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逃避行(1)

 辺境へと歩みを進めた私は、昨日の昼間に通せんぼにあった橋の近くまでやってきた。


「……さて、そろそろアレを使っておかないとマズイわね」

「アレってなんすか?」

「追跡術式の対策よ。このままだとイカロス様に居場所がバレてしまうかもしれないから」


 イカロス様が敵側についているなら、ほぼ間違いなく追跡術式を使用するはずだ。

 前に彼と食事したとき聞いたことがある。

 僅かな魔力の痕跡すらも見逃さない程の精度で、魔術師を追いかけることができると。


 魔術師は常に少量の魔力を垂れ流して生活している。

 これはどんなに訓練をしても完全に消し去ることは至難だ。

 私も制止した状態なら可能だが、動きながらだとどうしても魔力の流出を止めることはできない。


 体内に蓄積している魔力が大きすぎるというのも、その理由の一つだ。


 イカロス様なら大陸の端っこまで逃げても追跡できてしまうだろう。


「追跡術式を使うつもりだったから、あの方も慌ててこちらを追うようなことをしなかったのでしょう。しかし、魔力の痕跡を消すなどできるのですか?」


「消す必要はないわ。こうすればいいのよ」


「ローザお嬢様の身体が光ってるっす! うわっ! なんか無数の光の粒が……!!」


 私の身体から発せられた小指サイズの光の粒子。

 これは私の魔力の源……通称「オド」だ。


 この「オド」の粒子を大陸全土にばら撒く。念入りに満遍なく大量に――。

 

「なるほど、そういう狙いですか。辺り一面にローザお嬢様の魔力の痕跡を残しておけば、それがダミーの役割をして、居場所を探る妨害をするというわけですね」


「そういうこと。足跡をつけて居場所がバレるなら、あらかじめ大量の足跡で本命を隠しておけば良い。……これならイカロス様が私の魔力の痕跡を見つけても、どこに移動したのか追えないはずよ」


 きちんとイカロス様のお話を聞いておいて良かった。

 魔法理論の話はとても面白かったので、よく覚えている。

 彼曰く、私の反応はあまり良いものでなかったみたいだが……。


「追跡術式の対策は終わったわ。川を越えましょう」

「しかし、橋を渡るわけにはいきませんよね。どうします?」

「そんなの泳ぐに決まってるじゃないっすか。あたし、泳ぎは得意っすからお嬢様を背負ってでもこれくらい余裕で横断できるっすよ」


 レズリーはニカッと笑い、白い歯を見せて私を背負おうとする。

 この子のまっすぐなところは好きだけど、さすがにおんぶしてもらうわけにはいかない。


「そんなことしたら風邪引くわよ。魔法で凍らせて小さな橋を作るわ」


 一歩、川の上に足を踏み出す。

 ピキッと音を立てて、水面が凍りつき、川岸までの氷の橋が完成した。


 馬車が通るほどの大掛かりな橋を作ると、周囲に予想外の影響を及ぼすから魔法を使うのを控えていたけど、これくらいなら問題ないだろう。


「すごいっすね。お嬢様って魔法でできないことないんじゃないっすか?」

「お母様からすると、私なんかまだまだって言われるでしょうね。三人くらい浮かせて、向こう岸まで飛べないのかって」

「イリーナ様と比べるのは酷ですよ。あの方は魔術師としての性能が、文字どおり人間離れしているのですから」


 器用貧乏の自覚。

 剣と魔法の特訓を毎日欠かさなかった結果、どちらのスキルも父と母に遠く及ばないという実感。

 

 これは密かなコンプレックスでもある。


 まぁ、両親は「人間じゃない」ぐらいに思うようにして、色々と諦めるようにしたら気楽になったけど、こういうときにふと気になってしまう。


「前準備もなしに川を凍らせられるのも普通じゃないですよ。お嬢様」

「そうかしら?」

「詠唱や札などの魔具を使わずに魔法を発動させること自体がおかしいですから。イリーナ様が師匠なので、感覚が麻痺しているかもしれませんから」


 思えば婚約破棄の原因はここにあるのかもしれない。

 自分の中で普通という感覚が普通じゃなかったというか。

 

 イカロス様の魔法の話を聞いて、リアクションが悪かったと怒られたのも、それが原因だろう。


「ローザお嬢様は魔術師としても剣士としても一流以上です。自信を持ってください」

「そうっすよ。お嬢様のすごさは剣も魔法もどっちもできるところなんすから。旦那様は魔法はからっきしですし、イリーナ様はスプーンよりも重いものを扱えないんすよ」

「ありがとう。グレン、レズリー」


 ないものねだりをしても仕方ない。

 自分の力はこうして逃亡の役に立っているのだから、それで良しとしよう。


 逃亡している事実がそもそも情けないんだけど、これはまた別問題だしね。


 川岸を渡りきった私たちは辺境伯様の屋敷を目指す。

 なるべく早くたどり着きたいし、あまり野宿したくもないし、夜通し進んでいくべきだろう。


「ちょっと速く歩くけど、付いてこれる?」

「もちろんっす」

「俺らのことはお気になさらずに。急いだほうが良さそうですから」


 ペースを上げた私たちは日が落ちてからも、ひたすら歩き続けた。

 辺境伯様の領地に辿り着いたのは、翌日の早朝。

 近くに追っ手の気配もない。


 少しだけホッとした。あとは辺境伯様に事情を説明して匿ってもらえるようにお願いするだけ。


 大丈夫、だよね……?

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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