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二度あることは三度ある(1)

「ローザ……君はほら、どちらかというと守ってもらうタイプではないし、騎士としての僕の力など不要だろ? 婚約を破棄させてくれ」

 

「えっ? 急に何を仰るのですか? バルバトス様」


 バルバトス様と婚約して一年がすぎたとき、急に彼はそのようなことを口にして、私との婚約を破棄したいと言い出した。


 ちょっと信じられない。

 こんなこと唐突に言われるなど思っても見なかったものだから、私は酷く動揺してしまった。


 彼の好きだと言っていたクッキーを焼くために朝早くから準備して、味の感想を聞くことを楽しみにしていたのに。


 クッキーの入った袋を手渡そうとした瞬間、こんなことを言われるなんて……。


「正直、気分が悪いんだよ。英雄ローウェル……君のお父様から剣術の手ほどきを受けたのか知らないが、僕の女になるには君は力強すぎる」


「気分が悪いって、私は別に……」


「ちょっとは男を立てることを考えたほうが良いぞ。悪いが僕はもっと可憐で守りがいがある女と結婚するよ」


「待ってください! 私は別にあなたを蔑ろになど……」


「君がどう思っているなどこの際、関係ないんだよね。僕がどう思うか……それが重要なんだ。察する力も今後、他の男と婚約することがあれば磨いたほうがいいかな」


 そんな捨て台詞を吐いて、彼は私のもとを去った。


 バルバトス様は侯爵家の三男。

 剣の実力は同世代の中で屈指であり、その剣速たるや騎士団員に並ぶ者なしと言われるほどの実力者。

 将来有望だと目される騎士との婚約に父も大層喜んでいたのに、気が重い。


 彼に気に入ってもらうために、頑張ってきたつもりなんだけどな。


「私の力が強いから……守りたくない、か」


 バルバトス様から放たれた痛烈な一言。

 私は握りしめた拳を見つめる。


 ローウェル・クロスティは英雄と呼ばれる元騎士であり、私の父だ。


 騎士として数々の武勇伝を打ち立てた父は下流貴族出身であったが、国王陛下よりその武勲に対して恩賞を与えるとして、伯爵の地位を得るほどの豪傑であり、国民で父を知らない者はいない。


 アルトメイン王国史上……最強の英雄などともて囃す者もいるくらいである。

 

 確かに私は幼いとき、そんな父から剣術を習った。

 

「いつ危険が襲ってくるか分からん。自分の身は自分で守れ」


 父としては一人娘である私を心配して護身術として、教えてくれたのだ。


 父の教えは厳しかった。

 何度も死ぬんじゃないかって思うほどだった。


 そこまで頑張って剣術を覚えた結果、バルバトス様にそれがダメだと指摘され、婚約を破棄されるのだから……これは皮肉どころの話ではない。


「……おや、ローザお嬢様。浮かない顔をされてどうしたんですか? バルバトス殿とお食事会はもう終わったのですか?」


 馬車の前で待っていた執事のグレンは私の顔を見るなり、心配そうな表情をする。

 私、そんな酷い顔しているのね……。


「まさか今朝、あたしと一緒に作ったクッキー不味かったっすかね? すみません。あたし、平民出身なもので、高貴な方の好み把握してないんすよ」

 

 気まずそうな顔をして声をかけるのはメイドのレズリー。

 彼女の料理の腕は確かで、このクッキーはレズリーに習って作ったのだ。


「実は――」


 屋敷に帰るまで黙っておくことが耐えられなかったので、私は先ほどの婚約破棄の顛末を二人に話した。

 

 とても悲しくて恥ずかしい話ではあったが、誰かに言わずにはいられなかったのだ。


「そんな理由でバルバトス殿はお嬢様との本当に婚約破棄を? 信じられませんね。俺、ちょっと抗議に行ってきましょうか?」

「最近の男は情けないっすね~。あたしとしては、そんな狭量な男がお嬢様とくっつかなくて良かったと思いますが」


 グレンとレズリーは、そんな私の話を聞いて一緒に怒ってくれた。

 

 グレンに至っては、侯爵家に乗り込もうとするくらいの勢いだったので、私が必死に止めた。


 もうバルバトス様のことは諦めよう。縁がなかったのだ。


 二人が話を聞いてくれたおかげで、私は素直にそう思えるようになった。


 ◆


「はっきり言って、あなたとの会話は面白くない。……この先、一緒にいてもお互い楽しくないだろうし、さっさと別れたほうが良いだろう」


「会話が面白くない?」


 バルバトス様に婚約破棄された翌月、運良く私に二つ目の縁談が舞い降りてきた。


 子爵家の嫡男イカロス様。

 彼は王立魔術師ギルドに史上最年少で入るほど魔法の才能に長けていた。

 魔法を極めて国家に貢献するのが夢なのだと語っていたし、性格も穏やかで良い人であった。

 

 何度か食事をして彼の夢を支えたいと思った矢先、突然イカロス様は別れてほしいと口にする。


「あなたは私が新しい魔法理論について語っても何も驚かない。昔から知っていたという顔をして私以上の知識をひけらかす。まるで自分の方が賢いと主張するように」


「そんな……私はひけらかそうなどと一切考えてなど――」


「とぼけないでくれ。君の母上……伝説の魔女イレイナから聞いた知識を嬉しそうに語っていたではないか」


 私が言葉を言い切らないうちに、彼は立ち上がり自らの主張を口にする。


 母から教わった魔法の知識。

 確かに話を盛り上げようとして、それを口にしたことはある。


 私の母、イレイナは魔王と恐れられた悪魔ルシファーを封印するなど、数々の伝説を持つ魔女。

 

 魔法についての知識は王国内でも屈指だと自負している。


 イカロス様が喜んでくれると思って、良かれと思って話をしたことが、まさか知識のひけらかしなどという受け取り方をされるなんて――。


「あなたは私を支えるべき妻になるんだから、私が気持ちよく話せるように上手に相槌を打てば良かったのだ。……私の知識を上回るようなことを言えば、私の顔が潰れるなどと思わなかったのか?」


「顔を潰すだなんてとんでもありません。イカロス様が魔法について勉強することが楽しいと仰っていましたので、私もその助けをしようと思っただけです」


「はぁ……あのね、この際言っておくけど。女に物事を教えられて喜ぶ男はいないと思うよ? 馬鹿にされたと感じるに決まっている」


 ため息とともに吐き出されたその台詞が最後だった。

 二度目の婚約破棄。

 それが今日の食事会が終了する合図。


 私は子爵家の屋敷をあとにした。


「ローザお嬢様がせっかくイレイナ様の知識を教えてあげたにもかかわらず、その言い草。俺、許せません」

「相槌打ってほしいだけなら、インコでも飼ってれば良いんじゃないっすか~。お嬢様も男運ないっすね」


 グレンは拳を震わせながら握りしめ、イレイナは半ば呆れたような表情で私の話を聞いてくれた。


 こんな短期間に二回も良い縁談を台無しにしてしまった……。


 こういう噂は広まるのが早いし、もう私にまともな縁談など巡ってこないだろう。


「えっ? 私と婚約したい? 隣国の第二王子殿下が?」


 まさかの縁談に私はびっくりしてしまう。

 隣国デルタオニア王国の第二王子ブルーノ殿下。

 どういうことかわからないが、私の前に三人目の婚約者が現れた。

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何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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