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(2)

「ふーむ。エルムハルト殿下とブルーノ殿下がローザ殿を……にわかに信じられぬ話ですな」


 なんとか辺境伯様に接触できた私たちは、屋敷の応接間に通されて事情を説明した。

 彼は眉間にしわを寄せて、考え込む仕草をする。


 ――甘かったかもしれないわね。

 

 第一王子と第二王子に狙われているなどという事実だとしても面倒極まりない話。


 真偽を証明する術もないにもかかわらず、そんな話をして、そのうえで匿ってほしいと厚かましいお願いまで……。


 辺境伯様がここで協力を拒否したとしても恨むのは筋違いだろう。


「……エルムハルト殿下については、ワシのところにも良くない噂は入っておりました。それにローザ殿がそのような嘘をつくメリットもありますまい。どうしてそのような状況になったのか、理解が及ばぬところもありますが……」


「私も突然のことで混乱していますし、すべてを完全に把握しているわけではありません。しかし、私が元婚約者二人とクーデターを画策しているというような悪質なデマが流れているのは事実です」


「確かにあなたがクーデターを計画しているなどという荒唐無稽な噂。そんなことで騎士団から追われているとは、由々しき事態ですな」


 そう。デマを流した人間が誰なのかという点は、この際どうでもいい。

 

 今、大事なのは身に覚えのないことで追われているという点と、デマの信憑性が増して私の立場が相当危うくなっている点である。


「……わかりました。ローザ殿、あなたは精霊樹を守ってくださった恩人です。その恩を返さないわけにはいきませぬ。あなたがアルトメイン王国に戻るまで、ワシがなんとか匿ってみせましょう」


「辺境伯様……ありがとうございます!」


「困ったときはお互い様じゃ。もっとも、英雄の血を引くあなたが困ることなどないと思っていましたが。安心してくだされ。ワシの信頼している者をアルトメイン王国への使者として送りましょう。ローザ殿がかけられた疑いは必ず晴らします」


 はっきりとした口調で、私を安心させるようにそう語りかける辺境伯様。


 涙が出そうになる。


 自分を鍛え続けてきたけど、こんなにも何もできないなんて悔しかった。

 でも、この国に来たばかりのときにできた縁がこういった形で返ってきてくれて今はとにかく嬉しい。


「食事と着替えを用意させましょう。客室は余っておりますから、お好きな部屋を使ってくだされ」


「何から何まですみません。本当になんとお礼を言えば良いのか」

 

 昨日から不眠不休でここまで来たので、さすがに少し疲れた。

 寝床だけでもありがたいのに、食事まで用意してくださるなんて……。


 私は深々と辺境伯様に頭を下げる。


「これくらいで精霊樹の借りを返せたとは言えません。なんせ、ワシ自体の命も危なかったのですからなぁ。あっ! そういえば、あのとき盗賊団と手を組んでいた騎士ですが……王都へと護送された際に自殺したらしいですぞ」


「えっ? あの人、亡くなったんですか?」


「うむ。まぁ、騎士としてあるまじき行為を働いたゆえ、極刑は免れなかったでしょうが。しかし、盗賊団との関わった経緯などを調べることができなくなりました。よく考えてみるとローザ殿の件も騎士が絡んでおります。それがエルムハルト殿下の仕業だとすると――」


 そこまで口にして辺境伯様は声を発するのを止めた。

 なるほど。

 先日の辺境伯様の精霊樹を狙った騒動。

 実力のある騎士がまさかの裏切りを働いたあの事件。

 騎士たちに汚い仕事をさせているという点では、私が巻き込まれた騒動と似ているといえば似ている。


「……ワシは何を口走ってしまったのでしょうな。陛下の臣下であるにも関わらず、王族を証拠もなく疑うような真似をするとは」


「辺境伯様……」


「ローザ殿、どうかこの件はどうかご内密に。あなたは何があっても守りとおしますが、ワシにも立場がありますゆえ」


 実直な人だ。

 本来なら、だからこそ私たちを門前払いすべきところなのに……。

 

「さて、ワシはさっそくアルトメイン王国と秘密裏に連絡をとる準備をしましょう。ローザ殿たちは食事の時間までどうかゆっくりとしてくだされ」


 辺境伯様は立ち上がり、部屋を出ていった。

 そして、私たちは辺境伯家の使用人の方に客室へと案内してもらう。


「客室はこちらになります。何かありましたら、何なりと仰ってください」


「ありがとう。グレンもレズリーも休んでいいわよ。疲れたでしょう」


 私とグレン、そしてレズリーにそれぞれ一部屋ずつ与えてもらう。

 もちろん私も疲れたが、二人はそれ以上に疲労しているに違いない。


「了解っす。でも、いつでも声をかけてくれて大丈夫っすよ。寝ていてもすぐに起きるっすから」

「俺もお嬢様がお呼びになりましたら、即座に駆けつけます。遠慮は無用です」


 生真面目に返事をするグレンたち。

 まったく、こんなときも私に気を使ってくれて本当にもう……。

 私は苦笑いしながら客室へと入る。


 そして、気が付いたらベッドの上で瞼を閉じて夢の中へと吸い込まれてしまった。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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