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「復縁してくれ」と同時に三人!?今さら元鞘なんてあり得ません!〜英雄と魔女の愛し子は隣国で気ままに暮らします〜   作者: 冬月光輝


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(ブルーノの場合)

「負ける! 負けてしまう! うわぁぁぁぁぁ!! はぁ、はぁ、ゆ、夢か……」


 あの日から俺は定期的に悪夢を見る。

 デルタオニア王国始まって以来の天才。


 文武両道、質実剛健、快刀乱麻で電光石火。


 あらゆる分野で俺の才能は開花して、将来この国を統べる者に相応しいとして期待されていた。


『女のくせに男よりも目立つのはちょっとな』


 何だ、このおぞましいセリフは。

 本当に俺の口から出たのか?


 俺は勝負に負けただけでなく、その上で嫉妬に駆られてそのような言葉をぶつけたというのか?

 

 これでは、俺が軽蔑しているような小物たちと同様ではないか。


「知らなかった。俺にこんなにも醜い感情があるなんて」


 ローザに弁解などしても仕方がない。

 俺が彼女に嫉妬して、酷い言葉を浴びせたのは事実なのだから。


 とにかく彼女とともに居たら、俺はまた自分の醜い部分を直視するだろう。


 そんなことには耐えられない……!!


 俺はローザとの婚約を破棄して、逃げるようにデルタオニア王国へと帰国したのだ。


 だが、それでも俺は彼女を忘れることはできず、こうして悪夢に悩まされていた。


「おやおや、まぁまぁ。これはブルーノお兄様ではありませんか。お久しゅうございます」


「ミランダ……ちっ、嫌な顔を見た」


 気分転換をしようと王宮の中庭を散歩していると、俺は後ろから声をかけられる。

 俺の妹。第一王女ミランダ・デルタオニア。

 学力も身体能力も並、魔法の心得は多少あるようだが取るに足らないレベル。


 それなのに、どこか達観していて心の内が読めないところがある。

 

 そして、何もかもを見透かしているような顔をして飄々と生きている。


 正直言って、俺はこの妹が苦手であった。


「これはこれは随分な物言い。敬愛するお兄様に邪険に扱われショックで泣いてしまいそうです」


「お前が泣いている姿を見たことなどないが?」


 泣き真似をしながらこちらの表情をうかがうミランダ。

 早く会話を終わらせたい。

 今、俺の感情は不安定なんだ。

 思わぬ隙をこいつに見せてしまうかもしれん。


「それはそれはお兄様の記憶違いでございましょう。ときにお兄様。隣国……アルトメイン王国の伯爵令嬢との婚約を破棄されたと聞きました」


「それがどうした!? お前と世間話をするつもりはないぞ!」


「ふむふむ。あまり良い思い出ではないようですねぇ。……いえね、あのクロスティ家のご令嬢が義姉になると私、結構楽しみにしていたのですよ。それが叶わなくて残念で、残念で」


 ローザの実家……クロスティ家はここデルタオニア王国でも有名だ。

 英雄ローウェルと伝説の魔女イレイナ。

 大陸内でこの二人の名前を知らないという者はいないだろう。


 ローザはこの二人の娘。

 英雄と伝説の血を引く奇跡の子。


 わかっている。そんな彼女が本物の天才であるのは必然だと。


「……勝手に残念がっていろ。話は終わったか? もう良いだろう。俺は忙しいんだ」


「なるほど、なるほど。もしかして嫉妬したんですか? ローザさんに」


「――っ!? バカを言え! 俺が嫉妬などというみっともない真似をするか!」


 気付けば声を荒らげていた。

 これでは、ほとんど肯定しているようなものではないか。

 やはり、ミランダと話していると心がざわつく。


「怖い怖い。大きな声出さないでくださいな。冗談ですよ、冗談」


「……お前の冗談は甚だ不快だ」


「おやおや、これは手厳しい。まぁローザさんほどの女性は引く手あまたでしょうから、大丈夫でしょう。しかし、お兄様……もったいないことをしましたねぇ」


 心底残念そうな顔をして、ひとしきり俺の顔を眺めたあと、ミランダはくるりと背を向けて歩き出した。

 

 随分と疲れた。

 当分、あいつの顔は見たくないな。


「あ、そうだそうだ。ブルーノお兄様、最後に一つだけ」


「なんだ!? 話は終わったのではないか?」


 びっくりした。

 急に振り返って話しかけるな。

 俺は動揺を隠しながらミランダの言葉を待つ。


「いやいや、大した話ではないんですけどね。……ローザさんですが、今デルタオニア王国にいるみたいですよ?」


「はぁ? なぜ、ローザがこの国にいる?」


「まぁまぁ落ち着いてくださいな。理由はわからないですが、辺境の地にクロスティ家の別荘があるらしいです。……もしかして、お兄様に未練があるのかもしれませんねぇ」


 あのローザがこの俺に未練、だと?

 この俺に……!?


 その言葉は俺に失われた自信を取り戻すに十分であった。


 確かに俺ほど才能に溢れて、活力に満ちて、おまけに顔も良い人間はいない。


 彼女からすればまさに逃がした魚は大きいという状況なわけだ。


 知らなかった。ローザがそこまで俺に惚れ込んでいたなんて。


 もはやつまらん勝負での勝敗などどうでも良くなっていた。

 何故ならば、トータルで見ればこれは完全にこの俺の勝利だからだ。


「急用ができた」


「おやおや、顔つきが変わりましたな。まさか辺境に行くのですか? ブルーノお兄様」


「……ああ。そのとおりだ」


 隠していても仕方がない。

 そこまでローザが俺を愛しているというのなら、復縁してやってもやぶさかではない。


「それはそれは、ご武運を。……ですが辺境では気をつけてください。噂によるとデルタオニア王族に恨みを持つ者が、良からぬ企みを立てているとか」


「良からぬ企みだと?」


「ええ、ええ。力を得ようとつい最近も辺境伯家の秘宝が狙われたらしいですよ」


「ふん。俺は強い。最低限の護衛は連れて行くが、身に降りかかる火の粉くらい己の力で打ち払ってみせる」


 そんなどうでも良いことよりも、今はローザだ。

 気に食わないやつだが、たまにはミランダも良いことを言う。

 そうか。この俺に未練があってわざわざ国境を越えてくるなんて可愛いところもあるじゃないか。

 

 高揚した気分を何とか抑えながら、俺は辺境へと向かった。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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