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(3)

「随分と遅かったっすね。何か困りごとでもあったんすか?」


 馬車に戻ると、レズリーがすでに出発の準備を整えていた。

 どうしたものか。私がグレンの方を見ると彼は静かに首を縦に振った。


 まぁ、このまま彼女だけ知らないというのは、それはそれで色々と問題がありそうだ。


 レズリーは信頼できる人間だし、話したほうが良いだろう。


「実はね、グレンが――」


 私はレズリーに陛下の話も含めてグレンの秘密について話す。

 彼女は黙って、話を最後まで聞いてくれた。


「――というわけで、陛下のご意向には沿えることができないという結論になったんだけど」


「へぇ、まるでおとぎ話みたいな話っすねー。まさかグレン先輩が王子様だったなんて」


 意外にも、レズリーの反応は冷静だった。

 私はまだまだ受け入れられない部分もあるんだけど、先輩後輩くらいの関係性だったらそんなものなのかしら。

 何だか、酷く動揺していた私が恥ずかしくなってくる。


「王子ではない。公表していないからな」


「その理屈、よくわからないっす。……どういうことっすか?」


「誰も知らなければ、事実ではないと同じってことだ」


 不思議そうな顔をするレズリーに面倒くさそうに返答をするグレン。


 国王陛下が公表しなければ、グレンの身分は変わらない。

 それは確かに事実なんだけど、グレンが国王陛下のご子息であるということもまた事実なのよね。


 ややこしい話が彼に付き纏っているのは、変わらない。


「でも、ローザお嬢様の話だと国王陛下は公表したがっているんすよね? 今は言わずにいてくれているみたいですけど、気が変わらないんすかね?」


「うーん。その可能性はなくもないけど、その気ならとっくに公表してるんじゃないかしら。わざわざ私に説得させようとするくらいだし、グレンの気持ちは優先しているんだと思うわ」


 国王陛下がもしも傍若無人な方ならば、グレンがどう思っているのかなど関係なく、公表しているはず。


 なんせ、ブルーノ殿下たちを差し置いて王座を譲りたいとまで考えているのだ。


 一国の国王という地位を存分に利用すれば、グレンや私が何を考え、何を思っているのかなど無視しても問題ない。


「事情はどうあれ、国王陛下は俺を捨てていますからね。負い目があるんでしょう。それに、旦那様への恩もある。……それに俺も握っていますから、この国の闇。第一王子の秘密を」


「はぁ? 何それ、聞いてないわよ。そんなの」


「……ああ、陛下からその話は聞いていないんですね。てっきり話をされたのかと。やっぱり身内の恥は話したくないのかもしれないですね」


 まったく、まだ秘密があるのか。

 どうやらその第一王子の秘密とやらが、陛下がグレンに気を遣っている大きな要因となっているらしい。


 ここは話を聞くべきなのか、どうなのか……迷うところね。


「第一王子エルムハルトは頭に超がつくほどの悪意の塊。それで王権を放棄させられたっていう話ですよ」


「ちょっと、簡単に要約して話しているけど、それって言っていいの?」


「多分ダメです」

「グレン? あなたね……」


 堂々とダメだと言ってのけるグレンに呆れてしまう。

 それはそうだ。

 あのとき、言って良い話ならおそらく陛下がさっき話していただろう。


「でも、聞きたいでしょう? どうせ、お嬢様は言いふらすなんてしないでしょうし……」


「聞きたい気持ちはあるわよ。他言にしない自信もある。……ううん、ダメダメ。その手には乗らないわよ」


「じゃあここから先は俺の独り言ということで」


 結局話すのか。

 まぁ、気になるのは確かだし。彼も私の複雑な感情を察してくれたんだろうけど。


「第一王子エルムハルト……ご存じないかもしれませんが、人格者としてデルタオニア王国ではかなり支持されていました」


 それは知っている。

 噂レベルだけど、聞いた話では次期国王の座は間違いなしだというのに、本人の意志で王権を放棄したって話だった。


 しかし、さっきのグレンの口ぶりだと王権を放棄させられたのが事実のようだ。


 多分だけど、グレンが王宮内のトラブルの解決に一役買ったという話は、ここに繋がるんじゃないかしら。


「……しかし、その正体は邪悪な戦争屋。争いの火種を起こすことを何よりもの快楽としていたエルムハルト殿下は、盗賊団や暗殺者などの裏社会のならず者たちと深く繋がりを持っていました」

「……っ!?」


 危ない、危ない。

 独り言という体で話しているのに、つい反応しそうになっちゃった。

 

 第一王子エルムハルトには裏の顔があったということね。


「過去にも小さな諍いごとを作っていては、それを喜びに変えていたらしいんですけど、その欲望は止まらず……彼は所々で内戦を起こし、さらには北のリジアルナ皇国との外交問題を発展させ、ついには戦争を引き起こすことに成功します」


 二年前のデルタオニア王国とリジアルナ皇国の戦争……通称七十日戦争ね。

 グレンが留学中ということもあって、あのときは随分と心配したものだわ。


 私だけじゃなくて、両親も彼を気にかけていたっけ。


 まさか、その戦争の要因を第一王子が故意に作っていたなんて信じられない。


 戦争は幸い二ヶ月ちょっとで終結して、和平条約を結んだみたいだけど、それでもかなりの数の犠牲者が出たはずだ。


「偶然なんですけど、俺はエルムハルト殿下が裏の人間たちと繋がりがあることを知ったんです」

「…………」

「留学中に知り合った友人……外交担当の役人の息子が行方不明になる事件が起きましてね。心配になって行方を追ってみると友人を拉致した盗賊団の連中が、殿下の指示を受けていたことが判明しました」


 すごい行動力ね。

 友人が行方不明になったのは由々しき事態だけど、住み慣れていない土地で独自調査をして、その犯人を突き止めるなんて。


 私にはとてもできないことをしているわ……。


「そこから、俺はさらに調査を続けてエルムハルト殿下がリジアルナ皇国との戦争を引き起こした黒幕だと暴いたんです。……そして殿下の指示書やら諸々の証拠を国王に渡し、そしてその事後処理を任せたんですよ」


 なるほどね。

 それは確かに大手柄だわ。


 国王陛下にしても、エルムハルト殿下のような人格破綻者に王位継承させるわけにはいかないと思うのは当然。


 おそらくリジアルナ皇国にすべての理由を話して、身柄を引き渡されたくなかったら、自ら王権を放棄しろとでも脅しをかけたのだろう。


「これで、俺の独り言は終わりです」


「何が独り言よ。白々しいわね。……でも、よく頑張ったわ。グレン、私はあなたが誇らしい」


「別にお嬢様に褒めていただきたいから話したわけではありませんよ。……ですが、ありがとうございます」


 私の言葉を聞いて、グレンははにかみながら軽く頭を下げた。


 あなたが自らの功績を称えてほしいと願っているわけじゃないのは、承知しているわ。


 でも、やはりそれでも私は伝えずにはいられなかった。私の素直な気持ちを――。

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