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(2)

「ローザ、大変だったね。あまり隣国の王子を悪く言いたくはないが、知的レベルが低いからあのように恥をかくことになるのだ。……私ならあなたに寄り添うことができる!」


「僕は心からホッとしているよ。あんな王子に君を取られていたら、と想像するだけでゾッとする。……確かに僕は君を傷付けたかもしれないけど、謝るからもう一度やり直してくれないか!?」


 ブルーノ殿下が屋敷から出ていくや否や、バルバトス様とイカロス様はソファーから立ち上がる。

 そして、身を乗り出して自らの主張を口にした。


「「ローザ! 話を聞いてくれ!!」」


 ドンとテーブルを叩いて叫び声を上げる二人。

 こんなにも情熱的なアプローチは婚約しているときには一切なかった。


 ――だからこそ、悲しい。

 

 それならば、なぜ私のことを捨てたのか。

 あのとき、私がどれだけショックを受けたのか、この人たちはわかっているのだろうか。


「…………」


 段々と悔しくなってきた私は、歯を食いしばる。


 口を開けば、暴言を吐いてしまう。


 それが怖くて、黙っていることしかできなくなってしまったのだ。


「僕は君がいなくなって、本当に後悔した。強くありたいという心に縛られて、君を拒絶してしまっていたが、今は違う。君を愛してあげられる! 本当だ!」


「こんな脳筋騎士などやめておきたまえ。どうせ、つまらん会話しかできない。私は気付いたんだ。頭の悪い連中より君と接していたほうが何倍も有意義だとね。……もう二度と失敗はしない。私とやり直そう」


 二人が何を考えてここに来たというのは分かった。

 さっきからそれは十分に聞いたから、伝わっている。


 婚約破棄したことを後悔しているというのも本当なのだろう。


 でも、私は――。


「バルバトス様ともイカロス様とも、再び婚約する気はありません。ここまでご足労いただいて、申し訳ありませんが……お引き取りを」


「「――っ!?」」


 ブルーノ殿下のときに言っておけば良かった。

 

 さっき気が付いたけど……私の中で、そもそも前提としてあり得ないんだ。


 元鞘に戻るなんて、絶対に。


 我ながら器が小さいと思う。

 こうして復縁してほしいとアプローチしてくれたのだから、喜ぶくらいの寛容さを見せられればとも思う。


 被害者ぶるつもりはないんだけど、一度拒絶されたというトラウマは簡単には消えそうにない。


 きっと、私はもう二度と完全にバルバトス様もイカロス様も信じることができないと思う。


 もしも、復縁したらきっと私はそんな自分が嫌いになる。


「すみません。本当に心苦しいのですが、どうかご理解ください」


 私は絞り出すように声を出して、深々と頭を下げる。


 これで終わりにしてほしい。

 

 どうか、お願い。

 私の気持ちをわかって――。

 

「悪いがここで引き下がったら騎士の名折れ。ローザ、僕は君を諦めるつもりはない」


「聞き分けのない子は苦手だが、今回に限って言えば私に落ち度があるのも事実。根気よく説得しよう。あなたが納得するまで、何度でも」


 全然、わかってくれなかった。

 

 帰れと言って、帰ってくれたブルーノ殿下よりもずっと質が悪い……。


 厄介なことに強い意志の力を感じる。

 

 強い言葉をかけても、逆効果になりそうだ。


「……バルバトス様、イカロス様、差し出がましいようですが、ローザお嬢様はお二人がお帰りになられることをお望みです。どうぞ、お引き取りくださいませ」


 そのとき、グレンが二人に声をかける。

 どうやら私が困惑しているのを察して、助け舟を出してくれたようだ。


「君は、クロスティ家の執事かな? 客人に対する口の利き方も知らないようだな」

「悪いが執事ごときの話を聞くほど私は暇ではないんだ。主に忠実なのはわかるが、身の程を知りたまえ」


 バルバトス様とイカロス様は私に見せたことのない殺気を放ちながら、グレンをひと睨みする。

 

 特にバルバトス様は腰の剣に手をそえて、臨戦態勢を取った。

 脅しなのだろうけど、やり過ぎだわ。

 私に対するイラつきを我慢せねばならないから、他で発散しようとしているのかもしれない。


「お引き取りください。俺、結構気が短いので、お嬢様にこれ以上嫌がらせをすると手荒なマネをしてしまうかもしれません」

「ちょっと! グレン!」


 明らかに怒気を孕んだ挑発的な物言いに私は振り向いて彼の顔を見る。

 相変わらず表情は読めない。

 でも、こんなにも感情的になっている彼は初めてだわ。


「どうやら君は僕のことをご存じないらしいね。……剣は抜かないと高を括っているようだが」


 その瞬間、バルバトス様は剣を抜いてグレンの喉元に突きつけようとした。


「はぁ……忠告しましたよね、俺。手荒なマネをするかもしれないと」


 しかし、グレンは頬の皮一枚を掠らせてそれを躱し、バルバトス様の腹を思いきり殴る。


「かはっ……ば、バカな……」

「これでも俺はクロスティ家の使用人。弱いはずがないでしょう? 侮りすぎです」


 いやいや、それにしてもこれはちょっと……。


 確かに両親の方針で我が家の使用人にはある程度の能力が求められているのは事実だけど、今の動きはそのレベルを遥かに超えているわ。


 グレンって、こんなに強かったっけ?

 

 幼いときから一緒にいたから、彼のことは大体知っていたつもりなのに、まるで別人みたい。


「……あなたはどうされます? イカロス様」

「暴力で脅せば私が屈するとでも? ローザをこのような野蛮な男のもとに置いておくわけにはいかないな」

「ご安心を、ローザお嬢様は俺よりもお強いですから」

「そういう問題ではない。……だが、今日のところは引いておいてあげるよ。力で目的を達成するのは性に合わない。ローザ、必ずあなたを説得するからね」


 イカロス様はグレンとしばらく睨み合っていたが、やれやれと言うように肩を竦めると、退室しようとドアへと足を向けた。


「ローザ、手に入らないと思うとますますほしくなったよ。私の明晰な頭脳にかけて」


 ガチャ。

 そんな捨て台詞を吐いて、イカロス様はこの場を去る。

 結局、誰一人として納得してくれなかった。

 私の言葉と正面から向かい合ってくれないのに、どうして復縁なんかしたいのか全然わからない。

 

 そんなことを考えていると気絶していたバルバトス様が起き上がる。

 そしてバツの悪そうな顔をして、屋敷から出ていった。


『君はほら、どちらかというと守ってもらうタイプではないし、騎士としての僕の力など不要だろ?』

『あなたは私が新しい魔法理論について語っても何も驚かない。昔から知っていたという顔をして私以上の知識をひけらかす』

『女のくせに男よりも目立つのはちょっとな』


「うっ……」


「ローザお嬢様? 大丈夫ですか?」


 三人が帰ってすぐ、胸が痛くなって私はその場でうずくまる。

 なんてことだ。

 気を抜いた瞬間、一気に記憶がフラッシュバックしたわ。

 何年も修練を積んでいたのに、こんなことで動けなくなるなんて、信じられない。


「お医者様を呼びますので、少々お待ちを」

「待って、大丈夫。大丈夫だから」

「しかし……」


 これは病気なんかじゃない。

 ただ、あのときのトラウマが一気に三つも襲いかかってきて気が滅入っただけ。


 まだまだ私は弱い。

 もっと心を強く持たなくては……。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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可能ならばきら星になるレベルのパンチをお見舞いしたい…
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