(2)
「やっぱり王都への入口は騎士団の連中が見張っているっす。出入りを厳重にチェックしているので、正面から入るのは難しいっすよ」
「私が再び囮になろうか?」
「別荘と違って、騎士の数が違います。ちょっとやそっとの陽動で、王都への侵入が容易になるとは思えません」
予想どおり王都周辺は厳しい警戒態勢が取られていた。
私たちは王都の入口から離れた岩陰から様子を見ているが、ネズミ一匹通さないといった感じだ。
イカロス様がたとえ数名の騎士の気を引いたところで、誰にも気が付かれることなく王都に入るのは難しいだろう。
「いっそのこと、玉砕覚悟で突っ込むか。真正面からくるとは思っていないだろうし、油断しているスキをつけば何とか侵入できるかもしれん」
「はぁ……これだから、脳みそまで筋肉でできている男は。リスクの大きさも考えずに口を開かないでくれ」
「なんだと? 貴様もスケールの小さい陽動しか提案できなかったくせに、偉そうなことを言うな」
「誰のスケールが小さいだって?」
気付けば今にも一触即発という感じで睨み合うバルバトス様とイカロス様。
こんなときになんで喧嘩ができるのか、理解に苦しむわ。
王都に入る前にこれだと困るんだけど……。
「いい加減にするっす! 無意味な争いは止めてもらえないっすか!」
「むっ……失礼した」
「くっ……明晰な頭脳を持った私としたことが冷静さを欠いてしまった」
メイドであるレスリーの一喝を素直に聞くなんて……。
ピリついているけど、冷静さは欠いていないようね。
さて、どうやって中に入るか考えなくては――。
「騎士の身につけている鎧兜を拝借して、騎士に成りすますのはどうだ?」
「そう簡単に人数分、調達できるのか?」
「うーん」
やはり簡単に良い案は浮かばない。
辺境伯様のこともあるから、なるべく早く王宮へと向かいたいところなのだが……。
あれ? 辺境伯様?
そういえば、最初に辺境伯様のところで精霊樹を守ったとき……盗賊たちは――。
「穴を掘って、地下から侵入するのはどうでしょう?」
「「「っ!?」」」
そうだ。この手があった。
地面に穴を掘って、下から目的地を目指すという作戦だ。
あのときは少し面食らった。
完全に死角を突かれたからだ。
これなら、誰にも気付かれることなく王都へと向かうことができる。
「無茶を言うな。私の明晰な頭脳が言っている。王都までの距離を計算すると、騎士団の者の目を避けられる場所まで穴を掘り進めるには、少なくとも三日はかかる、と」
イカロス様はすかさず私の案に反論する。
確かに穴から出てくるときに、見つかってしまったら意味がない。
なるべく人目を避けられる場所まで穴を掘らなくてはならないというのは、彼の言うとおりだ。
「大丈夫です。一時間で終わらせます。こういう力任せの単純な魔法は得意なんです」
私が地面に触れると、地面が隆起して巨大な腕が二本生える。
「これって、あのときの盗賊が使っていた――」
「岩巨人の腕……昔から魔術師が土木建築作業に愛用していた魔法よ」
レズリーは見覚えがあるようね。
あのとき、盗賊はこの魔法で地面を掘って侵入し、さらに精霊樹を運搬しようとした。
この魔法は、自己の腕力の何十倍もの力を軽々と発揮できる。
これで地面を掘り進めれば、王都に侵入できるはず。
「無茶だ。この手の魔法は魔力の消耗が激しい。魔力が切れたら半日近くは休まなくてはならないし……やはり三日はかかるぞ」
「いえ、魔力切れは起こしません。お母様に鍛えられて、ちょっとやそっとでは尽きないように訓練しましたから」
「なぬっ!?」
この手の作業は母から修行として、何度もさせられてきた。
屋敷よりも大きい砂の城を作ったり、山よりも高いところまで氷の階段を作ったり、魔力が枯渇しないように毎日厳しい課題が与えられていたのである。
剣の稽古も大変だったけど、こっちの方が辛かったかもしれないわね……。
とにかく、基本的にどこまでも掘り進めることはできる。
時間がない。さっそく、作業を開始しよう。
「すごいっす! ドンドン掘り進められて、一気に王都の地下にたどり着きそうっす!」
「確かにこのペースなら、三十分もあれば余裕でたどり着く。しかし、これほど魔力をどうやって……」
「王都内で目立たない場所……やはりどこかの路地裏あたりか」
岩巨人の腕を駆使して穴を掘り続け地中を進む。
バルバトス様の言うとおり、路地裏あたりに出るのが良さそうね。
私は頭の中の地図と照らし合わせながら、適当な箇所へと穴を掘り進める。
「このあたりなら大丈夫そう。誰も見ていないわ」
「とはいえ、顔をさらして歩くわけにもいくまい」
「あたしが買ってきたフードを被って顔を隠すすっよ」
「三人も顔を隠して歩いていたら不審じゃないか? とはいえ、それしか方法はなさそうだ」
ようやく、デルタオニア王都へと戻ってきた。
グレンはもう王宮にいるのかしら……。
みんなの無事も大事だけど、私はあなたに伝えなくてはならないことがある。
そのためにも、必ず国王陛下のもとへ行かなくては……。
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