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プロローグ

分厚い難解な本の向こうに教室内の風景を覗き見る。各々机をくっつけ、弁当とお菓子を広げて、またはゲーム盤を取り出して数人で集まり談笑を繰り広げる。窓の向こうからは3階の教室まで響く笑い声とボールが蹴られる低い音、時々鷲がキャーンと気高い声で鳴いている。

皆んな誰かと共に昼休みを過ごしていた。次の授業の小テストがやばいとか、昨日のサークルで誰かが告ったとか、今日学校終わったら家の手伝いしなきゃとか。

そんなたわいもない雑談を、わたしは夢見ている。

私は一人だった。だからこうして昼休みの間は本に向き合っていた。手に持つのは図書館の一角に置かれた分厚い難解な推理小説。貸出表を見ると、この本は数年前に図書館に置かれたのにも関わらず、借りたのが私が初めてだった。

それを知った時、この本に親近感が湧いてきた。あなたはわたしと同じで、誰からも見つけられず、誰からも手を差し伸べてもらえず、ずっと一人で棚の中に鎮座していたのだろう。読書好きの私でも読むのを躊躇するほどの分厚さに青春のせの字もない中年男性らの犯罪と欲望の渦巻く物語。夢も希望もありゃしない。私みたいな物好きでなければ誰からも読まれなかっただろう。

誰かが面白いことでも言ったのだろうか、背後に居た女子の集団からどっと笑いが起こるのを耳にしてそっとため息をつく。

この本を手に取ったように自分の手を誰かに取ってもらえる日は来るのだろうか。たわいもない会話で笑い合うことが出来るのだろうか。

もしも、そんな子が現れたら、きっと天使が何か神々しいものに見えるだろう。私より価値のある人間が大勢いるこの世界で、突然私の目の前に現れたその子は他の誰よりも私の手を取る。

そんなありふれた日常を、わたしは夢見ている。

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