01. 逃亡の日
初めまして、私はkonoko58と申します。
本作は「第13回ネット小説大賞」に応募しています。
崩れ落ちた城壁、引き裂かれた旗──
それは敗北の証であり、焼け落ちた絶望の象徴だった。
しかし、灰の中に火種一つは生き残り、
生き延びるために、そして復讐のために、
少女はすべてを置き去りにし、夜の闇へと逃げ出した。
(1)
国土を呑み、人々の悲鳴すら呑み込んだ地獄の業火が、エイルナス城を焼き尽くしていた。
天を突くようにそびえ立っていた青き尖塔は黒煙の中で骨組を晒し、城壁に巣くう蛇のような炎は、次なる獲物──大殿の玉座へと向かって手を伸ばした。
華やかな金色と赤の装飾を誇っていたその玉座の主は、すでに敵国・クラディア帝国の囚われ人となっていた。
愛する民と共に。
戦に敗れるとは、そういうことなのだ。
いかなる聖王とて、戦争はいつも負けた側のすべてを奪ってしまう。
敗北の果てに残っているのは喪失だけだ。
そんな灰の中から、マントをかぶった影の一人が馬に乗って急いで王宮を抜け出した。
懐の中の何かを隠すように抱えたまま。
それは、この王国に残された最後の宝──あるいは「希望」と呼ぶべき欠片だったのかもしれない。
「少し揺れますが、耐えてください。アイレナ様。これからは、このような状況にも慣れなければなりません」
リオネル・バレンは片腕にアイレナを抱き、もう片方の手で馬の手綱を強く握りしめながらそう言った。
アイレナは燃え盛る祖国を見つめ、彼のマントを小さな手で力強く掴んだ。
「騎士団長……必ず復讐します。父上と母上、そして……私たちの民をあんな目に遭わせたあの者たちを──いつかこの手で」
彼女の年はまだわずか十二歳。
思春期を目前に控え、揺れやすい芦のような年頃であるはずなのに、彼女の瞳と胸の内に揺らめいていたのは、氷のように冷たい復讐心だった。
「……はい」
短く返事したリオネル・バレンの胸には、言葉にできない思いが込み上げていた。
本来なら、美しいものだけを見て、笑って生きてほしかった。
それなのに、この幼子がすでに「復讐」という暗い感情を知ってしまった現実が──なぜだか、自分の罪のように思えた。
彼はただ、手綱を強く握りしめることしかできなかった。
二人を乗せた馬は、闇に紛れて密かに城を離れ、手の先すら見えぬほどの暗黒を突き進んでいた。
天が崩れようとも、逃げ道はある──そう言われるように。
戦に敗れたとはいえ、今夜は朔。
月すら隠れた漆黒の夜は、逃げる者たちにとってまさに天の恵み。
まるで、彼らが信じる女神エリオナが、すべてを仕組んでくれたかのようだった。
兵たちが追ってくるのではと、何度も振り返りながら森を駆ける。
だが、耳に届くのは草虫の囁きだけ。
敵の足音ではない。
ただ静寂。ひそやかな自然の息づかい。
その沈黙の果て──闇の向こうに、荘厳なる神殿が姿を現した。
「こちらです! 団長殿! アイレナ様!」
神殿の前には、槍と松明を手にした若き兵士たちが二人、敬意を込めて駆け寄ってきた。
馬を止めたリオネル・バレンは、そっとアイレナを馬から下ろし、兵たちはすぐに彼女を支えた。
「時間がない。すぐに案内しろ」
「はっ、団長殿!」
彼らは、リオネル・バレンが最悪の事態に備え、あらかじめ把握していた神殿の奥深くへと導かれた。
松明の火が壁を照らすと、ようやく人一人が通れるほどの狭く長い隠し通路がその姿を現した。
この通路は、王国が築かれるよりも前から存在していた、神殿の地下に隠された秘密の抜け道。
その存在を知る者は、王や騎士団長など、ごく限られた者のみだった。
「……団長、私たちはこれから……どうなるの?」
それまで黙って後をついていたアイレナが、唇をかみしめながら静かに口を開いた。
まるで、この現実を否定してほしいと願うかのように。
だが、リオネル・バレンは静かに首を振った。
そして残酷なほど真剣で、揺るぎない声で答えた。
「その答えは──すでに胸の内にあるはずです、姫様。私、リオネル・バレンは……この剣と命をもって、あなたをお守りします」
「……うっ」
その光景を見守っていた兵たちは、誰一人として言葉を発することができなかった。
まるで王に捧げる忠誠の誓いのように──高貴で揺るがぬ姫のため、騎士団長が捧げた無言の決意。
今は敗れて逃れる身であっても、いつの日かこの姫が王国を再興するだろう。
それは予感ではなく、確信だった。
だからこそ、まずこの二人を生かさねばならない。
「団長殿、アイレナ様……まもなくクラディア帝国の兵がこの場所に気づくでしょう。ですから、この隙に、どうかお急ぎください」
「お二人が無事に脱出されたのを確認し次第、この神殿は、我らが跡形もなく吹き飛ばします。どうか……生き延びてください。それだけが、我らの願いです」
リオネル・バレンは無言のまま、兵たちの肩に手を置いた。
そして、その手に力を込め、短く、しかし深い声で言った。
「……すまない。今の私に言える言葉は、それしかないのだ」
二人の胸の内には、すでに命を賭した忠義の炎が宿っていた。
絶体絶命の中、涙一つこぼさぬアイレナを見て、兵たちは思った。
まだ十二歳。
普通なら「帰りたい」と泣きじゃくる年頃。
それでもアイレナは、すでに知っていたのだ。
笑って一日を過ごせた、あの頃にはもう戻れない──冷酷な現実を。
松明を受け取ったリオネル・バレンとアイレナは、暗く湿った隠し通路へと足を踏み入れた。
燃え上がる祖国と──己らのために命を捧げた兵たちの姿を背にして。
やがて、二人の兵士の姿は闇に呑まれ、完全にその影を消した。
通路をしばらく歩いたそのとき、地面が揺れ、大きな轟音が響き渡る。
神殿が崩れ落ちる音。
それは、もう二度と戻れぬ場所となったことを告げる、最後の別れの音だった。
アイレナは足を止め、静かに振り返った。
入口へとそよぐ風に乗って、彼女の涙も、ため息も、そして弱さも──永遠に吹き消されていった。
やがて再び、リオネル・バレンとともに歩き出しながら、アイレナは心の中で静かに誓った。
必ず取り戻す。
すべてを失ったこの王国を──この手で、再び取り戻すと。