05. 監視者
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今日も昇った朝の陽ざしは、窓の向こうに広がる庭園をやわらかく照らしていた。
色とりどりの花々が咲き誇る庭の中央には、小さな噴水が据えられ、いつか訪れる誰かのために、澄んだ水を一定のリズムで吹き上げていた。
庭のあちらこちらから聞こえてくる鳥たちのさえずりは、それを聞くだけで心を穏やかにし、
その光景は自然と「平和」という言葉を呼び起こすのに十分だった。
だが、アイレナとリオネル・バレンには、その平穏がどこか馴染まなかった。
まるで何か大きな出来事が目前に迫っているかのような、嵐の前の静けさ。
そして──その静けさの中にあって、決して似つかわしくない無数の視線。
それはまだ、セルカディア王国が彼らを完全には信じていないという、明確な証だった。
「ねえ、団長……」
「はい」
アイレナはできるだけ声を潜めて囁いた。
「……いつの間にか、私たちを見張る人が増えた気がする。気のせいじゃないよね?」
リオネル·バレンの心は重かった。
もし自分たちがエイルナスの普通の使節団だったなら、セルカディア王国は果たしてこんな態度を取っただろうか。
彼らは既に知っていたのだ。
エイルナスは敗北し、王国は滅びたのだと考えてみれば、それはごく当然の反応かもしれない。
「……耐え難いかもしれませんが、今はどうかお堪えください、アイレナ様」
アイレナは静かにうなずき、そっとリオネル・バレンの手を取り、ぎゅっと握った。
「ここまで逃げてこられたのは、全部あなたのおかげだよ。そんな団長がそう言うなら……我慢しなきゃね」
リオネル・バレンは、力なく肩を落とした。
だが、ふとある疑問が胸をよぎり、アイレナに問い返した。
「ですが……どうしてそのことにお気づきになったのですか? 私ならともかく、アイレナ様が気づくのは難しかったはずですが」
わずか十二歳の幼い少女が、その事実に気づくなどというのは、ほとんどあり得ないことだった。
「実はね──」
次にアイレナの口からこぼれた言葉は、リオネル・バレンにとってまったく予想外のものだった。
「実は、あの壁画の黒い竜に祈ってから……頭の中に声が聞こえるの。『気をつけろ。誰かがあなたを見ている』って」
昔から、竜とは人の予想を遥かに超える存在だった。
その口から放たれる炎は、いかなる英雄をも寄せつけず、その巨体に見合う二つの翼は、空を覆い尽くすほどに巨大だった。
ゆえに人は竜を守護神のごとく崇め、畏れ敬った。
戦乱の絶えぬこの混沌とした時代において、どうか老いによって人生を終えられますようにと、竜に祈りを捧げながら。
だが、それはあくまでも人から人へと語り継がれてきた、確証のない伝承にすぎなかった。
いくら世界を探し回っても、竜などどこにもおらず、ただ語られ、壁画に描かれ、絵として残されてきただけの存在だった。
それなのに黒い竜、だと?
リオネル・バレンには、その話をどうしても信じることができなかった。
「例えば、こんな感じ」
ベッドから起き上がったアイレナは、窓をそっと開けると、あごで静かに庭を指し示した。
そこには花々と、庭師が丹精込めて刈り揃えた緑の庭木たちが広がっていた。
「あの木々の間にね、ずっと私たちを見つめている目があるの。朝になっても、夜になっても、ずっと」
その言葉を言い終えると、アイレナはまた静かに窓を閉め、ベッドに腰を下ろした。
ほんの数秒の短い動作だったが、遠くから見れば、ただ庭の風景を一瞬眺めただけにしか見えないだろう。
「信じがたい話ですが、アイレナ様のお言葉……信じるしかないようですね」
アイレナは静かにうなずいた。
「アイレナ様の言う通り……もしあの兵士が、我々を監視せよとの命令を受けているのなら、私たちは逃げるしかありません。このままでは手足を縛られ、何もできなくなってしまいます。ですが、もしそれが他の者の命令によるものだとすれば……」
リオネル・バレンの懸念を聞いたアイレナは、しばらく考え込んだあと、ゆっくりと視線を上げた。
その瞳には、はっきりとした決意の光が宿っていた。
「今、私の頭に浮かんだその方法……きっと、団長も考えていたでしょ?」
リオネルは息を呑んだ。
彼女の眼差しが意味するところを、あまりにもよく知っていた。
「ダメです! それだけは!」
リオネル・バレンは反射的に声を荒げた。
すぐに彼女の肩をつかんで制し、首を横に振る。
「それはあまりにも危険です! 国王に直接問いただすなんて……もし本当に陛下の命令だったら、一体どうなさるおつもりですか?」
だが、アイレナの表情にはすでに揺るがぬ決意が宿っていた。
「このままじっとしていたら、何もできずに終わってしまう。最悪の場合、私たちはクラディア帝国に引き渡されるかもしれない。それなら……その前に、セレカディア王に証明しなくちゃ。私たちがこの国に留まるべき理由を」
リオネル・バレンはごくりと唾を飲み込み、彼女の次の言葉を待った。
「それにね……王に警告することもできる。側にいる誰かが、違う野心を抱いているって。そうなれば、王と家臣の間に亀裂が生まれる。その隙を……私たちは狙うのよ」
リオネル・バレンは黙ってアイレナを見つめた。
その顔に浮かぶ決意を目の当たりにし、もはや止めることはできないと悟った。
そしてついに、静かに頷いた。