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(2)

「聞いたぞ。あなたが二度も婚約破棄されたって話。不運だったな。つまらない男の嫉妬で貧乏くじ引かされたんだから」


 隣国の第二王子ブルーノ・デルタオニア殿下との最初の顔合わせ。

 私の近況を知っているらしく、同情してくれた。


 嬉しかった。

 神妙な顔つきで私に優しい言葉をかけてくれたことが。


 ホッとした。

 このまま誰とも結婚できずに家に迷惑をかけそうだったから。


「俺も色々と嫉妬されてさ。男っていうのは俺らみたいに能力の高い者に対して、畏怖の感情を持ってしまう生き物だからな。まぁ、気にするなよ。俺はあなたを認めてやる。能力のある者は男女問わず、好きだからな。はっはっは」

 

 白い歯を見せて、豪快に笑うブルーノ殿下。

 この方は自分に絶大な自信を持っていらっしゃる。

 少ししか会話していないが、それは十分に伝わった。


 ああ、良かった。

 殿下となら上手くやっていけるような気がする。


 一国の王子たる威風堂々とした振る舞いを見て、私は安堵した。


「とりあえず俺についてくれば大丈夫だ。俺は優秀な人間が大好きだし、あなたを同類だと思っている。デルタオニア王国は良い国だぞ。結婚したら、まずは国の観光地をひと通り案内してやろう」


 終始にこやかに、顔合わせのお茶会は進み……なんとその場で正式にブルーノ殿下との婚約が決まる。


 そのことを屋敷に帰って報告すると、メイドのレズリーは跳びはねて喜んでくれた。


「ついにローザ様もめでたくご結婚っすね~。しかも隣国の第二王子なんて幸せ確定じゃないっすか!」

「レズリー、まだ上手くいくって決まったわけじゃないから」

「さすがに三回も婚約破棄なんてされるはずありませんって」

「そうかしら?」

「そうですよ~」


 レズリーの言うとおり、私もさすがにここにきてまた婚約者に振られてしまうなどあり得ないと思っていた。


 ブルーノ殿下のあの自信満々な振る舞いを見たからというのもあったが、殿下は私の事情を知った上で縁談を持ちかけてくれたのだ。


 これは安心して大丈夫だろう。


「デルタオニア王国ですか……」

「あら、グレン。そういえば、あなたはあちらの国の出身でしたね。ちょっと前まで里帰りしていましたし」


 グレンは私の幼いときから執事見習いとしてこの屋敷に住んでいたが、生まれはデルタオニア王国だ。


 父の知り合いの息子さんだったらしく、両親が亡くなったので代わりに面倒を見ることにしたそうだ。


 そんな彼がデルタオニア王国に帰国したのは三年前。


 あちらの国の親戚が急にグレンの顔が見たいと呼び出したのだ。

 父はグレンに一人前の執事になるための留学という名目で向こうでの生活費用を渡して、デルタオニア王国へと送り出す。


 そして一年前に帰国して、再び私の執事として何かと世話を焼くようになってくれたのである。


「良い国ですよ。この国もいいですが、デルタオニア王国は豊かで、何よりも優秀な人材を重用してくれます」

「そう。……それは楽しみね。知らない土地での暮らしは緊張するけど、同時にワクワクするわ」

「きっとローザお嬢様なら人気者になれますよ。王族の妻として相応しい人格者ですから」

「ありがとう。でも、褒めても何もでないわよ」

「それは残念です」


 彼の微笑みは少しだけ寂しげに見えた。

 デルタオニア王室に嫁ぐことになったら、グレンやレズリーとは離れ離れになる。

 それだけは私も寂しい。

 彼らには随分と支えられているんだな。


 早く一人前の淑女になって、心配かけないようにしなくては……。


 ◆


「女のくせに男よりも目立つのはちょっとな」


 ブルーノ殿下はそう捨てセリフを吐いて婚約破棄をした。


『ローザ……デルタオニア王国に来る前に、あなたがどの程度の力なのか。俺が見極めてやろう』


 剣と魔法、ブルーノ殿下が最も自信があるという種目で私は彼に勝負を挑まれた。


 王国始まって以来の天才。

 文武両道、質実剛健、快刀乱麻で電光石火。


 殿下はあらゆる面で自分が凄すぎたと仰って、本当に自分に見合うほどの能力があるのか確かめたいと突然にいい出したのだ。


『王子が相手だからと手を抜いたら国際問題だぞ。良いな』


 厳しい顔つきで念押しをされ、勝負をした結果……私は勝ってしまった。

 

 それがよっぽど屈辱だったのだろう。


 一方的に婚約を破棄して、デルタオニア王国に帰ってしまった。


 ――彼との婚約期間は一番短かった。


「もう、無理かもしれません」


 私は呆然と彼を見送り、今世で結婚を諦めた。


 バルバトス様もイカロス様もブルーノ殿下も悪気はないのだと思う。

 

 上手く男性を立てることができない自分が悪いのだろう。

 ついに王子様との婚約まで破談になってしまった。


 父も母もきっと失望されるだろう……。


「勝負に勝って、王子に婚約破棄された? はっはっはっ! さすがは俺の娘だ! やるじゃないか!」


「私も若い頃はよく力を理由に畏怖の対象とされたことがあります。しかし、ローザ。よく聞きなさい。だからこそ、私は夫と巡り合い結ばれたのです。力を恐れて逃げ出すような者と結婚などしてもどうせ破綻するのは目に見えています」


「イレイナの強さに私は惚れたのだ。そして彼女に見合うだけの力を得ようと努力した。……ローザ、お前の力は私たちの誇りだ。それを男が受け入れられないなら! そんな軟弱者、俺の方からお断りだ!」


 両親はいちゃつきながら私の悩みを一蹴する。

 二人とも自らの力を誇り、隠すことなく人生を歩んできた。

 そして私のことも自慢の娘だと愛してくれている。


 そのおかげで随分と心が軽くなった。


 ◆


「……だけど、三回も婚約破棄された事実は消えないのよね」


 三度も立て続けに婚約破棄されたという噂は、瞬く間に王都中で噂となり、どこに行っても後ろ指をさされるようになった。


 人の噂も七十五日などという言葉もある。


 待てばいずれ静かになるとは思うが、これは堪える。


「せっかくデルタオニア王国についても勉強したのに……無駄になっちゃった」

 

 図書館で借りた本の山と、沢山のメモ。

 隣国に行っても恥をかかないように勉強していたのに――。


「それならデルタオニア王国にある俺の別荘にでも旅行に行きますか?」

「別荘? グレン、あなた。あっちの国に別荘なんて持っているの?」

「ええ、留学していたとき親戚から使っていない辺境の屋敷を貰ったんですよ。隣国の辺境ならお嬢様が顔をさされるなんてこともありませんし。噂が一段落するまで静かに暮らせますよ」


 私の愚痴を聞いたグレンの反応は予想外なものだった。

 まさか別荘を持っているとは思わなかったけど、素敵な提案に聞こえる。

 お父様が許してくれるのであれば――。


「行ってこい! デルタオニア王国でお前の名を轟かせてやれ!」


「いえ、私は静かに暮らしたいのですが」


 意外にもあっさりと父の許しを貰うことができた。

 そんなわけで私はしばらくの間、隣国へと傷心旅行することになったのである。

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