争奪戦勃発(1)
「……僕は一対一でローザと話したいのだが」
「それは私のセリフだ。ローザ、なぜ私以外に客人がいる?」
「貴様ら、何をしに来た? 俺の邪魔をするな」
これはどういう状況なのかしら。
デルタオニア王国の辺境に来て、一週間と少しが経ったある日。
この屋敷に三人の訪問者が現れた。
バルバトス様、イカロス様、そしてブルーノ殿下。
三人の共通点は言わずもがな……私の元婚約者である。
ソファーに並んで座っている彼らと対面に腰かける私。
何とも形容しがたい空気がこの場に流れていた。
「お茶をお持ちいたしましたっす」
「ありがとう、レズリー」
レズリーは三人のゲストにお茶を出す。
彼女は興味深そうに、彼らを見つめて部屋を出る。
私の後ろには無表情で立つグレンが控えていた。
さて、どうしたものか。
そもそも、何をしにこちらの御三方はここに来られたのか。
はっきりしているのは三人とも他の二人が来るなどとは想定しておらず、彼らが揃ったのは偶然だということだ。
「一人ずつお話をうかがった方がよろしいですよね? 別に部屋を用意しましょうか?」
私の質問に対して、三人はお互いの表情を確認すると、殺気にも似た気迫とともに口を開いた。
「ならば僕が一番先がいい」
「なにを言う。私の用件こそ急用だ。悪いが私が最初にしてもらおう」
「ここはデルタオニア王国。ゆえに王子たるこの俺に順番を譲るのは当然だ」
どうやら三人とも順番を譲る気はないらしい。
……そんなに急用なのだろうか?
元婚約者である私に対して、妙な態度である。
「僕は人生をかけてここに来た」
「私だってそうだ」
「貴様らの人生など知るか! ええい! 他人に聞かれようが問題ない! あなたへの話というのはだな!」
「「「ローザ!! 復縁してくれ!!」」」
「…………ええっ!?」
バルバトス様とイカロス様とブルーノ殿下。
三人の声がぴたりと揃って同じことを言ったように聞こえた。
――そ、そんなわけないわよね。
今、もしかして復縁したいと言ったの?
いやいや、そんなのってあり得ない。
だって、三人とも私に対してうんざりしたという語り口で、婚約破棄を申し出たんだもの。
きっと、何かの間違いに決まっている。
三人の声が被ってそのように聞こえてしまっただけだわ。
「ローザ、僕と復縁してほしい! 君がどんなに魅力的だったのか気付いたんだ!」
「私の態度が良くなかったと反省している。あなたは知的だし、互いに高めあえる関係になれるはずだ。やり直してほしい」
「あなたが俺への未練でここまで来てくれたのはわかっている。その情熱、受け止めよう。俺ならあなたの孤高を理解してやれる」
「ちょ、ちょっと待ってください」
本当に復縁したいと言っているようね。
しかも、三人が三人とも……。
一体、何がどうなっているのだろうか。
「おいおい貴様らもローザとよりを戻そうとしているのか。しかし、残念だったな。彼女は俺に未練があって、この国に来たのだ。悪いが、貴様らの出る幕はない。さっさと帰るが良い」
「……ローザ、そうなのか? 僕は伯爵から旅行に行ったと聞いていたが」
「あ、はい。お父様の仰るとおり、しばらく王都から離れて生活したいから、こちらの国に……」
私はバルバトス様の問いかけに頷く。
ブルーノ殿下は未練と仰っているが、そういう受け取り方をされるとは思ってもみなかった。
「ならば、ブルーノ殿下に未練があるというわけではないのだね?」
「ええ、そうです。たまたま執事のグレンがこちらに別荘を持っていただけです」
「だそうですよ、ブルーノ殿下。私ほどの明晰な頭脳がなくてもさすがにわかりますよね? あなたが勘違いされていたことくらい」
私の答えに満足げに微笑みながらイカロス様は、ブルーノ殿下を煽るような言い方をする。
なんだか申し訳ないことを言ってしまったかもしれないわ。
でも、嘘をつくわけにもいかないし……。
ブルーノ殿下、怒っているんじゃないかしら――。
「はっはっは、ローザよ。ここにいる者たちの手前……恥ずかしがって本心を言えないのだろう? わかっておる。俺はムキになってあなたの正直な気持ちを無理に聞き出すような真似はしない」
「ブルーノ殿下?」
「俺はあなたの理解者だからな。……とりあえず、この二人の愚か者共を追い出してくれれば、それでいい」
生温かい視線をこちらに送りながら、ブルーノ殿下は腕組みをする。
私が照れ隠しをしていると仰せになりたいのだろうか。
なぜ、そのようなことが言えるのか理解できない。
一方的に別れを切り出した殿下が私を理解しているですって?
段々と腹が立ってきた。どうしてそこまで身勝手なことが言えるのか。
「いえ、照れ隠しなどではありません。私に未練などありませんので、どうぞ安心してお引き取りください」
「なぬっ!?」
私の言葉に驚いたのか、ブルーノ殿下は顔を歪めてこちらを見る。
――しまった!!
さっきよりもトゲがあるような言い方をしたような気がするわ。
だけど、言わずにはいられなかった。
大きな声を出すのを我慢するのが限界だった。
「くっ!!」
熟したトマトのように顔を真っ赤にしたブルーノ殿下は立ち上がり、そそくさと退室しようと動く。
一礼してドアを開けるグレンの顔を一瞥もせずに、部屋から出ていった。
一国の王子を怒らせたのは、どう考えてもまずい。
しかし、とりあえず今は目の前のことに集中しよう。
バルバトス様とイカロス様がどこか期待に満ちた目でこちらを見ている。
なんだか猛烈に嫌な予感がするわ……。
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