07. ベロニア・セリオ
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時に、懐かしさは変化を起こす。
世界は刻一刻と姿を変え、永遠など存在しない。
変わりゆく世界の中で、人は順応し、ときには従いながら生きていく。
その「適応」という力は人間だけが持つ特別な能力であり、どこにいても生き延びる術となる。
そして、それはアイレナも例外ではなかった。
燃え落ちた祖国への想い。
故郷を捨てて逃げざるを得なかった自分たち。
そしてその果てには弱さを捨て、大人にならなければならない、変わりゆく自分。
十二歳の少女は、もはやただの幼子ではいられなかった。
「適応」とは、少女を少しずつ大人へと変えていくものだった。
「危なかった……。あのとき、言葉を一つでも間違えていたら、首が飛んでいたのはきっと私たちかもしれない」
部屋に戻ったアイレナは、まるで崩れ落ちるようにベッドに腰を下ろした。
つい先ほどまで毅然としていた王女の面影は跡形もなく消え、無理やり恐怖を押し隠していた幼い少女の顔が、そこにあった。
「お疲れさまでした。下手をすれば命を落としかねない、非常に危険な賭けでしたが」
リオネル・バレンは安堵のため息をつき、向かいの椅子に腰を下ろして目を閉じた。
大殿で感じたレオナルド・セリオンの冷気と、その奥に潜む無言の圧力が、今もなお全身を重く押し潰していた。
できることなら二度と感じたくないほど、耐え難い圧迫感だった。
だが、自分はこれからも、あの冷気と圧力の中で戦い続けなければならないだろう。
エイルナス王国を再び立ち上がらせる、その日まで。
そして、自分に代わって陛下と直談判を行った、あの十二歳の王女と共に。
「ねえ、もし……私一人だったら、きっと逃げ出していたと思う。団長がそばにいてくれたから、なんとか逃げずに済んだんだ」
アイレナがベッドの上に手を伸ばすと、その手はまだ震えを止められずにいた。
リオネル・バレンが無言の圧力に耐えていたように、アイレナもまた無理やり耐えていたのだ。
リオネル・バレンは何も答えなかった。
ただ視線を床に落とし、しばしの間だけでも何も考えずにいようとするかのように目を閉じた。
二人の間に沈黙が流れた。
だが、二人とも分かっていた。
この平穏が長くは続かないことを。
アイレナとレオナルド・セリオンが直談判を行ったという事実は、すぐに女官たちの口を通じて王宮に広まっていった。
いくら嘘で真実を覆い隠そうとしても、真実は結局のところ広がっていくものだ。
そしてその話は、レオナルド・セリオンの一人娘、ベロニア・セリオンの耳にも届いた。
「んん!? 父上とその王女が直談判を行って勝ったというのか?」
「はい、姫様。怯えながらも勇敢に立ち向かったそうです。そのことで、陛下は王女様をかなり信頼されているようです。我々にも何度も、勇気ある者だとお褒めになっていました。」
「ほう」
ベロニア・セリオンは王国では「姫」と呼ばれていたが、彼女を初めて見る者はしばしば勘違いしたものだった。
きちんと整えられた短い金色の髪、到底姫とは思えない野生馬のような眼差し、そして行動に一片の迷いもない堂々とした歩き方。
だがそんな姿とは裏腹に、ベロニアは可愛いものを見るとどうしても我慢ができなかった。
腰に下げている小さな熊のぬいぐるみ、庭にやって来る小鳥たち、そして──今まさに対決を終えて戻ってきた十二歳の王女。
そのすべてが、彼女の好奇心と愛情の対象だった。
「あの……もしかして、お会いになりたいのでは……?」
侍女たちは、理由もなく不安を覚えながら顔を上げた。
彼女たちが伝えた話を真剣に聞いていたベロニアの瞳が、いつもよりも強く輝いていたからだ。
「私が直接、父上に話をつける。お前たちは心配せずともよい!」
「姫、姫様!」
侍女たちが止める間もなく部屋を飛び出したベロニアは、慣れた様子で大殿の玉座の扉を開け、声高に叫んだ。
「父上! 父上のたった一人の大切な娘が、願いがございます!」
「おお……!?」
突然、扉が開くと同時に、この世で最も愛しい娘、ベロニアが姿を現し、レオナルド・セリオンはあからさまにうろたえた。
今の彼の顔は、アイレナと直談判を繰り広げた国王のものではなかった。
どこにでもいる、ただの平凡な父親の顔でしかなかった。
レオナルド・セリオンは戸惑いを隠すように、わずかに震えた声と表情をすぐに消し、静かに問いかけた。
「それで、急にどんな願いが生まれたのだ?言ってみるがよい。聞いた上で、叶えるかどうか決めよう」
ベロニアは小さく頷くと、玉座の前に膝をつき、頭を垂れて答えた。
自分が王女であることを除けば、やはり許しを請わねばならぬ一人の臣下にすぎなかったからだ。
「父様と対話されたという、あのエイルナスの王女に……どうかお会いさせていただけませんか?侍女たちから噂を聞き、どうしてもじっとしていられませんでした。どうかお願い申し上げます、父上」
「ふむ……」
レオナルド・セリオンは片手で顎に触れ、しばし深く思案した。
その眼差しは、単に娘の願いを聞き入れるかどうかを考えるものではなく、二人が会うことで王国にもたらされる利と不利益を秤にかけているようにさえ見えた。
長い沈黙の末、ようやくゆっくりと口を開いた。
「そう、許可する。その王女にも、きっと同じ年頃の友が必要だろう。どれほど騎士団長が付き添っていようとも、所詮は保護者に過ぎぬのだからな」
「父上……そこまで考えで……」
「エイルナスが滅んだとはいえ、我らは彼らの友好国だ。王国同士の信頼をそう簡単に捨てるわけにはいかぬ。そして……」
そこまで言うと、レオナルド・セリオンはひと息つき、再び言葉を続けた。
「この世で最も大切なたった一人の娘の願いが、それだけのことだというのに……聞き入れぬ父親がいるものか」
彼は口元にかすかな微笑を浮かべた。
ベロニアが一度心に決めたことには、どうしても勝てない――それを誰よりも知っていたからだ。
「ありがとうございます、父上……いえ、陛下」
レオナルド・セリオンに向けられたベロニアの微笑みは、慈愛深い父を持つ娘の誇らしさそのものだった。
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本作は本作は「第13回ネット小説大賞」に応募中です。
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