 だから、俺には眩しかった。

 あの人が、ひたむきに前を進んでいく姿が。


 いつしか俺の人生は彼女の側にいることと同義になっていた。


 だが、そんな日ももう終わる。

 こういう終わり方でよかった。


 ローザお嬢様が見ている前だったら、揺らいでしまっているかもしれないから……。


「よかろう。ローザ殿を国に帰す手はずを整えよう。エルムハルトの身柄も拘束する」

 

「陛下……よろしいのですか?」


「二言はない。ここでお前に不義理を働いては、ローウェルに申し訳が立たぬ。下手をすれば、あやつは娘を救うために我が国に戦争を仕掛けるやもしれんしな」


 陛下は決心したような顔をして、こちらを見据える。

 よかった。これでローザお嬢様は救われる。


 しかし、これで俺は――。

 

「もちろん、お前にも義理を通してもらうぞ。この件が無事に解決し、ローザ殿が帰国したら……」


「陛下! クーデターです! 騎士の一部が反乱を起こして、王宮内に! うわっ!!」


 そのとき、謁見の間の扉が開き、リュゲルが入ってきた。

 そして、なだれ込むように騎士たちもそれに続く。

 何事か? まさか、エルムハルトが……。


「ほう。いつぞやの執事じゃないか。ここで父上と密談しているということは、まさか貴様が俺の兄上かい?」


「ブルーノ……」


 邪悪な笑みを浮かべてこの部屋に入ってきたのはブルーノ。

 デルタオニア王国の第二王子であった。

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